香水やスプレーを使うと、室内の空気で何が起こる?

香水やスプレーを使うと、室内の空気で何が起こる? 香りの科学

香水やボディスプレーを使ったあと、部屋に広がった成分はどうなるのでしょうか。空気中に出た成分が、そのまま薄まっていくだけとは限りません。別の物質と反応して、新しい成分や小さな粒子に変わることがあります。

2024年、Tianren Wuらは、香りのある身の回りの5製品を実験室で使い、放散する成分と、オゾンがある空気中での変化を調べました。これは症状の発生を確かめた研究ではなく、吸い込む可能性のある空気の中身を調べた研究です。製品に最初から含まれている成分に加え、使用後に生まれる成分にも目を向ける必要性を示しています。

製品から出る成分と、その後の反応を分けて調べる

実験に使ったのは、香水、ボディスプレー、ドライシャンプーのヘアスプレー、ハンドローション、ロールオン式の制汗・デオドラント製品です。各タイプから選んだ市販の1製品ずつを、容積62立方メートルの、オフィスを模した実験室で調べました。

研究者はまず、製品から直接出る揮発性有機化合物、略してVOCを測定しました。次に、室内にオゾンを加え、VOCが反応したあとにどんな気体成分や粒子が生まれるかを測りました。オゾンは反応性の高い気体で、この実験では濃度を35〜40 ppbに維持しています。

二つの実験では換気量も異なります。直接の放散を調べる実験は1時間あたり室内容積の3倍に相当する空気を入れ替え、酸化反応を調べる実験では0.65倍としました。そのため、両者の濃度差を、オゾンを加えた効果だけとして読むことはできません。研究者は成分の時間変化も比較し、直接出たものと反応で生まれたものを区別しています。

200を超えるVOCが出ても、働きは一様ではない

5製品を通じて、直接放散するVOCが200を超えて検出されました。スプレー型の製品では、使用直後に成分が急に増え、その後に減る傾向が見られました。一方、ハンドローションとロールオン製品では、観測した1時間にわたって比較的安定した放散が続きました。

ここで「200を超える」という数は、有害物質がその数だけ見つかったという意味ではありません。VOCは空気中へ出やすい有機化合物をまとめた呼び方です。香水やスプレーから多く出たのは溶剤として使われるエタノールで、オゾンとの反応を考えるうえでは、香りに関わるテルペン類やその関連成分が重要でした。放散量の多さと、反応の起こりやすさは分けて見る必要があります。

また、測定装置には検出できる物質の範囲があります。研究者は、すべての放散成分を漏れなく捉えたわけではないことや、一部の化合物名は推定にとどまることも記しています。分子式がわかった成分についても、化学構造まで一意に確定できるとは限りません。

オゾンとの反応で、新しい気体成分と粒子が生まれた

オゾンを加えた条件では、多様な酸化生成物が検出されました。これは、製品から出た成分が反応して生じた別の物質です。著者らは、主にテルペン類やその関連成分とオゾンとの反応によって生まれたと考えています。

新しい粒子の生成も、ハンドローション、ヘアスプレー、香水、ボディスプレーを使ったあとに観察されました。非常に小さな粒子が生まれ、時間とともに大きくなっていく様子を、粒子の大きさを測る装置で追っています。研究者が追っているのは、放散した気体成分の反応に伴う新粒子の生成と成長です。著者らは、酸化で生まれた、気体から粒子側へ移りやすい揮発しにくい成分が、この変化に寄与したと解釈しています。ただし、どの成分がどれだけ寄与したかを、すべて確定したわけではありません。

この4回の新粒子生成で、100ナノメートル未満の超微粒子の数濃度は、ピーク時に1立方センチメートルあたり約3万4千〜20万個に達しました。これは粒子の個数を表す値で、後述する粒子の質量濃度とは別の指標です。

同じ条件でも、ロールオン製品では新しい粒子の生成は観察されませんでした。製品ごとに、放散する成分や量が異なるためです。この例外は大切です。今回の結果を、香りのある製品なら何を使っても同じ量の粒子ができる、という結論には広げられません。

同じ製品でも、部屋の条件で結果は変わる

補足実験では、オゾンを25〜30 ppbに下げると同時に、換気量を1時間あたり室内容積の1.83倍に増やしました。この条件で香水、ヘアスプレー、ボディスプレーを使うと、最初の酸化実験より多く製品を使ったにもかかわらず、1マイクロメートル未満の粒子の質量濃度は50%を超えて低くなりました。

ただし、オゾンと換気の両方を変えているため、「換気だけで半減した」とは言えません。反応相手の量、成分が室内に留まる時間、すでに存在する粒子などが、次に生まれる粒子の量にも関わります。製品の性質に加え、使われる空間の条件まで含めて考える必要があるという結果です。

使用方法にも、日常との違いがあります。スプレーは身体や髪に吹きかけず、室内の空気へ直接噴霧しました。ローションとロールオン製品は、ガラス板の上の紙に広げ、1時間だけ室内に置いています。体温に温めた皮膚に塗った実験ではありません。実際の使用時に、どの成分をどれくらい吸い込むかを、そのまま再現したものではない点に注意が必要です。

健康との関係を考えるために、何がわかり、何が残るか

この研究の重要な点は、製品の放散成分と、使用後の空気中でできる成分を続けて捉えたことです。製品の成分表だけでは、反応を経て人が接する空気の組成まで把握しきれません。健康との関係を調べるときにも、元の成分だけを対象にすれば十分なのか、という問いを投げかけています。

一方、今回測ったのは気体成分や粒子の濃度・大きさなどで、頭痛、喘息発作、粘膜の刺激といった健康上の結果ではありません。生成物の毒性や、日常の環境で人が受ける量との対応も、この実験だけでは決まりません。粒子が多く生まれたことから、特定の症状の原因が証明されたとは言えず、粒子数を別の大気汚染源と比べても、有害性が同じという意味にはなりません。

この範囲を押さえることは、香りに伴う不調の訴えを否定することでもありません。空気中で起きる化学反応を調べる研究と、人の症状や病気を調べる研究は、それぞれ違う部分を確かめています。今回の成果は、両者をつなぐために、どんな成分や条件をさらに調べるべきかを具体的にしたところにあります。

まとめ

香水やスプレーなどから出た成分は、実験で設定したオゾンのある環境では、別の気体成分や新しい粒子へ変化しました。その変化は製品や室内条件によって異なり、調べた5製品のうちロールオン製品では新粒子の生成は観察されませんでした。

香りのある製品と室内空気の関係を考えるときには、「何が配合されているか」に加えて、「使ったあと、どんな環境で何に変わるか」という視点が役立ちます。その化学的な変化が、実際の暮らしの中でどの程度の曝露や健康影響につながるのかは、さらに確かめるべき問いとして残っています。

参考文献

著者:Tianren Wu, Tatjana Müller, Nijing Wang, Joseph Byron, Sarka Langer, Jonathan Williams, Dusan Licina
論文名:Indoor Emission, Oxidation, and New Particle Formation of Personal Care Product Related Volatile Organic Compounds
掲載誌:Environmental Science & Technology Letters 11(10), 1053–1061(2024年)
DOI:10.1021/acs.estlett.4c00353
原著全文:Cyprus Institute機関リポジトリの公開PDF
権利表記:© 2024 The Authors. Published by American Chemical Society. CC BY 4.0。