同じ香水なのに、人によって違う? 肌からの香り立ちを調べた研究

同じ香水なのに、人によって違う? 肌からの香り立ちを調べた研究 香りの科学

友人がつけていた香水を気に入って、自分でも試してみる。すると、同じ香水のはずなのに、少し印象が違う。そんなとき、「肌との相性」という言葉が浮かぶかもしれません。実際に、肌が違うと香料の出方も変わるのでしょうか。

2025年6月、フランスのル・アーヴル・ノルマンディー大学のElise Hadjiefstathiouらは、10人の肌から放出される香料成分を機器で調べた研究を発表しました。そこから見えてきたのは、肌の特徴と香料成分の性質を、組み合わせて考える必要があるということです。

肌の上の空気を調べる

研究では、市販品そのものではなく、8種類の香料成分をエタノールに溶かした混合物を使いました。香料の合計は10%で、オードトワレを想定した処方です。蒸発しやすさや油になじみやすい性質などが異なる成分を選び、一つの混合物の中でそれぞれの動きを比べました。

参加したのは女性6人、男性4人の計10人。混合物を前腕に塗り、肌の上の空気に出てきた成分を細い繊維に集め、ガスクロマトグラフィーという分析装置で分けて測りました。ここで比較しているのは、機器の信号から見積もった成分の放出量です。参加者に香りの強さや好みを採点してもらう実験ではありません。

さらに、肌の水分量や表面の細かな凹凸、温度、pH、皮脂量なども測定しています。肌から外へ逃げる水分の量を表す「経皮水分蒸散量(TEWL)」も、その一つです。水分量が肌のうるおいの状態を見る指標なのに対し、TEWLは水分がどれくらい外へ出ているかを見る指標で、同じものを測っているわけではありません。

すべての成分が、同じように変わるわけではない

同じ混合物を塗っても、放出された成分の合計量は参加者によって異なりました。一方、成分ごとに見ると、人による違いが小さいものと、大きいものがありました。たとえば、蒸発しやすい酪酸エチルは比較的ばらつきが小さく、ヘキシルシンナムアルデヒドは大きくばらついていました。

この違いは、香水全体が一律に強まったり弱まったりするだけでは捉えきれません。ある成分は人による差が小さく、別の成分は肌によって出方が変わりやすい。研究では、こうした成分ごとの違いを、肌の測定結果と照らし合わせました。

肌の凹凸とうるおいが、成分ごとに関わる

統計的な分析では、比較的揮発しやすい成分のグループは、肌表面の凹凸を示す指標が大きいほど、放出量も多くなる傾向がありました。リモネンやミルセンなどが、このグループに含まれます。ただし、これは測定器が捉えた細かな表面構造との関連で、手で触った感触だけから香り方を予測できるという意味ではありません。

一方、シトロネロール、デカン酸エチル、ヘキシルシンナムアルデヒドのグループでは、TEWLが高いほど放出量が多く、肌の水分量が高いほど少ないという関連が見られました。こちらは、比較的揮発しにくく、油になじみやすい成分です。同じ肌の特徴でも、関わり方は香料成分によって違っていました。

大切なのは、これらが10人の肌を比べて得られた関連だという点です。肌の水分量を意図的に増減させた実験ではなく、凹凸や水分の状態だけで放出の仕組みをすべて説明できたわけでもありません。著者らも、より多くの人で確かめる必要があるとしています。

「保湿すれば長持ちする」と言える?

肌の水分量と放出量に関連があると聞くと、香水の前にクリームを塗れば長持ちするのでは、と考えたくなります。ただ、今回の研究では保湿剤を使う条件と使わない条件を比較していません。特定のクリームで何時間持続が延びるかは、この結果からは分かりません。

また、空気中に出る量が少ないことを、そのまま「良い香りが長く続く」と読み替えることもできません。今回測ったのは成分の放出であり、人がいつまで香りを感じるか、どの香り方を好むかは別に確かめる必要があります。

参加者の肌の水分量は平均すると乾燥肌に分類される範囲で、測った場所も前腕に限られます。あらゆる肌質や、首元など別の部位にも同じ結果が当てはまるかは、まだ分かっていません。「自分は乾燥肌だから、この香水は合わない」と決めるための研究ではないのです。

自分の肌で試すときの手がかりに

今回の結果を香水選びに生かすなら、誰かの感想や試香紙で気になった香水を、購入を決める前に自分の肌でも試し、つけた直後から時間を置いたときまで、印象を確かめてみる。そのひと手間には意味がありそうです。

その際は、「強い・弱い」だけでなく、どんな印象が残ったか、その変化を自分が心地よく感じたかも見ておくと、選ぶ手がかりになります。たとえば、最初に好きだった部分があとでも楽しめるか、時間がたってからの印象も好きか。これは論文で効果を検証した試香手順ではなく、自分の好みを確かめるための工夫です。

まとめ

同じ香水なのに、人によって違って感じる。その背景を考えるうえで、肌から放出される成分の量に個人差があり、その出方は成分ごとにも違うという結果は、一つの具体的な手がかりになります。香料の性質と肌の特徴が、香り立ちに一緒に関わっているのです。

だからこそ、ほかの人が語る香りの魅力を参考にしながら、自分の肌でどう楽しめるかも確かめたいところです。「肌との相性」を決まった体質のラベルとして考えるより、一つひとつの香水を実際に試す理由として受け取ると、香水選びが少し丁寧になります。

参考文献

著者:Elise Hadjiefstathiou, Géraldine Savary, Catherine Malhiac, Daria Terescenco, Céline Picard
論文名:Exploring the impact of fragrance molecular and skin properties on the evaporation profile of fragrances
掲載誌:International Journal of Cosmetic Science, 47(6), 981–995
オンライン初出・最終版公開日:2025年6月17日(巻号:2025年12月)
DOI:10.1111/ics.13085
原著全文:出版社の論文ページ/PMC
原著ライセンス:CC BY-NC-ND 4.0。本記事は研究の事実をもとに独自に執筆した解説で、原著の翻訳転載ではありません。原著の図表は使用していません。