「今この世界には、理不尽なことがたくさんあります。しかし、人と人とを結びつけるものも発見することができました。それはファッションや音楽であり、そして芸術や香りであるかもしれません。」
— ヨハン・ベルゲリン(Johan Bergelin)、創設者
基本情報
設立: 2015年(ヨハン・ベルゲリンと妻カタリナにより)
ローンチ: 2017年(パリ、コレットにて)
創設者: ヨハン・ベルゲリン(Johan Bergelin)
公式サイト: nineteen-sixtynine.com
※ブランド名の読み方について:英語表記は「19-69」だが、公式にはナインティーン・シックスティナイン(Nineteen Sixty Nine)と読む。日本では「ナインティーンシックスティナイン」と表記されることが多い。
創設者・ブランドの成り立ち
ヒッピーの家庭で育った少年
ヨハン・ベルゲリンは1969年、スウェーデンで生まれた。彼は「ヒッピーの両親のもとで育ち、そのような価値観を吸収しながら成長した」と語っている。自由・寛容・カウンターカルチャーへの親しみは、生い立ちに根ざしたものであった。
ベルゲリンは15歳で学校を中退した。その後、「創造性を核に置かない普通の仕事は自分には無理だ」という確信を持ち、絵画・写真・ヘアスタイリスト・ミュージシャンなど多彩な表現活動を重ねていく。スカンジナビアを拠点としながらも、フランスやイタリアでも写真や抽象画の制作に従事し、アーティストとしての活動歴は、取材時点ですでに35年以上に及んでいた。
特に印象的なのは、彼の香水体験が非常に具体的であることだ。「イッセイ・ミヤケのロー・ドゥ・イッセイは私にとって№1だ。一度も嗅いだことのないものだったが、何か非常に馴染みのある感覚があった。それが今、19-69の創作プロセスにおける自分の目標だ」と語るように、香りとの関係は若い頃から深く刻まれていた。
アーティストとしての世界遍歴
ベルゲリンはアーティストとして世界を旅しながら、国境を越えて存在するさまざまな文化の美しさに触れ、惹かれていった。モロッコの市場を3日間タクシーで周り、地元の運転手と友人になって行き先をコインで決めながら旅した経験が、のちの「カスバ」という香りに結実している。フロリダのキー・ウェストでは、フェザーを帽子に差し、スネークスキンのカウボーイブーツを履いたギタリスト「キーナック」と親しくなり、彼のトレーラーに充満するパチョリとウィードの香りが「パープル・ヘイズ」のインスピレーションとなった。
こうした旅の体験は、ベルゲリンにとって単なる観光ではなかった。各地の文化・音楽・アートに感動し、それをいつか形にしたいという衝動が積み重なっていったのである。
キッチンテーブルから始まったブランド
2015年、ベルゲリンは妻のカタリナとともに「自由とカウンターカルチャーの精神を体現するブランドを作ろう」と決意した。出発点はキッチンテーブルだったという。
「ブランドを始める際に明らかだったのは、市場には新しい香水ブランドなど必要ないということだ。私はいつも19-69をアート・プロジェクトとして捉えてきた。それがたまたまビジネスになったのだ」
— ヨハン・ベルゲリン
ローンチ予算はわずか500ユーロ。夫妻は2年半にわたって毎日働き続けた。「それは私たちに多大な負荷をかけたが、自分たちのやっていることを信じていた」と彼は振り返る。同時に、スカンジナビア・フランス・イタリアの職人たちとともに24ヶ月間、5種類の香水を作り上げていった。
この制作プロセスで、ベルゲリンはパートナーのシラスとマルコを加えたチームを結成した。シラスは当時のベルゲリンの創作スタイルを「ヨハンのレインマン的手法」と評した。
「ヨハンはアーティストであり写真家です。写真というのは、忍耐・計画・光への理解という3つのことについてのものです。これらがまさに19-69に応用した原則です。なぜなら彼は、あとから修正できない作業にかかるとはどういうことかを理解しているからです。最初から明確なビジョンを持ち、正しいものを作り上げる覚悟が必要だ、と。私たちがインターネット以前の脳を懐かしむのはそのためです。インターネットは若者に、準備が整う前にコンテンツを出したり製品をリリースしたりすることを促してきました。ヨハンは忍耐の価値を知っています」
— シラス(19-69 共同パートナー)
2017年:パリ・コレットでのローンチ
2017年8月、19-69はパリの伝説的なコンセプトショップ「コレット(Colette)」で5種の香水を発表した。コレットはその年の末に閉店するという歴史的なタイミングでもあった。この場所を最初の舞台として選んだことは、ブランドのカルチャー的立ち位置を端的に示している。
ローンチ以降、19-69はフランス・アメリカ・ベルギー・イタリアなど19カ国で展開を広げ、セルフリッジス、ギャラリー・ラファイエット、リバティ・ロンドンといった高級セレクトショップで取り扱われるようになった。日本では2020年7月に初上陸し、阪急メンズ東京をはじめ、ユナイテッドアローズ・トゥモローランド・スーパー エー マーケットなどで展開を開始した。
そして2025年には、19-69はミラノのゴールデン・トライアングルに位置するヴィア・ボルゴスペッソ18番地に初の旗艦店を構えていた。フェラガモやセリーヌに隣接するエリアに、スモールブランドとして居を構えるこの決断は、ベルゲリン自身が「限られた予算の中で、その制約がストアの個性になる」と語るように、19-69らしい哲学が貫かれている。
ブランドのこだわり
「匂いに性別はない」—ジェンダーレスという哲学
19-69の全フレグランスはジェンダーレスである。これはマーケティング上の決断ではなく、ブランドの価値観から自然と導き出されたものだ。
「ジェンダーレスのフレグランスを作ることは、私たちにとって積極的な決断ではなかった。ブランドの価値観と誠実さの一部として、自然とそうなっただけだ。すべての香りはすべての人のためにある」
— ヨハン・ベルゲリン
ベルゲリンはこう続ける。「鼻に性別はない。男性と女性で違うわけではない。だから、ふたつに分ける必要があるという考えは受け入れられない。その分離はもはや無意味だ」。
香りづくりの工程——ストーリーから始まる旅
19-69の香水制作は、まず「物語のブリーフ」を書くことから始まる。そのブリーフを調香師(ノーズ)たちに渡し、時間をかけながら香りを調整していく。
「老舗的なアプローチを取りたかった。この10年ほどのフレグランスの多くは非常に軽くなっている。だから私たちは、存在感のある伝統的なノートに立ち返ることで差別化を図りたかった。正しい香りになるまでに、それぞれ少なくとも100通りのバリエーションを試した」
— ヨハン・ベルゲリン
この繰り返しの洗練プロセスを担ったのが、アン=ソフィー・ベヘゲル(Anne-Sophie Behaghel)、ダリオ・ヴォルポーネス(Dario Volpones)、アメリー・ブルジョワ(Amélie Bourgeois)ら、フランス・イタリア・スウェーデンの調香師たちであった。
ボトルとパッケージ——虹色の哲学
19-69のガラスボトルはイタリアでラッカー塗装とスクリーンプリントを施したもの。各ボトルの色は異なり、コレクション全体を並べると虹を形成する。この虹は、1969年当時「平和と自由」の象徴として用いられていたもので、ブランドの理念そのものが凝縮されている。
各フレグランスはすべてハンドメイドであり、「わずかな個体差はキャラクターの一部として受け取るべき」とされている。また、それぞれの箱には「フレグランス・ジャーニー」と題した小冊子が同梱されており、その香りの着想となったストーリーが記されている。全商品はヴィーガン・クルエルティフリー対応である。
素材へのこだわり
全ての原材料を精査・厳選し、最高品質を担保することを方針としている。ベルゲリン自身は「トップノートへの執念」を自らのクリエイターとしての特徴だと語り、「最初の一吹きの瞬間が入り口だ」と述べている。
香水ラインナップ
19-69のフレグランスはすべて、特定の時代・文化・場所・出来事を物語の核に持つ。本稿では大きく「19-69オリジナルコレクション」と「コラボレーション作品」に分けて紹介する。
オリジナルコレクション
2017年のローンチ以来、作品数は20を超えている。各香水にはインスピレーション源となった出来事や場所が明確に設定されており、ベルゲリン自身が語るように「フレグランスを通じた社会的なコメンタリー」を体現する。以下に代表的な作品を紹介する。
パープル・ヘイズ(Purple Haze)
1969年のウッドストック、ヒッピームーブメントと創造的自由への讃歌。アーシーでウォームな香り。カンナビス・パチョリ・ドライサイプレスにブラックペッパーとベルガモットを重ねた。
カプリ(Capri)
ジャン=リュック・ゴダールがブリジット・バルドーを主演に迎えてカプリ島のマラパルテ邸で撮影した映画『軽蔑』(1963年)にインスパイアされている。地中海の陽光を感じさせるフレッシュシトラス系の香り。
カスバ(Kasbah)
1960〜70年代のマラケシュのカラフルなパーティーシーンに捧げられた一作。ベルゲリンが3日間のモロッコ旅行で体験した自由と逸脱の精神が込められている。ウッディでオリエンタルスパイスの香り。
レインボー・バー(Rainbow Bar)
ロサンゼルスのサンセット・ストリップにある実在のバー「レインボー・バー&グリル」をモチーフに、1980年代グラムロックの熱気と1960〜70年代の西海岸ライフスタイルを表現。エレミ、ベルガモット、バーボン、ベチバーの組み合わせ。
レール・バルベス(L’air Barbès)
イヴ・サンローラン(YSL)の象徴的なタキシードスーツ「ル・スモーキング」と、ヘルムート・ニュートンのモノクロ写真にインスパイアされたパリへのオマージュ。コンクリートとインクのミネラルな香りが特徴。
フィーメイル・クライスト(Female Christ)
1969年、アーティストのレーネ・アドラー・ペーターセンが裸体で十字架を持ってコペンハーゲン証券取引所を歩いたパフォーマンス・アート作品に着想を得た。アーシーでウッディな香り。
チャイニーズ・タバコ(Chinese Tobacco)
東洋と西洋、古いものと新しいものが交差する瞬間の空気を閉じ込めた香り。フランシス・フォード・コッポラの映画『地獄の黙示録』からインスパイアされている。タバコ・シダーウッド・ウード・ベチバーの香り。
アメリカン・サイコ(American Psycho)
2025年発売。ブレット・イーストン・エリスの1991年の小説を原作に、エリスとベルゲリンが数ヶ月をかけて共同制作した初の公式香水である。ベルガモット・セージ・ジャスミンにスパークリングウォーターのようなアコードを組み合わせ、主人公パトリック・ベイトマンが「実際に纏うだろう香り」を追求した。エリスとベルゲリンはさらなるコラボレーション作品も制作中とされている。
コラボレーション
パーム・エンジェルス × 19-69(2021年)
イタリアのファッションレーベル、パーム・エンジェルスとの共同制作。カリフォルニアのエネルギーに着想を得た3種——オレンジ・クッシュ(スケートボードの起源)、バーニング・パーム(ロサンゼルスのノワール)、カクティ(ジョシュア・ツリー)——が生まれた。
インテル(インテル・ミラノ)× 19-69(2025年)
イタリア名門サッカークラブ、インテル・ミラノとのコラボレーション。ミラノというブランド双方の拠点から着想を得た「インテル 19-08 ブラック」と「インテル 19-08 ブルー」の2種を発表した。
ちなみに……
「ケチャップの香水」への挑戦
ベルゲリンは2024年のインタビューで、ハインツ・ケチャップをオー・ドゥ・パルファンにする試みをしていると明かした。「キッチンにある日常的なものだが、素晴らしい歴史がある。アンディ・ウォーホルとの結びつきもある。難しい挑戦だが、そこにやりがいがある」と語っている。ただし、「まだ辿り着けていない」とのことである。
虹色のビーチ小屋のエピソード
19-69の世界観の「ムードボード」になったのは、実はベルゲリン家のビーチ小屋だったという。ベルゲリンと妻カタリナは老朽化したビーチ小屋を虹色に塗り、フラフープで作った巨大な白いピースサインを描き、「ア・ヒューマン・ファミリー(A human family/人類という家族)」と書いた。その行動が周囲の共感を呼び、2人に19-69の核となる美学を確信させた。
ケヴィン・コスナーとの邂逅
俳優のケヴィン・コスナーは、ホテルで使った「レインボー・バー」のボディウォッシュを気に入ったことをきっかけにブランドと接点を持ち、2026年にはミラノでのプレゼンテーションにも参加したと報じられている。コスナーのチョイスはベルゲリン本人も驚かせたと伝えられている。
参考文献
- "A Lesson in Aromachology with 19-69"
- "Getting nosy with Swedish scentmaster Johan Bergelin" (Substack, Nick Carvell, 2024)
- "10 Questions with Johan Bergelin of 19-69 Luxury Perfumes" (Earl of East)
- "19-69 by Johan Bergelin: iconic fragrances" (The Stylemate, interview by Nina Prehofer)
- "19-69 All Perfumes & Information" (Parfumo)
- "GATE – 19-69 Brand History"
- "Palm Angels launches debut scent with 19-69" (Fashion Network, 2021)
- "ELLE Editors Try the New American Psycho Perfume" (ELLE, 2025)
- "Inter collaborazione 19-69" (Inter.it, 2025)
- "19-69 fragrance brand" (Fashion Press Japan)
- "All the Juice on Kevin Costner's New Project in Fragrances" (Yahoo Entertainment, 2026)
- Kitchener.ch – 19-69 brand page
- Ingla.de – 19-69 brand statement
- NINETEEN SIXTY NINE
- 19-69 » Fragrances, Reviews and Information – Parfumo
- 19-69 香水 パフューム 通販 正規店 フェートン
- 19-69 | Hotel Amenities Vanity Group
- 19-69 Yes Please! Eau de Parfum 30ml at CareOfCarl.com
- 19-69 All Perfumes & Information – Parfumo
- Perfume 19-69 Nineteen-sixty-nine – BEBE Concept
- 19-69 オードパルファン100ml|トゥモローランド 公式サイト
- 19-69 NINETEEN-SIXTYNINE RAINBOW BAR 100ML SPRAY EAU …
- 19-69 NINETEEN SIXTY NINE / ナインティーンシックスティーナイン
- 19-69 – Godshot studio
- PALM ANGELS UNVEILS FRAGRANCE OFFERING WITH …
- Palm Angels x 19-69 Fragrance Launch
- 19-69公式「レインボー バー」
- 19-69公式「アメリカン サイコ」
- ピッティ・フラグランツェ「19-69」出展者情報
- ケヴィン・コスナーと19-69


