XERJOFF(セルヨッフ)|香りと器をともにつくる、二人の創業者の仕事

セルヨッフ|ナクソスと石材・水晶の造形をイメージした背景

自分を調香師よりも、アートディレクターと呼びたいと思います。

セルジオ・モモ

香りを思い描き、調香師と方向を確かめ、その香りを収める器までつくる。XERJOFF(セルヨッフ)の共同創業者セルジオ・モモは、自分の仕事をそのように捉えている。石をあしらったフラコンや金色のキャップは、香水が完成したあとに加える飾りだけではない。

モモの構想を、素材や職人、製造の仕事へつなぐのが共同創業者ドミニク・サルヴォである。二人の歩みをたどると、セルヨッフの華やかな外観の奥に、香りと物を一つの作品として成立させようとする判断が見えてくる。

基本情報

  • 国・拠点:イタリア、トリノ
  • 共同創業者:セルジオ・モモ(Sergio Momo)、ドミニク・サルヴォ(Dominique Salvo)
  • 正式創業:2007年。初期の構想と試作はそれ以前にさかのぼる
  • 主な展開:香水、ホームフレグランス、ボディ・ヘア向け製品
  • 公式サイト:Xerjoff

創設者とブランドの成り立ち

香りのある家庭と、絵を描く日々

モモにとって、香りは幼い頃から家族の日常にあった。祖母が見せてくれたのは、贈り物のランバンやコティの香水の箱である。父と母も、自分たちで選んだ香水を楽しんでいた。

旅好きの父は、香や木の素材を持ち帰り、山では花の匂いに注意を向けさせた。一方のモモは、一日中描いていられるほど絵が好きだった。両親に後押しされてデザインを学び、17歳の頃には授業のあと、小さなデザイン事務所へ通う。卒業後はその仕事に加わった。

やがてロンドンへ渡り、ソーホーのエージェンシーで写真家やコピーライターと働く。イタリアへ戻ってからは、デザイン会社のクリエイティブディレクターを務めた。香りを愛する家庭と、視覚や伝え方を扱う仕事。その二つが、のちの香水づくりの土台になる。

石の小瓶を、自分の作品へ

モモは、デザインの仕事が価格競争へ傾いていたことに違和感を覚えたと振り返る。別の表現を求めて学んだのが、グラースでの香水や蒸留だった。父が中国から持ち帰った、水晶を彫った小さな香水瓶も着想になる。香りだけでなく器をつくるため、ヴァレンツァ・ポーの職人を訪ねた。

モモ自身は、構想の始まりを2003年と語っている。初期にはElleとHommeを特別な水晶のフラコンに収め、デザインの仕事を続けながら試作を進めていた。

私の考えは、最良の天然原料を、イタリアの職人技、芸術性、デザインと結びつけることでした。

セルジオ・モモ

モスクワでその香水と器に惹かれた顧客から注文を受け、個人の構想が事業へ動き出す。2007年、トリノでモモとサルヴォがセルヨッフを正式に創業し、最初の17/17 Stone Labelを発表した。

構想を製品へつなぐ、二人の役割

サルヴォは、事業が形になる過程でモモが迎えた共同事業者である。現在の仕事については、創作の構想を現実の製品へ移すために、素材、職人、供給先、製造の時間を調整する役割だと説明している。

モモは、思い描く香りの方向を提示し、調香師の制作と調整に関わる。香りを実際に組み立てる調香師と、全体を導くアートディレクション、製造を成立させる仕事が重なって、一つの製品になる。

Xerjoffという名前にも、本人の歩みが残る。祖母が呼んだJoffと、ロンドンの同僚が使ったSirが結びついたという。海外へ広がった今日の接点には、ロンドンのハロッズ サロン・ド・パルファム内のブティックもある。

Casamoratiの歴史を受け継ぐ

2009年には、ボローニャでクラウディオ・カサモラティが始めた香水事業の流れを受け継ぐ、Casamoratiを復活させた。二つのCを組み合わせた商標が出願されたのは1888年。その後の休止を経て、セルヨッフが権利を取得し、元のフラコンやロゴを受け継いだ。

セルヨッフ自体の創業と、19世紀にさかのぼるCasamoratiの歴史は別である。ここで行っているのは、自分たちの新しい作品を生む仕事に加え、過去の意匠や香水文化を現代へ渡す仕事でもある。

ブランドのこだわり

素材と製造の間で、完成を見極める

サルヴォが完成の条件とするのは、香りの構想だけではない。安定性や原料の品質、技術的な基準を満たし、その作品が語る物語にも納得できることが必要になる。

制作の時間を無理に縮めることはありません。

ドミニク・サルヴォ

物語が定まらず、自分たちを納得させられなければ、その香水は先へ進まないという。造形の美しさと製造の実現性を行き来しながら、構想を最後まで保つ。その仕事に、サルヴォの判断がある。

石と王冠の形に、香りの物語を持たせる

セルヨッフを見分ける手がかりとなるキャップは、サルヴォのデザインである。トリノのエジプト博物館を着想源に、古代エジプトの赤い王冠デシュレトの形を取り入れた。土地の美術や歴史が、手に持つ物の輪郭へ移っている。

Homme、Elle、Irisssなどが属する17/17 Stone Labelでは、手でカットした半貴石をフラコンにあしらう。ロンドン自然史博物館の展示から着想を得た、自然の素材と人の加工を出会わせる仕事だ。

2009年に続いたShooting Starsは、1947年に東シベリアへ落下したシホテアリニ隕石を題材にする。NioやUdenを含むこのシリーズでは、石の色や模様とは異なる、地球の外から物質が届く物語が入口となる。同じ自然の素材でも、どの時間や出来事を見つめるかで作品の出発点が変わる。

土地の記憶を、素材の重なりへ

国際的なコレクションの一つ、1861はイタリア統一150周年のために生まれ、Renaissance、Naxos、Zefiroなどを含む。イタリアの文化や風景を、香りで捉える試みである。

シチリアへのオマージュであるNaxosでは、ラベンダーやベルガモットに、ハニー、シナモン、タバコリーフ、バニラなどを重ねる。爽やかなハーブや柑橘と、甘さやタバコの要素を同居させる構成だ。島を表す方法が、単純な柑橘の明るさだけに収まっていない点に関心を持ちたい。

一方、Oud Starsは旅行家イブン・バットゥータの旅と、訪れた都市を主題にする。Alexandria IIでは、リンゴ、ラベンダー、ローズウッドから、ローズやシダーウッド、ラオス産ウードへとつなぐ。

ここでは、木の香りの周囲に果実や花を置いている。Naxosの甘さとタバコ、Alexandria IIの花と木というように、主役の素材を何と組み合わせるかをたどると、華やかなボトルの中にある違いも見えやすくなる。

果実の強さを、柑橘とスパイスへ動かす

瞬間や場所、感情を香りへ移すVibeには、Erba Pura、Erba Gold、Accentoなどがある。モモは、作品を市場の流行から決めるよりも、創作の発想から進める姿勢を語っている。

私たちには、新しいものをつくろうとする芸術的な姿勢があります。

セルジオ・モモ

その具体例がErba Goldである。Erba Puraと共通する核を残しながら、強い果実感から、より柑橘とスパイスに重心を移した。同じ発想から出発しても、香りを支える要素を動かせば、別の表現になる。二作の近い名前にも、こうした制作の試みがある。

音楽家の記憶を、香りの素材へ置き換える

Blendsでは、音楽など別の創作分野と交わる。Black Sabbathのギタリスト、トニー・アイオミとつくったTony Iommi Monkey Specialは、彼にとっての1960年代後半のロックを香りへ移す作品だ。

制作では、アイオミが公演で接してきたレザーやラム、熱気、パチョリのコロンの記憶をモモに伝えた。公式ノートにあるラム、レザー、パチョリと、キャラメルやバニラの組み合わせを見ると、記憶の題材をそのまま並べるだけでなく、甘さも含む一つの香りへ整える仕事が見えてくる。

石を加工すること、過去の意匠を受け継ぐこと、音楽家の記憶に耳を傾けること。セルヨッフでは、そうした異なる仕事が、香りと器をともにつくるための具体的な入口になっている。

参考文献