PARFUMS DE MARLY(パルファム ドゥ マルリー)|十八世紀の美意識を現代の香水へ

パルファム ドゥ マルリー|デリナと宮廷文化をイメージした背景

香水は何よりも芸術である。

ジュリアン・スプレシェール

立ち上がる二頭の馬、ピンクの房飾り、堂々とした色のボトル。PARFUMS DE MARLY(パルファム ドゥ マルリー)が香水にまとわせる意匠には、十八世紀のフランスへの関心が通っている。その世界をつくったのは、香水の流通を担う家業で経験を積み、自分の感性を作品へ移す道を選んだジュリアン・スプレシェールである。

基本情報

  • 創設年:2009年
  • 創設者・アーティスティックディレクター:ジュリアン・スプレシェール(Julien Sprecher)
  • 国:フランス
  • 主な分野:香水
  • 公式サイト:Parfums de Marly

創設者とブランドの成り立ち

香水に囲まれた子ども時代と、家業の流通事業

スプレシェールは、パリ西方のサン=ジェルマン=アン=レーに生まれた。家にはさまざまなブランドの香水があり、幼いころから香料や香りの系統を覚えていった。父は中東でゲランに関わる香水の仕事をしており、息子も家族の流通会社でアジアや中東の市場に接していく。

香りは仕事の知識であると同時に、個人的な記憶にも結びついていた。好きなオレンジブロッサムの香りは、子どものころの菓子を思い出させるものだった。多くの香水を知る環境と、暮らしのなかで覚えた匂い。その両方が、彼の感性を育てている。

他社のブランドを扱う年月を経て、転機となったのは、自分の香水をつくると決めたことだった。

自分の創作を通じて、自分自身を表現するときが来たと感じました。

ジュリアン・スプレシェール

2009年の創設と、マルリーの歴史への関心

2009年に創設したメゾンの名前には、出生地に近いマルリーの歴史を選んだ。スプレシェールが長く惹かれていたのは、十八世紀の城と宮廷をめぐる世界である。香水と歴史という二つの関心が、ここで一つにつながった。2009年11月にアラビア半島で香水を発売し、翌年にはイタリアとドイツへ展開した。

王が近しい人々を招き、ヴェルサイユの厳しい作法から離れて過ごしたマルリー。メゾンは、その場に見いだす自由や祝祭の気分を、現代の創作へ取り入れている。十八世紀を思わせる装いのなかにも、自分の感性で香りを選び、表現する余地を求めているのである。

その姿勢は、香水の均質化への違和感とも結びついていた。スプレシェールは、商業的な条件に香りを合わせていく仕事より、個人的な着想と情熱を掘り下げる芸術として香水に向き合いたかった。色と華やかな装飾を選んだボトルにも、当時のニッチ香水に多かったミニマルな佇まいとは異なる道を進む意志があった。

調香師との対話で、香りの輪郭を決める

アーティスティックディレクターとしてのスプレシェールは、作品ごとに目指す方向を考え、その企画に合う調香師を選ぶ。制作方針を伝える最初のやり取りから、試作を嗅ぎ、再び調香師へ返す過程を重視している。開発に二年ほどを費やすこともある。

2019年のKalan(カラン)で語ったのは、立ち上がりとベースが明確で、素材とアコード、つまり香りの組み合わせが丸く調和することだった。宮廷のイメージを掲げるだけでなく、香りがどのような輪郭を持つかまで、協働のなかで考えるのである。

古典的な香水を愛しながら、現代的でいることもできる。

ジュリアン・スプレシェール

この考え方は、歴史を着想源にしながら、今の調香師の技術や素材を使うメゾンの仕事をよく表している。

男性向けの作品から、デリナとその後の展開へ

メゾンは当初、ペガサスやレイトンなど男性向けの作品で知られるようになり、女性向けの創作へも表現を広げた。その歩みのなかで、2017年に登場したDelina(デリナ)は大きな節目になる。ローズを中心とするこの作品は、後にエクスクルーシフ、ラ ロゼへと展開し、一つの花を異なる空気のなかで描く創作につながった。

2023年には、海外での成長と販売経路の拡大を支えるため、アドベント・インターナショナルによるグループへの過半数出資の合意が発表された。創設者は株主として残り、会長とクリエイティブディレクターの役割を続ける枠組みだった。2024年からはルーヴル美術館の装飾美術部門、クレッサンの諸室と家具の修復も支援している。十八世紀への関心は、香水の着想から、その時代の工芸を受け継ぐ活動へも広がっている。

ブランドのこだわり

デリナのローズを支える、天然香料と現代の香料

デリナを手がけたのは、調香師のカンタン・ビシュ(Quentin Bisch)である。最初の提案はすぐに採用されたわけではなく、調香側が働きかけて見直され、一か所の修正を経て形になった。創設者が方向を示す仕事と、調香師が自分の提案を押し進める仕事が交わった作品である。

ビシュが組み合わせたのは、トルコ産の天然ローズと、ジボダンの香料Petalia(ペタリア)だった。ビシュはこの香料を使い、ライチを思わせるみずみずしさと新鮮なローズの印象を、香りの初めから終わりまで保とうとした。現行のデリナも、ライチやルバーブをローズに重ね、ムスクとカシュメランへつなぐ構成を掲げている。

派生作では、同じ花の周囲にある光や湿度が変わる。2018年のDelina Exclusif(デリナ エクスクルーシフ)は夜の庭へ、2021年のDelina La Rosée(デリナ ラ ロゼ)は、まだ花が開ききらない朝露の時間へと発想を進めた。ラ ロゼについて、ビシュはこう語る。

透明でありながら、なお力強いのです。

カンタン・ビシュ

みずみずしさと存在感を一緒に考えるこの仕事に、花の原料と現代の香料を組み合わせる意味が見えてくる。メゾンも現在、天然素材に加え、その細かな表情や香りの広がりを引き出す分子を選ぶ方針を掲げている。

アルタイルで、バニラの温かさと爽やかさを両立させる

スプレシェールが好む素材の一つ、バニラを主役にしたのが、2023年のAlthaïr(アルタイル)である。目指したのは、こんなバニラの表現だった。

アルタイルが探求するのは、威厳があり、繊細で、驚くほど爽やかなバニラです。

ジュリアン・スプレシェール

ハミド・メラティ=カシャーニ(Hamid Merati-Kashani)とイリアス・エルメニディス(Ilias Ermenidis)が、創設者とともに制作した。方針は、温かな素材と爽やかな感覚を際立たせ、伝統的な香りの要素と現代の香料を組み合わせることだった。

ブルボンバニラに、シトラスやオレンジブロッサム、スパイス、木の要素を重ねる。明るさや軽快さと、バニラの温かさを一緒に成立させることが、この作品の狙いなのである。

馬の紋章と、色を持つボトルのデザイン

馬にも惹かれていたスプレシェールは、その名を作品へ取り入れた。ロゴの二頭の馬は、ギヨーム・クストゥーの彫刻《マルリーの馬》を手がかりにしている。ルーヴル美術館に収蔵されるその彫刻は、もともとマルリーの庭園のために制作されたものだ。

その紋章を大きく浮き出させたアルタイルの褐色のボトルと、曲線の装飾にピンクの房飾りを添えたデリナ。異なる造形や色を使いながら、どちらも香水を手に取る前からメゾンの装飾的な世界を伝えている。香りと容器の両方に、スプレシェールが選んだ十八世紀へのまなざしがある。

参考文献

  1. The Fragrance Foundation France:創業と調香師との仕事についての本人取材 — https://www.fragrancefoundation.fr/2021/04/le-parfum-est-avant-tout-un-art/
  2. Advent International:2023年の出資合意と創業者の役割 — https://www.adventinternational.com/news/advent-international-to-enter-a-partnership-with-the-founder-of-the-parfums-de-marly-and-initio-parfums-prives-niche-fragrance-brands-to-accelerate-global-growth/
  3. ParfumPlus:ジュリアン・スプレシェールの生い立ちと創業の動機 — https://parfumplusmag.com/interview/perfume-is-the-expression-of-a-personality/
  4. Villa88:家業での経験とカランの制作についての本人取材 — https://www.villa88.com/live/exclusive-parfums-de-marly-founder-julien-sprecher-reveals-the-secret-behind-his-latest-fragrance/
  5. Parfums de Marly:メゾンのビジョン — https://parfums-de-marly.com/pages/vision
  6. Le Monde:ジュリアン・スプレシェール インタビュー — https://www.lemonde.fr/m-styles/article/2024/12/20/pour-julien-sprecher-le-parfum-est-roi_6459711_4497319.html
  7. Parfums de Marly:ルーヴル美術館への支援 — https://parfums-de-marly.com/pages/patronage
  8. Fragroom:カンタン・ビシュによるデリナの制作談 — https://fragroom.com/2022/06/30/quentin-bisch-parfums-de-marly-delina-interview-i-dont-create-perfumes-thinking-of-success/
  9. Parfums de Marly:デリナとそのフレグランスの展開 — https://parfums-de-marly.com/products/delina
  10. Parfums de Marly:原料と現代の香料技術 — https://parfums-de-marly.com/pages/savoir-faire
  11. Parfums de Marly:アルタイル — https://parfums-de-marly.com/products/althair
  12. Your Luxury Africa:アルタイルの制作方針と調香師 — https://yourluxury.africa/fashion-beauty/a-smooth-operator-from-parfums-de-marly/
  13. ルーヴル美術館:ギヨーム・クストゥー《馬丁に引かれる馬》 — https://collections.louvre.fr/en/ark:/53355/cl010091992