「イノベーションが、私たちの発展を動かしています。」
エレーヌ・マルシャン(ヴェレッセンス・フランス総責任者、2017年)
香水瓶の重さは、手に取ったときの印象をつくる。厚いガラスの底、光を反射する角、内側に浮かぶように見える液体。それらを少し変えるだけで、同じ容量の容器でも見え方は違ってくる。では、瓶を軽くしながら、その香水らしい姿を残すには何を変えればよいのだろう。
Verescence(ヴェレッセンス)は、この問いに設計と製造の両側から向き合うガラスメーカーである。非対称な内側を持つプロエンザ スクーラーの「アリゾナ」、内面に色を施したナルシソ ロドリゲスの瓶、軽量化されたディオールの「ジャドール」。異なる仕事をたどると、香水瓶は外形だけでなく、ガラスの配分、色を置く位置、充填後まで続く品質の条件によって成り立っていると分かる。
基本情報
- 名称:Verescence(ヴェレッセンス)
- 事業の起点:1896年、アンリ・デジョンケールによるヴェルリー・デュ・トレポールの取得
- 現名称の採用:2016年。SGDの香水・化粧品向け事業から続く
- 歴史的な製造拠点:フランス、メール=レ=バン
- 現在の主な仕事:香水・化粧品向けガラス瓶・ジャーの開発、成形、加飾。別事業としてガラス製がいしも扱う
- 公式サイト:Verescence
1896年のガラス工場から、2016年の新名称へ
トレポールの取得と、メール=レ=バンの新工場
事業の起点にいるのはアンリ・デジョンケールである。1896年、ブレル川流域にあるヴェルリー・デュ・トレポールを取得した。当時のガラスづくりは、まだ人が息を吹き込む製法だった。1924年にはメール=レ=バンに新しい工場を建設し、1939年に最初の自動機を導入した。工場を取得した年、新工場を建てた年、生産を自動化した年は、それぞれ別の転換点なのである。
やがて事業は、瓶を成形するところから、その表面を仕上げるところへも広がった。1968年にはエクーシェ=レ=ヴァレの加飾拠点を取得し、1989年にはアブヴィルの加飾拠点が加わる。現在もこの二つの町は、フランスのガラス生産と仕上げをつなぐ場所である。
サンゴバン・デジョンケール、SGD、ヴェレッセンス
旧名称をたどるときには、企業名だけでなく、当時含まれていた事業の範囲にも目を向ける必要がある。2007年3月、サンゴバンはSaint-Gobain Desjonquères(サンゴバン・デジョンケール)とその子会社の売却契約を発表した。相手はサガールとコグネタスの投資ファンド連合で、サンゴバン自身も20%を再出資する内容だった。この時点の特殊瓶事業には、香水・化粧品に加えて医薬品向けの製造が含まれていた。
2016年にヴェレッセンスとなったのは、SGDの香水・化粧品向け事業である。医薬品向け事業との分離を経た新しい名称であり、1896年から同じ名前の会社が続いていたわけではない。フランス語の「verre(ガラス)」と、変化を表す語尾を重ねた名前には、材料の変化と会社の変化の両方が込められている。
2021年には韓国のパシフィックグラスが加わった。現在の公式情報では、フランス、スペイン、アメリカ、韓国の四か国に七つの工場を持つ。ガラス製造は四拠点、加飾は五拠点で、一部は同じ工場が両方を担う。「四と五」をそのまま足して九工場と数える体制ではない。
デザインを、金型から取り出せる形にする
肩の角度と口部にある、量産の条件
ガラス瓶の図面には、見せたい形と、生産に必要な形が同居する。たとえば肩の傾斜には、成形した瓶を金型から抜くための条件がある。口部はポンプや栓を受ける場所で、最初の粗い形をつくる段階ですでに形成される。側面の輪郭を自由に描けても、そのまま機械から安定して取り出せるとは限らない。
溶融したガラスはフィーダーと呼ぶ流路を通り、瓶の重量に合わせた塊に切り分けられる。この塊がゴブである。粗型で中間の形をつくり、仕上げ型で最終形へ進める。吹いて形をつくる方法もあれば、粗型で押してから仕上げ型で吹く方法もある。厚みをどこに残すかという設計は、この成形の条件と切り離せない。
同社は、金型へのレーザー彫刻によって微細な模様をガラスに移す技術も持つ。完成後の瓶に線を描く方法とは異なり、成形する段階で表面の凹凸をつくる。一方、表面を再加熱して整えるファイアポリッシュや、その後の徐冷も重要だ。成形直後の温度差によって生じる内部の応力を和らげ、装飾へ進める状態にする。
「アリゾナ」の内側を非対称にするSCULPT’in
こうした成形の自由度を、具体的な香水瓶で見ることができる。2018年に登場したプロエンザ スクーラー初の香水「Arizona(アリゾナ)」である。ロレアルと組んだこの香水の瓶は、ソノラ砂漠の峡谷や尾根に着想を得ている。デザイナーのジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスが旅で持ち帰った鉱物も、瓶の構想につながった。
ヴェレッセンスが用いたのは、独自のSCULPT’inという成形技術だった。ガラスを非対称に配分し、外側の面と内側の空間が一様には重ならない構造をつくる。開発責任者のサミュエル・ジョアキムは、その技術によって可能になることを、次のように説明した。
「標準的な口部を通して吹く瓶の内側に、独特なガラスの配分をつくる。」
サミュエル・ジョアキム(イノベーション・新製品開発責任者、2018年)
外側を複雑にするだけでなく、液体を囲む透明な層そのものを造形するのである。さらに、コーラル色のグラデーションをパッド印刷で加え、面の角度を際立たせた。瓶はメール=レ=バンで製造され、加飾の技術はアブヴィルが担った。成形と色が同じ発想を支えながら、それぞれ別の専門性として働いている。
パッド印刷は、シリコーンのパッドを介してインクを移す方法である。スクリーン印刷では扱いにくい場所にも使える。アリゾナでは、特別な内側の形だけでなく、その造形をどう見せるかにも技術が使われた。SCULPT’inは全製品に共通する形ではなく、こうした内側の設計を可能にする選択肢である。
色をガラスのどこに置くか
ナルシソ プドゥレの内面着色
香水瓶の色には、ガラス自体を着色する方法と、成形後に表面へ色を施す方法がある。ヴェレッセンスは、溶融ガラスが成形機へ向かう流路で色材を加える技術に加え、塗装、印刷、箔押しなどの仕上げを扱う。そして、色を置く面は外側だけではない。
ナルシソ ロドリゲスの「Narciso Poudrée(ナルシソ プドゥレ)」では、透明なガラスの内側に淡いピンクを施すCOLOR’inが使われている。色の層と外側の透明なガラスが重なるため、全面を外から塗りつぶした瓶とは光の見え方が異なる。黒いスクリーン印刷が、立方体の簡潔な面を引き締める。
同じ内面着色でも、トム フォードの「ロスト チェリー」では深い赤を内側に置き、ジバンシイの「ランテルディ アブソリュ」では不透明な黒を用いる。後者はガラスに設けたくぼみと、銀色の印刷も組み合わせる。共通の技術があっても、透明な層を残すこと、色を隠すこと、表面で光を反射させることの配分は違う。加飾は、出来上がった形に最後の彩りを足すだけでなく、どの面を見せるかを設計する仕事でもある。
軽量化で変わる設計と品質確認
標準瓶「ヴェルソ」に並ぶ二つの100ml
個別のデザインを開発する仕事と並び、ヴェレッセンスには標準瓶のカタログがある。その一つ「VERSO(ヴェルソ)」は、水平な肩と明瞭な稜線を持つ長方形の容器だ。現行カタログでは、100ml・FEA 15口部の仕様に180gのモデルと、130gの軽量モデルが並ぶ。
同じ容量と口部でも、軽量モデルは高さと奥行きが異なる。したがって、同じ瓶から単純にガラスを50g削った、と読むのは正確ではない。内容量、外形、ガラスの重さを組み直しながら、製品として成立する寸法を選ぶのである。軽量化とは、重厚な瓶を薄くする一操作ではなく、容器全体の設計であることが、この標準品の比較にも表れている。
同社のGlass Scoreは、重量と容量の関係から瓶の軽量化の水準を示す独自指標で、A+からFまでの区分を持つ。2023/2024年の報告書で、マーケティング担当のベランジェール・ラグネは、重量を基準に製品群の優先順位をつけやすくするための道具と説明している。複数の環境項目を見るライフサイクル評価と役割が異なり、この文字一つが容器全体の環境性能を証明するわけではない。
ラグネはまた、どんなデザインも極端な軽量化に向くわけではなく、成形が難しくなって不良品の比率が増えれば、製造全体の環境負荷には逆効果になりうると説明する。完成品一本の軽さだけを追うのではなく、その瓶を安定してつくれるかまで見る。この点で、軽量化の設計と品質管理は同じ課題につながっている。
「ジャドール」の軽量化は、充填と輸送まで検証する
2025/2026年の公式報告書には、パルファン・クリスチャン・ディオールの包装開発責任者フィリップ・ルノーが登場する。「ジャドール インテンス」では、瓶の象徴的な姿を保ちながら軽量化し、使用後に回収された再生ガラスを20%取り入れることが開発の条件だった。
「この瓶の開発では、ヴェレッセンスのチームと一年以上にわたり取り組みました。」
フィリップ・ルノー(パルファン・クリスチャン・ディオール、2025/2026年報告書)
100mlの瓶は110g。従来のジャドール オードゥ パルファン100ml瓶と比較して、ガラス重量を46%減らしたという両社側の説明である。すべてのジャドールの容量や、包装全体が46%軽くなったという数字ではない。
薄くした瓶の健全性を確かめるため、新しい認定・量産化の手順も共同で開発した。製造工場を出て充填工場へ運ばれ、香水を詰め、ポンプをかしめ、首元の部材を取り付け、各国へ送るまでを対象にしたものだ。工場の出口で外観が整っているだけでは足りない。後続工程でも使える容器にするところまでが、軽量化の仕事に含まれている。
再生ガラスと炉の更新を、別々に測る
再生材を含む瓶の比率と、配合率の違い
「けれども、私たちは単一の解決策を信じてはいません。」
トマ・リウー(CEO、2019年)
リウーはこの言葉に続けて、軽量化と再生ガラスを組み合わせる考えを述べた。ガラス工場内で出る端材を炉へ戻すことと、消費者が使い終えた容器を回収して原料にすることは異なる。後者がPCR、すなわち使用後回収材である。
現在の同社のInfinite Glass 20と40は、PCRガラスの配合をそれぞれ20%、40%とする製品群である。一方、2026年9月の公式発表は、2025年にPCRを含む瓶が生産の92%を占めたと説明する。これは「瓶の92%が再生原料」という意味ではない。配合を増やす仕事と、その配合を採用する生産を広げる仕事を分けることで、数値が示す変化を読み取れる。
2026年のハイブリッド炉計画と、測定の範囲
もう一つの課題は、ガラスを溶かす熱をどう得るかである。2025年7月、リウーはメール=レ=バンの第6炉を、電気と酸素燃焼を組み合わせるハイブリッド方式へ更新する計画を語った。2026年9月の公式発表も、同年中の導入予定として、最大80%を電気、20%をバイオガスで運転できる炉を挙げている。計画として示された仕様を、そのまま通年の運転実績とは扱えない。
同じ発表では、2025年のグループのScope 1・2のCO₂排出を2019年比で35%削減したと公表している。Scope 1は自社活動による直接排出、Scope 2は購入したエネルギーに伴う排出である。原料の調達や製品の輸送などを含むScope 3まで、同じ割合で減ったという意味ではない。ここで扱う値は、同社が報告する範囲の実績である。
瓶そのものを軽くすること、再生材を配合すること、溶融設備を変えることは、それぞれ別の仕事だ。さらに詰め替えを考えるなら、口部やポンプ、装飾の耐久性も関わってくる。リウーは2025年にも、複数の解決策を組み合わせる姿勢を示した。ヴェレッセンスの具体例から見えてくるのは、形を実現する技術と、その形を使い続けられる条件を同時に設計する仕事である。
参考文献
- “Innovation drives our development”, Hélène Marchand, Verescence — Premium Beauty News、2017年10月3日。原インタビュー、事業分離と技術開発
- Our group — Verescence。沿革、現在の製造拠点
- Sale of Saint-Gobain Desjonquères — Saint-Gobain、2007年3月29日。売却契約の発表
- Glass: SGD changes name to Verescence — Premium Beauty News、2016年9月13日
- Glassmaking Glossary — Verescence。金型、口部、成形、徐冷、パッド印刷
- Our expertise — Verescence。成形、微細彫刻、加飾、再生ガラス
- L’Oréal and Proenza Schouler launch Arizona — L’Oréal。瓶の着想と協働
- Proenza Schouler Just Launched Its First Fragrance—Here’s What You Need to Know — Vogue、2018年1月19日。デザイナーの原インタビュー
- Verescence creates an exceptional glass bottle with its SCULPT’in technology — glasstec掲載の企業発表。アリゾナの成形と加飾、サミュエル・ジョアキムの発言
- Our perfume creations — Verescence。ナルシソ プドゥレ、ロスト チェリー、ランテルディ アブソリュの作例
- VERSO — Verescence。標準瓶と軽量仕様の寸法・重量
- Sustainability Report 2023–2024 — Verescence。Glass Scoreについてのベランジェール・ラグネの説明
- Sustainability Report 2025–2026、50–51頁 — Verescence。ディオールのフィリップ・ルノーへのインタビュー、ジャドール インテンスの軽量化
- “Consumers are looking for transparency”, Thomas Riou, CEO, Verescence — Premium Beauty News、2019年10月8日。原インタビュー
- 2025–2026 Sustainability Report — Verescence、2026年9月14日。再生ガラス、排出範囲、ハイブリッド炉の公表状況
- “Verescence has very high expectations for the years to come”, Thomas Riou — Premium Beauty News、2025年7月14日。原インタビュー、炉更新と複数の設計手段


