Brosse(ブロス)— 香水瓶の造形を工業生産へつなぐ、ガラス配分と分業の仕事

温かな窓辺に並ぶ無銘のガラス容器見本とノギス。Brosse、ブロス、香水瓶の形を、つくる技術。の文字 香りの世界を広げる

「人の目は欠かせません。」

ローラン・サンタレッリ(2015年当時、ヴィユー=ルーアン=シュル=ブレル工場長)

香水瓶のデザインは、輪郭を描けば完成するわけではない。外から見える形と、液体が入る内側の形。その間にあるガラスをどこに、どれだけ配分し、同じ仕上がりを何本もつくれるようにするか。香りを包む小さな容器には、造形を生産へ移すための仕事が詰まっている。

Brosse(ブロス)は、その接点を担ってきたフランスのガラスメーカーである。ヴェルリー・ブロス、ジニャーゴ・ヴェトロ・ブロスを経て、現在の名称はZignago Vetro France(ジニャーゴ・ヴェトロ・フランス)。半自動の製法を残しながら自動生産を組み合わせてきた歩みをたどると、香水瓶をつくる技術が、形だけでなく数量や検品、地域の分業とも結びついていることが分かる。

基本情報

  • 創業:1892年
  • 旧名称:Verreries Brosse/Zignago Vetro Brosse
  • 現名称:Zignago Vetro France
  • 製造拠点:フランス・ノルマンディー地方、ヴィユー=ルーアン=シュル=ブレル
  • 主な仕事:高級香水・化粧品・高級スピリッツ向けのガラス容器製造
  • 公式サイト:Zignago Vetro

香水そのものを調香して販売するブランドではなく、ブランドやデザイナーが求める容器を工業製品として実現する企業である。現在のフランス拠点は、自動設備と伝統的な半自動技術の両方を使い、個別設計の容器に加えて標準型の製品も扱う。

ブレル川流域で育ったガラスの仕事

森林のガラスづくりから香水瓶へ

ブロスの工場があるブレル川流域は、ノルマンディーとオー=ド=フランスの境界に位置するガラス産業の集積地である。この地域のガラスづくりは中世にさかのぼり、ウーの森の周辺では、炉の燃料となる木材や、ガラスの原料に使うカリを得られるシダの灰が生産を支えた。

19世紀になると、パリのブルジョワ層に広がる香水文化が、新たな市場となった。窓ガラスやガラス製品をつくる地域は、高級香水の容器を供給する地域へと仕事を広げていく。1892年創業のブロスも、この土地で発達した香水瓶製造の系譜に位置する。

今日「ラ・グラス・ヴァレ」と呼ばれる産業ネットワークには、模型製作者、鋳造業者、金型メーカー、ガラスメーカー、選別業者、加飾業者が集まる。一つの瓶を完成させる工程が、異なる会社の専門性によってつながっているのである。

2002年の買収と、二度の社名変更

ブロスの創業と、現在の親会社の歴史は分けて考える必要がある。イタリアのジニャーゴ・ヴェトロがヴェルリー・ブロスを買収したのは2002年。高級香水向けの半自動生産で蓄積した技術を、グループの製品領域に取り込む出来事だった。

2019年には社名がジニャーゴ・ヴェトロ・ブロスとなり、2023年にはジニャーゴ・ヴェトロ・フランスへ変わった。同年9月の発表は、ブロスという高級分野のブランドもジニャーゴ・ヴェトロへ統合する方針を示している。現在の名前から1892年創業の仕事を見失わないことと、旧社名を現在の会社名として扱わないこと。その両方が、この企業を理解する手がかりとなる。

年 主な出来事
1892年 ブロス創業。
2002年 ジニャーゴ・ヴェトロが買収。
2009年 新しい自動生産用の炉を導入し、大規模生産への対応を拡充。
2014年 加飾を専門とするパリッシュ・ニジェルマとの提携を発表。
2016年 Up & Downによるガラス配分の技術を展開。
2019年 Zignago Vetro Brosseへ社名変更。
2023年 Zignago Vetro Franceへ社名変更。ブランド統合を発表。

半自動と自動生産を使い分ける

小さなシリーズと大きな注文の間で

ブロスの特徴は、半自動の製造技術を自動設備と併用してきた点にある。複雑な形や少量の注文に対応する仕組みと、大きなシリーズを生産する仕組みを、同じ事業の中に持つ。

2008年、当時の総責任者マーク・クーパーは、翌年に稼働を予定していた新しい自動炉について、こう述べた。

「これは私たちにとって、根本的に重要な一歩となるでしょう。」

マーク・クーパー(2008年)

計画された炉の能力は一日55トン、投資額は3,000万ユーロだった。ここで重要なのは、設備を大きくすることに加え、グループ内で製造を連携できるようになったことだ。クーパーは、フランス工場の能力を超える数量ではイタリアへ製品の生産を移すこともできると説明していた。どの瓶も一つの工場だけでつくられる、と考えると、この生産体制を捉え損なう。

一方、2015年のブロスは、自動設備なら一日の生産が少なくとも3万個に達する例に対し、5,000個の市場テストや限定品には半自動設備を使う、と説明していた。これは当時示した生産規模の比較であり、現在の一律の最低注文数を意味するものではない。少量から大きな注文まで、造形と数量に合わせて製法を選べることが、この二つの設備を持つ意味だった。

瓶の一部だけでなく、香水の容器群を支える

香水の世界には、通常の瓶だけでなく、ミニチュア、エキストレ用の容器、ガラス栓、クリームのジャー、店頭に飾る大型の見本瓶がある。最後のものはファクティスと呼ばれる。大きさや用途が変われば、必要な数量や形の条件も変わる。

現行の公式説明でも、グループは半自動と完全自動の組み合わせによって、数千個のシリーズから大規模生産まで、こうした容器群に対応するとしている。半自動は過去の技術として保存されているだけではない。自動生産と並ぶことで、製品の大きさや数量の幅を受け持つ技術なのである。

外側の輪郭と、内側の形を設計する

肩にも厚みを持たせるUp & Down

ブロス固有の開発をよく示すのが、Up & Downというガラス配分の技術である。2016年、グループの香水・化粧品部門の営業責任者ステファノ・ボルトリは、開発の体制をこう説明した。

「ヴェルリー・ブロスに、開発に専念するチームを設けました。」

ステファノ・ボルトリ(2016年)

そのチームが実現したのは、瓶の肩により多くのガラスを配分し、底との厚みの対称性をつくる製法だった。現行の公式サイトも、Up & Downを特許取得技術として紹介している。

厚い底を持つ瓶では、液体の下に透明な層が見える。Up & Downでは、その厚みの考え方を肩にも展開する。外側の形と、香水を収める内側の空間の関係を、上部まで含めて整えるのである。2016年の展示では、角形や円筒形、長方形、楕円形の断面を持つモデルが示された。装飾を表面に加える前から、ガラスそのものの配分が瓶の表情をつくっている。

エッセンシャル パルファンの新瓶と金型

金型が造形を量産へつなぐ仕事は、エッセンシャル パルファンの2024年の新瓶にも見ることができる。同ブランドは、それまでカバープラが供給していた標準型から、独自のシグネチャーボトルへ移行した。

デザインを担当したのはアルヌール・ミタ・ド・バラ。ブロスは新しい金型をつくり、十分な白さを持つ再生ガラスの選択肢を提案した。新瓶では稜線をより明瞭にし、首元を台座のように立ち上げ、底にはブランドのロゴを刻んでいる。正面には紙ラベルを置くための浅いくぼみも設けられた。

「仕事は、きわめて繊細に進められました。」

アルヌール・ミタ・ド・バラ(2024年、新瓶のデザイナー)

大きな輪郭を一変させず、首、底、ラベルの収まりを変える。デザイナーが形に与えた差異を、金型と材料の選択によって繰り返し生産できるものにするところに、ガラスメーカーの役割がある。この新瓶の事例とUp & Downは、別の設計上の取り組みである。

加飾と検品をつなぐ地域の分業

ガラスをつくる仕事と、表面を仕上げる仕事

瓶の成形後に行う仕上げは、フランス語でパラシュヴマンと呼ばれる。ブロスは2014年、この領域を専門とするパリッシュ・ニジェルマとの提携を発表した。

「加飾は、それ自体が独立した職業です。」

オリヴィエ・カスパール(2014年当時、ヴェルリー・ブロス総責任者)

この提携には、ガラスをつくる企業が、地域の別の専門家とともに表現の幅を広げる意味があった。パリッシュ・ニジェルマは、つや消しや塗装、スクリーン印刷、箔押し、パッド印刷、サンドブラストなどを扱う。ブロスはガラス生産へ投資を集中しながら、加飾を専門家との協働で進めたのである。

現在のグループの公式説明でも、社内設備と専門パートナーのネットワークが併記されている。自社の加飾部門はポーランド拠点にあり、フランス拠点には、ガラスの表面を削り、磨く研削・研磨などの技術がある。グループ全体のサービスを、すべてブロスの工場内で行う工程として一括りにはできない。

成形後の瓶を、目と手で選別する

形ができた後にも、瓶には仕事が残る。2024年、ヴィユー=ルーアン=シュル=ブレルの工場内では、選別会社イノヴェールが活動していた。同社は既存の取引先セルディムの仕事を工場内で行うため、2022年9月に生まれた会社である。それまで約35キロ離れたアンブルヴィルへトラックで運んでいた瓶の一部を、その場で選別できるようにした。

選別担当者が見るのは、ガラスのしわ、気泡、傾き、配分の不具合などである。2024年の現場では一時間800本という作業の速さも語られていた。目がよいだけでなく、瓶を手に取り、決まった時間の中で状態を判断し続ける身体的な仕事なのだ。不適合となったガラスはカレット、すなわち再溶融に使うガラス片となり、製造へ戻される。

冒頭のサンタレッリの言葉は、こうした選別の重要性を考える入口になる。半自動か自動か、という成形方法の違いだけでは、完成した瓶の品質は説明しきれない。金型で形をつくり、ガラスを配分し、表面を仕上げ、最後に一本ずつ状態を確かめる。ブロスの仕事は、それぞれの工程をつなぎ、香水の造形を日々の生産として成立させるところにある。

参考文献

  1. Verreries Brosse : Les nouvelles ambitions d’un verrier historique — Vincent Gallon、Premium Beauty News、2015年7月14日。半自動と自動生産、工場長の発言
  2. The Group — Zignago Vetro。現在のフランス拠点と各社の役割
  3. History — Zignago Vetro。1892年創業、2002年の買収、社名の変遷
  4. Zignago Vetro Brosse — La Glass Vallée。製造拠点と生産方式
  5. La Glass Vallée — 地域のガラス産業史と工程別の企業集積
  6. Évoluer pour s’améliorer : Zignago Vetro, nouvelle version — Zignago Vetro、2023年9月4日。社名・ブランドの統合
  7. Les Verreries Brosse doublent leurs capacités de production — Jean-Yves Bourgeois、Premium Beauty News、2008年10月16日。マーク・クーパーの発言と新炉の計画
  8. Innovation — Zignago Vetro。生産方式の組み合わせとUp & Down
  9. Zignago Vetro Group increases its strategy in cosmetics — Jean-Yves Bourgeois、Premium Beauty News、2016年12月5日。ステファノ・ボルトリの原インタビュー
  10. Verre : Du plus léger au plus lourd — Premium Beauty News、2016年。Up & Downの展示とガラス配分
  11. Essential Parfums monte en gamme avec un nouveau flacon signé Alnoor — Axelle de Larminat、Premium Beauty News、2024年7月15日。新瓶のデザイン・金型・材料
  12. Parachèvement : une nouvelle étape stratégique pour les Verreries Brosse — Jean-Yves Bourgeois、Premium Beauty News、2014年5月5日。オリヴィエ・カスパールの発言と加飾提携
  13. Customization — Zignago Vetro。現行の加飾・研削・研磨の役割分担
  14. Vieux-Rouen-sur-Bresle : Innoverre cherche des trieurs — Isabelle Boidanghein、La Gazette France、2024年7月22日。選別工程と経営者の発言