NOSE SHOP(ノーズショップ)|中森友喜の創業史と、日本にニッチ香水を届ける選品・接客・体験づくり

NOSE SHOPの紹介。温かな光の中にラボラトリオ オルファティーボのニードユー、試香紙と小さなサンプルを配したスティルライフ 香りの世界を広げる

接客をする際も正解ではなくヒントを与えるように心がけています。

中森友喜、NOSE SHOP創業者

香水を選ぶとき、名前を知っていることと、自分の好きな匂いが分かることは同じではない。NOSE SHOP(ノーズショップ)は、その間にある距離を縮めてきた日本の香水店である。世界のニッチフレグランスを集めるだけでなく、自由に嗅げる売場、短い言葉、偶然の出会いをつくる香水ガチャを通じて、香りを選ぶ行為そのものを組み立ててきた。

その創業者、中森友喜(なかもり・とものぶ)は、もともと調香師でも、香水業界一筋の人物でもなかった。国税局、アパレル企業、化粧品の輸入事業を経て、香水を届ける場所を自らつくった人である。店の歴史をたどると、香水の種類を増やすことと、香水を楽しめる人を増やすことの違いが見えてくる。

基本情報

項目 内容
名称 NOSE SHOP(ノーズショップ)
創業者・代表者 中森友喜
運営会社の設立 2011年7月12日、株式会社BIOTOPEとして設立
香水店の開始 2017年8月16日、ニュウマン新宿に1号店を開店
現社名への変更 2021年12月15日、NOSE SHOP株式会社へ変更
活動 香水店とオンラインストアの運営、海外ブランドの輸入、香りのコンサルティング・プロデュース
公式サイト NOSE SHOP

フランス・パリの香水店Noseとは別の事業である。

創設者とNOSE SHOPの成り立ち

国税局からアパレル企業の経営へ

中森の学生時代に、起業家への一本道があったわけではない。大学3年生で父を亡くし、父の経営していた会社を手放すことになった。自分で生きていかなければならないと感じながらも、すぐに進路を決められたわけではなかったという。

卒業後に入った国税局では、法人税の調査を担当した。会社の数字を読み、経営者に話を聞く仕事は、経営の面白さと難しさを知る機会になった。3年間働いた後、現場でビジネスを学ぶためにベンチャー企業へ移る。

転職先は、ファッションウォーカーなどを手掛けていたゼイヴェル。経営企画を経験し、ギルドコーポレーションの2代目社長を務め、キットソンの日本展開にも関わった。事業の数字と、商品を人へ届ける仕事。その両方を経験した後に始まったのが、ビオトープであった。

2011年の会社設立と、輸入事業への転換

2011年7月に設立したビオトープは、当初から香水専門店を目指していた会社ではない。中森はオーガニックコスメの自社ブランドに挑んだが、原料調達などの難しさに直面した。突破口を求めて海外のブランドや化粧品会社を訪ねるうち、日本での販売を任されるようになる。

2014年に扱い始めたイタリアのラボラトリオ オルファティーボは、中森にニッチフレグランスの存在を知らせたブランドだった。ニッチとは、ここでは大衆向けの大規模な市場だけを目標にせず、独自の発想や香りの表現を重視する香水の領域を指す。単に知名度が低いという意味ではない。

香水の輸入は、店の開業に先立つ仕事であった。卸先へ届けるところから始まり、やがて自分たちの言葉と売場で直接伝える必要が浮かび上がってくる。

2015年、アレッサンドロとの会話が出店を後押し

2015年、中森はナーゾマットの創業者で調香師のアレッサンドロ・グアルティエーリと話す機会を得た。日本には服装で自分を表現する人が多いのに、香りの選択肢は乏しい。その指摘は、さまざまな香水を嗅ぎ比べる面白さを知り始めていた中森の問題意識と重なった。

香りを紹介したくても、受け入れてくれる売場がなければ届かない。自分の店をいつか開きたいと話す中森に、アレッサンドロは大きな店舗がなくても、わずかな棚から始められると迫った。中森は日本で店を出すと約束し、構想を実際の出店へ動かし始める。

この出会いが変えたのは、扱う商品の範囲だけではない。既存の売場に香水を置いてもらう側から、香水との出会い方を自ら設計する側へと、仕事の重心が移ったのである。

ポップアップの経験から、2017年の新宿店へ

前段階には、ニュウマン新宿で開いた実験的なポップアップがあった。複数カテゴリーの化粧品を集めた「MINI LAB by BIOTOPE INC.」は、何の店なのかがひと目では伝わりにくく、売上面では厳しかった。一方、客が自由に香水を試す姿には手応えがあった。

そこで商品をニッチフレグランスに絞り、鼻を意味するNOSEを店名に据える。2017年8月16日、ニュウマン新宿にNOSE SHOPの1号店が誕生した。商業施設の中で気軽に立ち寄り、自分のペースで香りを比べられる専門店である。

その後の展開も、店を増やすだけの話ではなかった。2022年の中森は、駅など人の多い場所で香水を知ってもらう必要と、いずれ落ち着いた場所で選びたい人が増える可能性の両方を語っている。

物理的な感触である香りを体感できるリアルの場所は必要不可欠だと考えている。

中森友喜

市場の変化と、会社を続けるための上場

2021年12月、ビオトープは社名をNOSE SHOPへ変更した。会社設立から10年を経て、香りと共に生きる楽しさを伝えるという使命を、会社の名前にも重ねた転換である。

2023年、海外メディアBeautyMatterに対し、中森はコロナ禍後の日本市場でニッチフレグランスが成長を牽引し、Z世代以降が中心になっていると語った。同時に、世界各地で新しいブランドが生まれるなか、真正なニッチフレグランスとそうでないものの選別が進むという見方も示している。

2024年の国内での発言では、香水をファッションやメイクの一部として捉える20代の増加を挙げた。香りの好みも、分かりやすい爽やかさだけでなく、お菓子を思わせるグルマンや、酒・タバコを題材にした表現へ広がっていた。中森が重視したのは、消費者が香りの違いを細かく捉えるようになっていることであった。

2026年3月17日、NOSE SHOPは東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場する。中森が主な目的に挙げたのは、組織運営の仕組みを外から評価してもらうことだった。

一番の目的は、会社のガバナンスを強化することでした。

中森友喜

創業者個人の判断から、ルールに基づく権限の委譲へ。香水を楽しむ文化を広げるには長い時間がかかるという認識が、会社を続けるための制度づくりへつながった。新しい香りを探す仕事と、その仕事を長く担える組織をつくることが、ここで並ぶようになったのである。

NOSE SHOPの年表

年 出来事
2011年7月12日 株式会社BIOTOPE設立。化粧品事業から出発
2014年 ラボラトリオ オルファティーボの取り扱い開始
2015年 アレッサンドロ・グアルティエーリとの会話が直営店構想を後押し
2017年8月16日 ニュウマン新宿にNOSE SHOPの1号店を開店
2018年春 香水ガチャが誕生
2021年12月15日 NOSE SHOP株式会社に社名変更
2022年3月 自社のデイリーフレグランス事業KO-GUでKAORIUMを導入
2026年1月9日 表参道にNOSE SHOP SALONを開設
2026年3月17日 TOKYO PRO Marketに上場

NOSE SHOPの選品と体験づくり

世界の作り手の個性を、日本語で届ける

中森は香水のセレクトだけでなく、その背景にあるストーリーの翻訳も手掛けてきた。香りそのものを輸入すると同時に、なぜその表現が生まれたのかを、日本語で読める形にする仕事である。

BeautyMatterで示した市場観には、ヨーロッパや北米だけでなく、南米やアジアにも興味深い作り手が登場しているという視野がある。地域や既知のブランド名だけで香水の世界を区切らず、作り手の発想を見ていく姿勢だ。

2024年には、メゾン マティンのユーモラスなデザインや、エッセンシャル パルファンの手に取りやすい価格と調香への姿勢にも言及した。独創性を紹介することと、最初の香水に出会える入口を用意することを、同じ売場で考えている。

自由な試香と、暮らしに近い接客の言葉

自分で嗅ぎたい人と、相談したい人。そのどちらにも場所を用意するのが、NOSE SHOPのセミセルフ式の接客である。自分の感じ方を確かめる時間があり、言葉が必要になったときにはスタッフが支える。

売場では、ガラスの漏斗などを経て、小さなカップと綿球を用いる試香ツールへと工夫を重ねてきた。短いキャプションも、専門知識をすべて読ませるためではなく、次の香りに鼻を近づけるきっかけとなる。

この考えを実際の接客に置き換える人々もいる。2019年に入社した秋間桃子は、靴の販売職から香水へ移った。もっと客とじっくり話したいという思いと、個人に寄り添う香りへの関心が、その転職を支えた。

秋間が働き始めた頃は、シプレやフゼアといった香調の専門用語だけでは客に伝わらなかった。知識を増やすほど、知識の内側だけで話してしまう。その難しさに対して、彼女は映画や読書などからも言葉を吸収している。

香りを身近に感じてもらう

秋間桃子

さらに、舞台俳優などの活動を経て2023年に入社した堀越拓也は、池袋店長となった後も、客の感覚を否定しないことを接客の軸に据えている。香水の表現を教えるだけでなく、目の前の人が感じたことを受け止める。創業時の方針は、こうしたスタッフの仕事を通じて具体的になる。

香水ガチャがつくる、好みの外側との出会い

2018年春に生まれた香水ガチャは、多くの香りから一つを選ぶ重圧を、偶然の出会いに変える仕掛けである。何が出るかを任せることで、いつも好きな系統だけを選ぶ行動から、少し外へ踏み出せる。

大きなボトルを選ぶ前に小さな香水と出会い、生活の中で試せることも、この体験の意味である。店頭の遊びと、家に帰ってからの香りの時間がつながっている。現在はオンラインにも香水ガチャの公式ページがあり、企画や対象の香りは入れ替わる。偶然に任せる体験を、いつも同じ商品内容として固定しないことが大切だ。

香りを言葉にする技術と、静かに向き合うサロン

NOSE SHOPの取り組みには、香りと言葉の関係を技術で探る仕事もある。SCENTMATICとの協働では、2020年初めに中森から問い合わせがあり、香りと言葉のデータづくりにもNOSE SHOPのファンが協力した。2022年3月には、同社が手掛けるデイリーフレグランス事業KO-GUで、香りを言葉へつなぐAIシステムKAORIUMを導入した。

KAORIUMは、香りを嗅いで印象に近い言葉を選び、そこから別の香りへ進む体験を組み立てる。これはNOSE SHOP全店での現行サービスを意味するものではなく、香りの選び方を広げてきた協働の一例である。

2026年1月9日に開設した表参道のNOSE SHOP SALONでは、完全予約制で、一組ずつ香りに向き合う時間を用意した。開設時には、ライフスタイルや好みを聞き、専門教育を受けた選抜スタッフが提案する方法を示した。人通りの多い売場で出会う体験に、落ち着いて比較するための場が加わったのである。

店舗とオンラインは、香水を届ける二つの入口である。店では実際に嗅ぎ、言葉を交わす。オンラインでは物語を読み、小さな香水との出会いを家へ持ち帰る。所在地や営業時間、実施中の体験は公式の店舗情報に集約されている。

NOSE SHOPの歴史で繰り返し現れるのは、香水の手前にあるためらいへの工夫である。立ち寄りにくさ、言葉にしにくさ、選びきれなさ。その一つひとつに売場や道具やサービスで応えてきた。世界の作り手の表現と、一人ひとりの鼻が感じることをつなぐ場所として、この店は変化を続けている。

参考文献