掃除の香りで、食べくずを払う回数が変わる?

掃除の香りで、食べくずを払う回数が変わる? 香りの科学

柑橘系の洗剤のにおいを嗅ぐと、「掃除」が頭に浮かびやすくなるのでしょうか。さらに、その結びつきは、手を動かして身の回りを整える行動にもつながるのでしょうか。

2005年の研究は、この問いを三つの実験で追いました。洗剤の香りがある条件では、掃除に関わる言葉への反応が速く、予定に掃除を挙げる人が多くなりました。最後の実験では、香りのある部屋を出た後、ビスケットの食べくずを払う回数も増えました。

「いい香りだから気分がよい」以外の経路を調べる

Holland、Hendriks、Aartsが注目したのは、香りと意味の結びつきです。日常で掃除をするときに柑橘系の洗剤を使っていれば、そのにおいと掃除という行為が結びついているかもしれません。研究では、香りがその知識を思い出しやすくし、考えや行動に関わる可能性を検討しました。

主な狙いは、香りの快さによって近づいたり避けたりする反応だけでなく、「何を連想するか」という認知の経路を調べることでした。また、参加者が香りの存在や、その影響に気付いていたかも、実験後の質問で確認しています。

実験1:掃除に関わる言葉を、速く見分けるか

最初の実験には、オランダの大学生50人が参加しました。香りのある部屋か、香りを拡散しない部屋に無作為に割り付けられ、画面に出る文字列が実在する単語かどうかを、できるだけ速く正確に答えました。

香りの条件では、多目的洗剤をぬるま湯に入れた容器を、参加者から見えない場所に置きました。画面に出る40の文字列のうち20は実在する単語で、その中の6語が「掃除」「片付け」「衛生」などに関係していました。残る14語は自転車や机などの対照語です。単語そのものの快・不快は、予備調査でそろえていました。

全般に反応が極端に遅かった1人を除いた49人を解析すると、香りの有無による違いは、掃除関連語と対照語で異なっていました。香りの条件では掃除関連語への反応が速く、対照語への反応は条件間で似ていました。香りと単語の種類の交互作用はp=.04でした。

この結果は、単にすべての反応が速くなったというより、掃除に関わる知識へアクセスしやすくなったという説明に合います。

実験2:その日の予定に、掃除を挙げるか

次の実験には、別の大学生56人が参加しました。香りの操作は同じで、参加者には「日常の活動について調べる」と説明し、その日の残りの時間にする予定を五つ書いてもらいました。

条件や仮説を知らない2人の判定者が、掃除や片付けに関わる予定が含まれるかを確認しました。掃除関連の活動を挙げた人は、香りのある条件で36%、対照条件で11%でした。差は統計的に有意でした。

ここで測ったのは、実際に帰宅後に掃除した回数ではなく、予定として思い浮かべて書いた内容です。最初の実験の「言葉が処理しやすい」という結果から、これから何をするかという考えにも、掃除が入りやすくなることへ、一歩進んだ検討でした。

実験3:食べくずを払う動作が増えるか

最後の実験には大学生22人が参加し、香りあり・なしの条件へ無作為に割り付けられました。まずそれぞれの部屋で質問紙に回答し、その後、香りを拡散していない別室へ移動しました。そこで、食べくずが落ちやすい丸いビスケットを食べてもらいました。

研究チームは、食べている間の手の動きを隠しカメラで記録しました。条件と仮説を知らない2人の判定者が、机の上のくずを取り除いた回数を数えています。

その平均回数は、先に洗剤の香りのある部屋にいた条件で3.54回、対照条件で1.09回でした(p=.02)。同じ香りのする机を掃除したという実験ではなく、別室へ移った後の小さな動作にも差が現れた点が特徴です。

この数値は、くずを取り除く動作の回数です。机の汚れの量や、最終的にどれだけ清潔になったかを数値化したものとは区別されます。

「気付かないうちに」は、どう確かめたのか

各実験の後には、研究の目的をどう考えたか、特定のにおいに気付いたか、それが課題に影響したと思うかを段階的に質問しました。

最初の実験では6人、最後の実験では1人が香りに気付いていましたが、著者らによると、香りが課題に影響したという仮説を把握した参加者はいませんでした。香りに気付いた人を除いても、結果の全体的なパターンは変わらなかったと報告されています。

したがって、この論文の「非意識的」という表現は、とくに香りが考えや行動に及ぼす影響を本人が把握していなかった、という意味で読むのが適切です。全員の嗅覚の閾値を測り、その閾値より下の刺激だけを与えた設計ではありません。気付きの評価も、実験後の本人の回答に基づきます。

三つの結果が示すものと、残る問い

三つの実験は、掃除関連語の処理、予定の内容、実際の小さな動作という異なる測り方で、香りと掃除の結びつきを検討しました。著者らは、洗剤のにおいで掃除という概念が使いやすくなり、その場で可能な行動に結びついたと解釈しています。

ただし、三つの実験は別々の参加者で行われています。同じ人で、言葉への反応が速くなったことが原因となって、くずを払う動作が増えたという一連の経路を直接測定したわけではありません。

また、比較したのは特定の柑橘系洗剤と無香の条件です。別の快い香りや、掃除と結びつきにくい香りとの比較はありません。洗剤のどの成分が重要か、快さがどの程度関わるか、別の生活文化でも同じ結果になるかは、この実験からは決まりません。とくに行動の実験は22人と小さく、広い場面への一般化にはさらなる確認が必要です。

まとめ

この研究では、柑橘系洗剤の香りがある条件で、掃除に関わる言葉への反応が速くなり、その日の予定に掃除を挙げる人も増えました。別の実験では、香りのない部屋へ移った後も、ビスケットのくずを取り除く回数が対照条件より多くなりました。

香りは快い・不快という感覚だけでなく、日常で結びついた意味を呼び起こし、その場の考えや動作に関わる可能性があります。身近な洗剤のにおいを使って、その認知的な経路を三段階で検討した研究です。

本研究はオランダ科学研究機構(NWO)の助成を受けています。

参考文献

Holland RW, Hendriks M, Aarts H. Smells Like Clean Spirit: Nonconscious Effects of Scent on Cognition and Behavior. Psychological Science. 2005;16(9):689–693. doi:10.1111/j.1467-9280.2005.01597.x.