バニラはほっとする感じ、ミントはすっきり元気な感じ。そうした香りの連想は、じっくり言葉で答えるときだけでなく、素早くキーを押す課題にも表れるのでしょうか。
2019年の研究では、香りと気持ちの言葉を分類するとき、「バニラと安らぎ」「ミントと活力」を同じキーに割り当てるほうが、逆の組み合わせより反応が速くなりました。香りの名前だけでも、名前を示さずに実際のにおいを嗅いだ場合でも、この違いが見られています。
言葉にする前の結びつきを、反応時間で調べる
香りにどんな気持ちを抱くかは、ふつう質問紙で調べます。ただ、自分の感じ方を言葉にする力や、どう答えるべきかという考えも回答に関わります。研究チームは、そうした自己申告を補う方法として、香りと「安らぎ・活力」の自動的な結びつきを測れるかに注目しました。
用いたのは、潜在連合テスト、IATと呼ばれる課題を香りに合わせて改変したものです。参加者は、画面に出る言葉や、鼻に届くにおいを、左右二つのキーのどちらかで、できるだけ速く正確に分類します。
たとえば、ある課題では「バニラ」と「穏やか」に相当する言葉を左キー、「ミント」と「活力がある」に相当する言葉を右キーへ割り当てます。別の課題では、バニラと活力、ミントと安らぎを同じキーにします。
もしバニラと安らぎが結びついていれば、前者の割り当ては処理しやすく、後者では少し時間がかかるはずです。研究では、この組み合わせによる反応時間の差を、連想の手掛かりにしました。
まずは「バニラ」「ミント」という名前だけで
実験1では香りを使わず、画面に「バニラ」「ミント」という文字を出しました。安らぎ側には、落ち着いた、穏やかな、安心したといった意味のフランス語を、活力側には、元気な、リフレッシュしたといった言葉を使っています。
参加者32人のうち、IATの解析対象は31人でした。予想に沿う組み合わせの課題では、平均反応時間が776ミリ秒、逆の組み合わせでは910ミリ秒となり、前者が有意に速くなりました。これは香り名と気持ちの言葉の試行を合わせた、課題全体の平均です。
課題後の質問でも、バニラという名前はミントより安らぎと、ミントはバニラより活力と強く結びつけられました。ただし、この段階で分かるのは言葉同士の関係です。実際に嗅いだときにも同じ結びつきが表れるか、次の実験で確かめました。
名前を伏せて嗅いでも、反応は速くなった
実験2では、バニラを思わせるバニリンと、ミントを思わせるメントールを使いました。装置でにおいを鼻へ届け、名前は教えず、「におい1」「におい2」として覚えてもらいました。二つのにおいを区別する課題と、気持ちの言葉を分類する課題を組み合わせます。
参加者31人のうち、IATの解析は30人で行いました。バニリンと安らぎ、メントールと活力が同じキーになる課題では平均1,072ミリ秒、逆の組み合わせでは1,359ミリ秒で、やはり前者が有意に速くなりました。ここも、においの試行だけでなく、言葉の試行を含めた平均です。
自己評価では、バニリンはより安らぎを、メントールはより活力を感じさせると答えられました。メントールのほうが強く、なじみ深くも評価されており、二つの刺激がすべての面で同じだったわけではありません。
また、名前を提示しなくても、よく知る香りなら本人が「これはバニラだ」と気づく可能性があります。そこで研究チームは、もっと名前を特定しにくい香りへ進みました。
単一成分だけでなく、二つの調合香でも
実験3では、香水として調合された二つの香りを使いました。一つはベルガモットやレモンなどを含むシトラス・アロマティック系、もう一つは花々にバニラやムスクなどを合わせたオリエンタル・フローラル系です。事前の評価資料から、それぞれ活力、安らぎを感じさせるものとして選ばれました。
35人が参加し、報告されたIAT解析対象は34人です。二つの香りも名前を伏せて提示しました。予想に沿った割り当てでは平均1,244ミリ秒、逆の割り当てでは1,364ミリ秒となり、反応時間の差は有意でした。
自己評価でも、二つは安らぎ・活力の面で違いがありました。一方、強さ、なじみ深さ、好ましさの差は有意ではありませんでした。単純な香料成分だけでなく、より複雑で、バニリンやメントールほどなじみ深くない調合香でも、課題上の結びつきが見つかったことになります。
三つの実験とも、組み合わせによる正答率全体の差は有意ではありませんでした。また、反応時間の差を標準化して実験間で比べた解析でも、有意差は見つかりませんでした。ただし、これは三つの効果がまったく同じ大きさと証明されたという意味ではありません。
安らぎの連想と、実際に落ち着く効果は分けて考える
この研究が測ったのは、香りと気持ちの言葉を、どれほど素早く組み合わせられるかです。香りを嗅いだ前後で気分が改善したか、集中力が上がったか、身体が鎮静したかを検証した試験ではありません。
著者らは、暮らしの中で香りと場面が繰り返し結びつき、連想として身につく可能性を論じています。名前だけでも効果が出たことは、この説明と合います。一方で、この実験で連想を新しく学習させたわけではないため、原因を学習だけに決めることはできません。
参加者はいずれもFirmenichの各部門から集めたフランスまたはスイス国籍の人たちでした。香りを認識できたかの確認も行っていません。文化や経験が違う集団、安らぎ・活力の特徴がはっきりしない香りでどうなるかは、次の課題です。
また、嗅覚では刺激を次々と高速で提示しにくいため、この課題は通常の視覚中心のIATと完全に同じではありません。本人の本音や無意識をそのまま読み取る道具というより、質問紙だけでは分からない連想を、別の角度から調べる手段と考えるのがよさそうです。
研究にはFirmenich所属の著者が参加し、同社の助成とスイスの研究資金による支援が記載されています。著者らは、執筆・出版に関する潜在的な利益相反はないと申告しています。
まとめ
バニラ・ミントの名前、実際のバニリン・メントール、二つの調合香。三段階の実験で、予想される安らぎ・活力の組み合わせを同じキーで答えると、逆の組み合わせより反応が速くなりました。
結果は、香りと気持ちの間に、素早い分類に表れる自動的な連想があることを支持します。同時に、香りに対応させたIATが、自己申告を補う研究方法になる可能性を示しました。「安らぎを連想する」と「実際に心身が落ち着く」を分けることで、香りの働きを、より具体的に確かめられます。
参考文献
Lemercier-Talbot A, et al. Measuring Automatic Associations between Relaxing/Energizing Feelings and Odors. Food Quality and Preference. 2019;77:21–31. doi:10.1016/j.foodqual.2019.04.010


