同じコーヒーでも、カップの形で香りの感じ方が変わる?

同じコーヒーでも、カップの形で香りの感じ方が変わる? 香りの科学

豆も淹れ方も同じなのに、カップを変えると香りや味の印象が変わる。そんな体験を、ブラジルのコーヒーイベントで調べた研究があります。口がすぼまったカップでは香りが強く、途中にくびれのあるカップでは甘味と酸味が強く評価されました。

ただし、味を強く感じるカップが、誰にとっても一番おいしいとは限りません。香りや味の強さと、好きかどうかは別の問題で、そこには飲む人の経験も関わっていました。

三つの形と、二つの経験の違いを比べる

2018年に発表されたこの研究の目的は、カップの形がスペシャルティコーヒーの香り、甘味、酸味、好ましさに影響するかを調べることでした。さらに、その影響がコーヒーの仕事に携わる人と、愛好家とで違うかにも注目しています。

参加者287人のうち、最終解析には276人のデータが使われました。内訳は、生産者、鑑定士、流通関係者、焙煎士、バリスタなどの専門家151人と、仕事にはしていない愛好家125人。専門家は少なくとも1年の職業経験があり、愛好家もスペシャルティコーヒーを1年以上飲んでいる人でした。

使ったのは、白く滑らかな陶器製の三つのカップです。高さは6.5cmで共通し、重さもほぼ同じでした。

「チューリップ型」は下側がふくらみ、飲み口がすぼまった形。「オープン型」は飲み口へ向かって広がる形。「スプリット型」は、ふくらんだ下部と開いた上部の間にくびれがあります。色や素材などをなるべくそろえ、形の違いを中心に比較できるようにしました。

一人が飲んだのは、一つのカップ

参加者は、三つのカップすべてを飲み比べたわけではありません。一人が受け取るのは、いずれか一種類のカップに入ったコーヒー約60mLです。各条件の人数ができるだけ偏らないように割り当て、異なる参加者の評価を比べました。

コーヒーはブラジル産のイエローブルボンという品種で、同じ豆と抽出条件を使いました。専門のバリスタがペーパードリップで淹れ、提供時の温度は平均58.2℃でした。

まず、飲む前に鼻で嗅ぐ香りの強さを評価します。その後に飲み、温度、甘味、酸味、最後にどれくらい好きかを、0から10に相当する線上の尺度で答えました。カップの形は隠しておらず、参加者は見た目や手触りも含めて一杯を体験しています。

香りはチューリップ型、甘味と酸味はスプリット型

香りは、チューリップ型のカップを使った人たちが、オープン型やスプリット型を使った人たちより強く評価しました。この傾向は、専門家にも愛好家にも見られました。

一方、甘味と酸味はスプリット型で高く評価されました。同じコーヒーでも、香りの強さが最も高いカップと、甘味や酸味が最も高いカップは一致しなかったのです。

ここで測ったのは、人が感じて答えた強さです。カップを変えたことで液体中の糖や酸の量が増えたと示した結果ではありません。また、温度の評価には、カップの形による有意な差は認められませんでした。

強く感じれば、もっと好きになる?

全体では、スプリット型に入ったコーヒーの好ましさが、ほかの二つより低く評価されました。ところが、専門家と愛好家を分けると、同じ傾向ではありません。

スプリット型での好ましさの平均は、愛好家が4.44、専門家が6.46でした。反対に、オープン型では愛好家が6.81、専門家が6.04で、愛好家のほうが高く評価しました。いずれの専門家・愛好家間の差も、統計的に有意でした。

スプリット型では、香りの強さも専門家のほうが愛好家より高く評価しました。一方、専門家がすべてのカップで、あらゆる味を強く感じたわけではありません。重要なのは、カップの形と飲み手の経験の組み合わせによって、評価の変わり方が違ったことです。

著者らは、くびれた形の珍しさが愛好家の評価に影響した可能性を挙げています。専門家はさまざまな器からコーヒーを評価することに慣れているのかもしれません。ただし、カップ自体の見た目の好みや、珍しさへの反応を直接測ったわけではなく、これは結果を説明する仮説です。

形が変えるのは、香りの届き方か、期待か

チューリップ型で香りが強かった理由として、ふくらんだ下部と狭い飲み口が、揮発した成分の広がり方やとどまり方を変えた可能性があります。ただ、この研究では容器内や鼻元の香り成分を化学分析していません。実際にどれだけの成分が届いたかは分かりません。

もう一つの可能性は、見る、触る、味わうという感覚の重なりです。丸い形から甘さを連想するように、器の姿が味への期待や感じ方に関わることがあります。今回はカップを見て触れながら飲んでいるため、物理的な香りの届き方と、見た目や手触りの働きを分離できません。

酸味がスプリット型で高くなった理由は、さらに明確ではありませんでした。著者らは、甘味と柑橘系の風味の感じ方が関わる可能性などを論じていますが、仕組みが確定したわけではありません。飲み口の形で液体が舌の特定の場所へ流れるから、という説明だけでも、この結果は十分に説明できないとしています。

対象は一種類のコーヒーと、ブラジルのイベントに来た参加者です。豆の風味や焙煎、飲む文化が違えば、好まれる組み合わせも変わるかもしれません。この研究は「最良のカップ」を一つ決めるより、器まで含めて飲む体験ができていることを示しています。

謝辞には、カップの開発に関わったTim Wendelboe氏、イベント関係者、農園、コーヒー関連団体などからの協力が記載されています。

まとめ

同じスペシャルティコーヒーでも、チューリップ型では香りが、スプリット型では甘味と酸味が強く評価されました。温度の感じ方には有意な差がありませんでした。

好ましさは、形だけでなく飲み手の経験によっても変わりました。とくにスプリット型は、愛好家と専門家で評価が分かれています。香りを強く感じたいのか、味のどの面を楽しみたいのか、自分が心地よく飲めるのか。カップを選ぶときは、こうした問いを分けてみると、一杯の違いに気づきやすくなりそうです。

参考文献

Carvalho FM, Spence C. The shape of the cup influences aroma, taste, and hedonic judgements of specialty coffee. Food Quality and Preference. 2018;68:315–321. doi:10.1016/j.foodqual.2018.04.003