映像の香りは、思いどおりに伝わる?

映像の香りは、思いどおりに伝わる? 香りの科学

コーヒーを入れる映像に合わせて、コーヒーの香りが届く。そんな体験を作るには、場面に合うタイミングで香りを出す装置と、その香りを「コーヒーらしい」と感じてもらう工夫が必要です。

Chuhong Wangらが2024年12月にオンライン公開した研究では、映像と音に合わせて4種類の香りを切り替える装置を開発し、28人が体験しました。研究の目的は、香りを制御して同じ方向へ届ける機構を作り、視聴体験の中でどう受け取られるかを調べることでした。論文は2025年の誌号に収録されています。

香りの瓶を動かし、出口を揃える

装置は、体に着けるものではなく、視聴者の近くに置く方式です。市販のスプレー瓶をレール上に並べ、モーターで瓶を動かして、使いたい香りを共通の噴霧位置へ運びます。そこで電磁式の押し機構がスプレーを押し、ファンで香りを送ります。

四つの瓶には、それぞれコーヒー、花、チョコレート、イチゴに対応する市販の水に溶かせる香料を入れました。五つ目の瓶は水で、共通の流路を洗い流すためのものです。香りは一度に一種類ずつ切り替える構造で、四つを同時に混ぜて新しい香りを作る装置ではありません。

異なる位置に発香器を置くと、香りごとに届く方向が変わることがあります。この装置では、一つの押し機構、ファン、共通の管を使い、どの香りも同じ方向から届ける設計にしました。視聴者が香りを探して顔を動かさずに済むことを狙っています。

映像より10秒早く、香りを出し始める

香りを噴霧してから、測定した揮発性成分の濃度が最大になるまでには、およそ10秒かかりました。研究者らは、濃度の最大と、人が最も強く感じる時点が対応すると仮定し、映像に対象が現れる10秒前から香りを出す設定にしました。

これは、全員が10秒後に同じ強さを感じると確かめた設定ではありません。映像とのタイミングを合わせるために、装置の測定値を手がかりとして先行提示したものです。

体験に使ったのは、音の付いた約3分の映像でした。コーヒーショップ、花のある庭、チョコレートとイチゴでケーキを作る場面が続きます。最後の場面では、チョコレートの香りを出した後、イチゴへ切り替えました。場面の間にも間隔を設け、切り替えの時間を確保しています。

28人は、どの香りを選んだか

参加者は男性19人、女性9人で、多くが大学の学生など、34歳未満の人でした。事前に12種類の匂いを使う識別テストを受けた後、装置から約50センチメートル離れて映像を見ています。

視聴中は、コーヒー、花、チョコレート、イチゴ、香りなしという選択肢から、その場面で感じたものを選び、強さも10段階で答えました。結果として、28人中21人が、四つのうち少なくとも三つを正しく選びました。

花やチョコレートは選びやすく、コーヒーには難しさが残りました。研究者らによると、使ったコーヒー香料にはバニラのような甘い印象がありました。体験後の回答でも、12人がコーヒーの香りを甘すぎると指摘しています。

装置が「コーヒー用の瓶」を正しく選んでいても、中身が参加者の期待するコーヒーの匂いに近いとは限りません。香りの種類を電子的に選ぶことと、その香りが何として伝わるかは、別の調整課題でした。

なお、この試験では、対応する映像と選択肢が同時にあります。香りを出さない条件との比較もありません。したがって、正答したことだけから、視覚の手がかりに頼らず香りを識別したとまでは判断できません。

楽しさの評価と、使いやすさの課題

体験後の10段階評価は、快適さが平均約8.4、没入感や面白さも平均約8.4と、全体として高い値でした。香りの加わった体験を肯定的に捉えた人が多かった一方、これは体験後の感想です。香りのない映像より没入感が高まったことを、対照条件との比較で示した値ではありません。

改善点も具体的でした。花の香りを強すぎると感じた人がいて、装置の大きさや外観、香りが室内に残ること、設定の難しさを気にする声がありました。6人は、瓶を動かすモーターの音が大きいと答えています。

今回、香料を水で薄める割合は、すべて同じにしていました。しかし、同じ割合に薄めても、成分の出方や感じる強さが揃うとは限りません。著者らは、好きな香りを選べるだけでなく、使用前に個人の感じ方を確かめ、強さを調整できる仕組みが必要だと考えています。

まとめ

この研究は、瓶を動かして共通の位置から噴霧することで、複数の香りを映像と音に合わせて順番に届ける装置を示しました。利用者の評価からは、香り付きの体験への好意的な反応と、香料の選び方、強さ、動作音といった改良点が見えてきました。

著者らが次に挙げているのは、場面をよく表す香料を選ぶこと、噴霧量を調整すること、装置を静かにすることです。さらに、より幅広い利用者での評価や、AIで場面と香りを対応させる仕組みも展望に含めています。映像へ香りを加える技術では、出す時刻と方向を制御する設計に、人がその匂いをどう解釈するかの評価を組み合わせることが重要になります。

参考文献

Wang, C., Daulton, E., & Covington, J. A.(2024年オンライン公開、2025年誌号). Multi-scent olfactory display with visual and sound interaction. International Journal of Human-Computer Studies, 197, 103421. DOI: 10.1016/j.ijhcs.2024.103421/原著全文。

著者らは、研究に影響した可能性のある金銭的な利益相反や個人的関係はないと申告しています。原著:© 2024 The Author(s)、CC BY 4.0。