香料を小さなカプセルに包むと、中身が外へ出る速さや、力を加えたときの壊れ方を調整できます。では、殻に違う材料の層を加えると、香りを包む性能はどう変わるのでしょうか。
Daniele Baioccoらが2024年に発表した研究は、菌類由来のキトサンで作る殻に、シリカの層を加える方法を検討しました。合成樹脂や動物由来の原料に頼る従来のカプセルに代わる材料を探しながら、強さと香料の保持を両立させようとした研究です。
菌類由来の材料と、無機材料を組み合わせる
カプセルの中身には、サリチル酸ヘキシルという香料を使いました。複数の香料を混ぜた香水や精油ではなく、一つのモデル成分で、殻の働きを調べています。
研究者らは、水中に分散させた香料の小さな油滴を、界面活性剤と、表面を調整したシリカのナノ粒子で安定化させました。そこへ、菌類から得たキトサンを加え、電荷の引き合いを利用して最初の殻を作ります。
続いて、ケイ酸ナトリウムからシリカを生じさせ、もう一つの層を形成しました。比較したのは、この追加の層があるカプセルと、最初の殻までで作ったカプセルです。最初の段階でも油滴を安定化するシリカ粒子を使っているので、「シリカがあるか、まったくないか」という比較ではありません。
顕微鏡では、中身を入れる空間を持つ、ほぼ球形のカプセルが確認されました。元素の分析からは、追加した材料がキトサンの層を通って内側へ入り、そこでシリカを形成した可能性も考えられています。単に外側へ均一な膜を貼っただけとは限らず、層ができる過程の理解も、この材料を改良する手がかりです。
一粒ずつ押して、壊れるまでを測る
強さの試験では、それぞれの試料から30粒のカプセルを取り、乾燥させた後、平らな先端の小さな探針で一粒ずつ押しました。どれだけの力と変形で殻が破れるかを測っています。
粒の大きさを考慮して力を表した「公称破壊応力」は、最初の殻だけの場合に平均1.7メガパスカル、二重殻で3.0メガパスカルでした。二重殻のほうが高い値を示し、壊れるまでの変形も大きくなっていました。
著者らは、キトサンの比較的柔軟な構造に、シリカによる補強が加わったと考えています。ただし、この値は今回の粒を乾燥させて圧縮したときの性能です。洗濯中の摩擦や、肌に塗るときの力で、ちょうどよいタイミングに壊れるかは別に確かめる必要があります。
水の中では、香料が出にくくなった
香料の保持を調べる試験では、カプセルを透析用の膜でできた袋に入れ、中性の水に浸しました。外側の水へ移ってきたサリチル酸ヘキシルを、20日間にわたって測定しています。袋の膜そのものが、主な障壁になっていないかを確かめるため、包んでいない香料だけを入れた対照も使いました。
20日後に外へ出た香料の割合は、最初の殻だけのカプセルで約10%、二重殻で約2.5%でした。この条件では、シリカの層を追加したカプセルのほうが、中身を水中へ漏らしにくくなっていました。
著者らは、キトサンの層が香料の移動を抑える主な壁として働き、追加のシリカがさらにその移動を遅らせた可能性を考えています。シリカの構造には隙間があるため、単独の材料にすべてを任せるより、異なる材料の働きを組み合わせるという設計です。
ただし、水へ成分が出る速さは、空気中へ揮発する速さや、人が香りを感じる期間とは違います。この研究で、肌の上で香りが20日続くことや、市販の洗剤で同じ保持率になることが示されたわけではありません。
殻の強さ以外にも、調整する余地がある
二重殻には、ほかの変化もありました。カプセルの重量に占める香料の割合は、最初の殻だけで約36%、二重殻で約28%でした。香料を守る層を加えた製品を考えるときには、壊れにくさや漏れにくさに加えて、同じ重さでどれだけの香料を運べるかも関わります。
また、使った香料はサリチル酸ヘキシル一種類です。著者らは、中身が変われば、油滴と水の境目の性質が変わり、同じ殻の材料でも性能が異なる可能性を指摘しています。今回の結果を、あらゆる精油や調合香料へそのまま広げることはできません。
材料選びには環境面の狙いもありますが、完成した二重殻が自然環境でどれほど分解するかや、製品全体の環境負荷は、この研究では測っていません。皮膚への安全性も未評価です。著者ら自身、使用した界面活性剤SDSを、より皮膚への適合性を考慮した候補へ置き換えることを、今後の課題に挙げています。
まとめ
菌類由来のキトサンとシリカを組み合わせた二重殻は、今回のモデル香料を使う実験で、圧縮に対する強さと、水中で中身を保つ働きを改善しました。材料を置き換えるだけでなく、異なる層をどう組み合わせるかが、カプセルの性能を調整する方法になります。
著者らは、より緻密で均一なシリカ層を作ることと、界面活性剤の選択を見直すことを、次の改良として提案しています。実際の製品へ進むには、入れる香料、使う液体、必要な壊れ方を合わせて検証し、環境面や安全性も含めて評価することが必要です。
参考文献
Baiocco, D., Al-Sharabi, M., Lobel, B. T., Cayre, O. J., Routh, A. F., & Zhang, Z.(2024). Eco-Friendly Fungal Chitosan-Silica Dual-Shell Microcapsules with Tailored Mechanical and Barrier Properties for Potential Consumer Product Applications. ACS Omega, 9(26), 28385–28396. DOI: 10.1021/acsomega.4c02287/原著全文。
研究は英国EPSRCの支援を受けています。著者らは金銭的な利益相反なしと申告しています。原著:© 2024 The Authors、CC BY 4.0。


