nowas(ナワズ)――450年の香文化を、現代の「香りのお守り」へ

nowasの赤い香水ボトルを、香木や香り袋とともに柔らかな光が差す和室に置いたブランドイメージ ブランド創業者

「過去と今を和の精神をもって繋ぐ」
――株式会社日本香堂 プロジェクト開発部 ブランド開発室・嶋脇明菜

香りを焚き、心を整える。衣や手紙に香りを移し、言葉にならない思いを伝える。香木と向き合い、感覚を研ぎ澄ます――。日本の香りは長い歴史のなかで、単なる嗜好品ではなく、人の心や振る舞いに寄り添う存在であり続けてきた。

nowas(ナワズ)は、そうした香文化を現代のオードパルファムへと翻訳するために、日本香堂から誕生したフレグランスブランドである。戦国、平安、室町、江戸という四つの時代から香りの物語をすくい上げ、それぞれを「決断」「交流」「集中」「休息」という今日の生活に重なる場面へ結び直している。

基本情報

ブランド名: nowas(ナワズ)
設立・発売年: 2026年。第一弾となるオードパルファム4種は、2026年2月13日に発売された。
創設: 株式会社日本香堂。特定の個人が立ち上げたブランドではなく、Z世代の社員を中心とするプロジェクトチームと社内調香師によって開発された。
キーパーソン: 日本香堂プロジェクト開発部ブランド開発室の嶋脇明菜、市場開発部の坂場美希。
公式サイト: https://www.nipponkodo.co.jp/nowas/

ブランドの成り立ち

450年の歴史から、次の香りへ

ナワズの物語は、一人の創業者の原体験ではなく、日本香堂グループが受け継いできた香文化から始まる。

その源流にあるのが、1575年に京都で始まった香の名跡「香十」である。日本香堂グループはその系譜を継承し、線香やお香をはじめ、暮らしのなかで香りを楽しむさまざまな製品を手がけてきた。2025年には450年の節目を迎え、同年、栃木県の塩谷フレグランス工場が稼働した。

450周年に掲げられたテーマは、「聞く〜awake your spirit〜」。香りを「嗅ぐ」だけでなく、自分の内側や、積み重ねられてきた時間に耳を澄ませるものとして捉え直す試みであった。「今までを聞く」「今を聞く」「これからを聞く」という三つの視点から、伝統を保存するだけではなく、次の時代へどう渡すかが考えられた。

その流れのなかで動き出したのが、次世代に向けた新しいフレグランスの開発である。中心となったのは、Z世代の社員を含む社内プロジェクトチームだった。長年扱ってきたお線香やお香とは異なる方法で、香りの魅力を日常へ届ける。そのために選ばれた形が、肌につけて持ち歩けるオードパルファムであった。

「お線香やお香以外の新しいキャリアでも“香りの良さ”をどう届けるか」
――株式会社日本香堂 市場開発部・坂場美希

ここでいう「キャリア」とは、香りを運ぶ媒体のことである。火を灯し、空間に広げる薫香から、肌の上で時間とともに表情を変える香水へ。ナワズが試みたのは、日本香堂が培ってきた香りの知見を、形式だけ変えて移し替えることではない。焚く香りに込められてきた心の働きまで、現代の生活に合うかたちで受け渡すことであった。

自社工場で生まれた香水

日本香堂は、線香やお香のほか、入浴剤やルームフレグランスなど幅広い香りの製品を扱ってきた。その同社にとっても、自社のフレグランス工場で香水を製造する試みは、ナワズが初めてであった。開発チームは、社内で香りの知識と感性を受け継ぐ調香師とともに香調を組み立て、新設された工場で製品へ仕上げていった。

「今のライフスタイルに、伝統ある香りを届ける」
――嶋脇明菜

この言葉は、ナワズの立ち位置を端的に示している。ブランドが見つめているのは過去だが、作ろうとしたのは復刻品ではない。戦国時代の武士、平安時代の貴族、室町時代に育まれた芸道、江戸時代の庶民生活。それぞれの時代で香りが果たした役割を読み直し、現代人の一日に置き換えている。

戦いの前に心身を整える香りは、決断を控えた朝のために。衣や手紙を通して思いを伝えた香りは、人と心を交わす時間のために。香道などの芸道とともに磨かれた香りは、集中して何かを生み出す時間のために。そして香り袋に託された安らぎは、一日を終えて休む夜のために――。歴史上の香りの役割を、現代の感情と行動へつなげる構成である。

NOWとWASを結ぶ「WA」

ブランド名の「nowas」は、NOW(今)とWAS(過去)の間に、WA(和)を重ねた造語である。

ここでいう「和」は、単に和風の素材や意匠を指すものではない。過去と現在、東洋と西洋、静けさと躍動といった、一見相反するものを調和させる考え方である。ナワズという短い名前には、伝統をそのまま再現するのではなく、現代の感覚と結び直して未来へ渡そうとするブランドの姿勢が込められている。

「香りのお守り」という発想

ナワズが掲げるもう一つの象徴が、「香りのお守り」である。日本では古くから、香りは場を清め、邪気を遠ざけ、心を落ち着かせるものとして生活に取り入れられてきた。ナワズはその役割を、現代人が日々持ち歩ける15mLの香水へ置き換えた。

第一弾の4作品は2026年2月13日に発売され、同日から2月23日まで、渋谷パルコで最初のポップアップが開かれた。各作品は15mL、税込13,200円。小さなボトルと専用の巾着を組み合わせ、使う場面だけでなく「携える」という行為まで含めて、お守りのイメージを形にしている。

店頭では4作品がおおむね偏りなく選ばれた一方、訪日客には力強い印象のアクト、日本の顧客には日常で使いやすいタイが好まれる傾向があったという。これは発売初期の店頭で得られた反応であるが、同じ香文化を背景に持つ4作品でも、受け手の文化や生活によって選ばれ方が変わることを示す興味深いエピソードである。

ブランドのこだわり

東洋の香木と西洋香水

4作品の香りには、日本香堂が長く向き合ってきた沈香と白檀の香調が通底している。アクトとゼップは沈香の香り、タイとワフは白檀の香りを基礎に据え、そこへ柑橘、花、スパイス、ムスクなど、西洋香水で親しまれてきた香料を重ねている。

沈香は、樹木が傷ついた部分に樹脂が蓄積し、長い時間をかけて芳香を宿す香木である。白檀は、柔らかな甘さと乳白色を思わせるまろやかさを持ち、香りを支える素材として東洋でも西洋でも広く使われてきた。ナワズでは、こうした香木を古典の象徴として閉じ込めず、ローズ、ベルガモット、バニラ、ムスクなどと組み合わせることで、現代の肌になじむ香調へ整えている。

発売時の紹介では、4作品にアップサイクル素材を取り入れたことも伝えられている。アップサイクルとは、廃棄されるはずだった素材に新しい価値を与え、別の製品へ生かす考え方である。伝統を受け継ぎながら、現在のものづくりに求められる循環性にも目を向けた設計といえる。

お香の「残り香」を香水へ

ナワズが重視したのは、つけた瞬間の華やかさだけではない。肌の上で香りがやわらいだ後にも、ほのかな余韻が続くよう、持続性が意識されている。開発者は持続時間の目安を約4〜6時間と説明しているが、そこに重ねられたのが、お香を焚き終えた後に空間へ残る「残り香」という感覚であった。

お香は、煙が立っている間だけを楽しむものではない。火が消えた後、部屋や衣服に静かに残る香りにも味わいがある。香水のトップノートを強く印象づけるのではなく、時間がたつにつれて肌になじみ、自分の近くへ戻ってくる。その余韻に、日本香堂らしい香りの時間感覚が表れている。

過去と今を映すボトル

ボトルにも、ブランド名と同じく「過去」と「今」の対比が組み込まれている。木製キャップは積み重ねられてきた香文化を象徴し、平たく携帯しやすいボトルと鮮やかな色彩は現代性を表す。クラシカルな素材感と、ポップで軽やかな造形を一つに収めたデザインである。

ボトルのサイズは高さ90mm、幅37mm、奥行24mm。容量は15mLで、手のひらや小さなバッグにも収まりやすい。製品にはボトルの色と呼応するオリジナル巾着が付属し、香水を保護するパッケージであると同時に、「香りのお守り」を持ち歩く所作を完成させている。

香水ラインナップ

第一弾は、四つの時代と四つの心の状態を結ぶオードパルファムで構成される。発売時はいずれも15mL、税込13,200円であった。

AQT(アクト)――戦国、決断の前に

アクトは、戦いの前に香を焚き、精神を整えた武士の姿に着想したウッディアンバーである。ユズとスパイスの張り詰めた明るさから、ローズの華やかさへ移り、最後はスモーキーなウードとアンバーの静けさへ落ち着く。

基礎にあるのは沈香の香りである。そこへピンクローズとユズを合わせることで、古い香木の重厚さに、行動を促す鮮やかさを加えた。 「気を整え、勇気を灯す」というテーマのとおり、大切な決断や新しい一歩を控えたときに寄り添う香りである。

TIE(タイ)――平安、心を結ぶ香り

タイは、平安貴族が衣や手紙に香りを焚きしめ、相手へ思いを伝えた文化から生まれたウッディムスクである。ベルガモットとレモンの清潔な明るさに、ローズとアイリスが重なり、サンダルウッドとムスクのパウダリーな余韻へつながる。

白檀の香調を軸にしながら、柑橘と花の柔らかさによって、現代の日常へ取り入れやすく整えられている。言葉で伝えきれない気持ちを香りに託した平安の習慣を、人に会う時間や、誰かとの距離を近づけたい場面へ重ねた一本である。

ZEP(ゼップ)――室町、感覚を研ぎ澄ます

ゼップは、室町時代に茶道、華道、香道などの芸道が育まれた背景を、ウッディグリーンとして表現する。ベルガモットとグリーンノートから、若竹、ラベンダー、ジャスミンへ移り、モミと杉の針葉樹が静かな奥行きを残す。

名前は、そよ風を意味する英語のZephyr(ゼファー)に由来する。畳を思わせる爽やかさはバンブーによって表現され、沈香の香調を基礎としながらも、暗さや重さではなく、若竹の青さと風が通り抜けるような清涼感を前面に出している。 思考を整理したいときや、創作へ深く入り込みたい時間のための香りである。

WAF(ワフ)――江戸、安らぎを携える

ワフは、江戸時代に庶民へ広がり、邪気払いやお守りとしても用いられた香り袋をモチーフにしたウッディバルサムである。カルダモンとシナモンの温かな刺激に、ジャスミンとイランイランが重なり、カシミアウッド、ベンゾイン、サンダルウッド、バニラの丸い甘さへ移っていく。

「お餅のようにふくよかなバニラ」
――坂場美希

白檀の香調を基礎にした、やわらかく包み込むような構成である。一日の緊張をほどき、自分の内側へ戻る夜に似合う。古い香り袋の役割を、現代の休息へ最も直接的に置き換えた作品といえる。

ちなみに…

4本で一日を巡る

4作品は歴史の順番だけでなく、現代の一日の流れとしても構成されている。勇気が欲しい朝にはアクト、集中したい時間にはゼップ、人と心を通わせる場面にはタイ、安らぎたい夜にはワフ。

香りを服装や季節だけで選ぶのではなく、そのとき必要な心の状態から選ぶ。ナワズが「香りのお守り」と呼ぶ理由は、この使い方に最もよく表れている。

香水と薫香を行き来する

渋谷パルコで行われた最初のポップアップでは、香水4種とともに、その香調の核となった沈香と白檀のお香も並べられた。

香水だけを独立した完成品として見せるのではなく、原点となる薫香にも触れられる構成であった。肌の上で移ろう香水と、空間に広がって残るお香。その両方を試すことで、ナワズが過去の香文化から何を受け継ぎ、どこを現代へ変換したのかが、より立体的に感じられるだろう。

補足

ナワズは日本香堂の社内プロジェクトと社内調香師の協働から生まれたブランドである。発売時の公式資料はチームによる開発を紹介し、個々の調香師名やアップサイクル素材の具体的な原料・配合率までは示していない。

参考文献
  1. nowas公式ブランドサイト(ブランドコンセプト、4作品、ボトルデザイン) – https://www.nipponkodo.co.jp/nowas/
  2. NOWH「今と過去を、和の精神をもって繋ぐ次世代のフレグランス ブランド『nowas(ナワズ)』誕生」(嶋脇明菜・坂場美希インタビュー) – https://www.nowh.media/articles/nowas-fragrance-brand-nipponkodo
  3. 日本香堂プレスリリース「“和”で時を結び、伝統を現代へと受け継ぐ香りのお守り 日本香堂、新フレグランスブランド『nowas(ナワズ)』をローンチ」 – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000049915.html
  4. 日本香堂ホールディングス「History 歩み」 – https://www.nipponkodohd.com/history/
  5. 日本香堂「日本香堂グループ450年『450プロジェクト“聞く〜awake your spirit〜”』始動」 – https://www.nipponkodo.co.jp/blog/information/4253/
  6. FASHIONSNAP「日本香堂の新フレグランスブランド『ナワズ』登場 450年の歴史から“香りのお守り”提案」 – https://www.fashionsnap.com/article/2026-01-26/nowas-launch/
  7. 日本香堂公式オンラインショップ「ナワズ オードパルファム タイ」 – https://www.nipponkodo.co.jp/shop/products/detail/39058
  8. 日本香堂公式オンラインショップ「nowas」商品一覧 – https://www.nipponkodo.co.jp/shop/products/list?category_id=150035
  9. 日本香堂「新フレグランスブランド『nowas(ナワズ)』渋谷PARCOにてPOPUP開催中」 – https://www.nipponkodo.co.jp/blog/information/4440/

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