「クリエイティビティとは、あなた自身の鏡だ。だから、自分が良くあれ。そうすれば、良いものが返ってくる。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
基本情報
ブランド名: Nicolas Degennes(ニコラ ドゥジェンヌ)
創設者: Nicolas Degennes(ニコラ・ドゥジェンヌ)
設立年: 2021年
ブランド発売日: 2021年11月(日本はノーズショップにて世界先行、フランス本国は同年11月20日)
公式サイト: nicolasdegennes.com
カテゴリ: アロマキャンドル、フレグランスディフューザー(室内フレグランス)
創設者・ブランドの成り立ち
反抗期の少年、アメリカへ
ニコラ・ドゥジェンヌの物語は、フランスの学校に居場所を見つけられなかった一人の16歳の少年の物語から始まる。
「反抗期が長かったのか、16歳の時に家を出てアメリカに渡りました。でも悪い子ではなかったと思います(笑)。当時フランスで受けていた教育に満足できず…。私は勉強よりもアートの方が興味があったんですが、もっと自由に伸び伸びと人生を生きたかったし、拘束されずに興味のあるものを学びたくて。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
英語もほとんど話せないまま渡米したニコラは、シアンスポ(パリ政治学院)(Sciences Po)でのマスタークラスでこう振り返っている。「アイオワで写真を学んでいた」と。当初は写真家を目指していたニコラだが、撮影クラスでモデルにメイクを施すうちに、化粧品の持つ力に魅せられていく。
「授業で女の子のモデルを撮影することが多かったのですが、メイクアップアーティストを雇うお金がなく、自分でメイクをするようになりました。自分の手によってモデルたちが美しくなるのを体感したわけですが、メイクは女性の外面だけでなく、自信を与えることで内面まで輝かせるパワーを持つものだと知り、すっかり夢中になり、メイクアップの世界に惚れてしまって…。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
シアンスポ(パリ政治学院)の講演記録によれば、彼は「自分が優れた写真家だったとは思わないが、メイクアップアーティストとしては信じられないような仕事をしてきた」と語っている。
フランスに帰国、メイクアップの道へ
アメリカでの体験を経てフランスに帰国したニコラは、「メイクアップ フォーエバー(MAKEUP FOREVER)」のアカデミーに入学し、ブランド創設者ダニ・サンズ(Dany Sanz)のもとでメイクアップの基礎を体系的に学んだ。 テクスチャー、アプリケーション(塗布の技術)はもちろん、クライアントへの振る舞い方まで吸収し、「毎日が学びにあふれ、ひたすら吸収し続けた」と述懐している。 18歳でメイクアップ・アーティストとしてデビューしたニコラは、その後テレビ・映画・ファッション業界で活躍を続けた。
ジバンシイでの20年以上:「4G(フォージー)」復活と革新の軌跡
1999年、ニコラはパルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)のメイクアップ・アンド・カラー・アーティスティック・ディレクターに就任した。 本人も「信じられませんでした。『私でいいの?』とチームに聞き続けたのを覚えています」と語っている通り、その抜擢は彼自身にとっても大きな驚きであったという。
着任後にニコラが最初に手がけたのは、ジバンシイのアイデンティティを再構築することであった。当時ブランドの方向性はメゾン創業者ユベール・ド・ジバンシイのDNA(ディーエヌエー)から逸脱していると感じたニコラは、象徴的な「4G(フォージー)」ロゴをパッケージに復活させ、ラグジュアリーの精神をテクスチャーや色使いのすみずみにまで行き渡らせた。
「ジバンシイのアイデンティティとシグネチャーを取り戻すことです。まず、メゾンの創業者、ユベール・ド・ジバンシイが生み出した『4G(フォージー)』ロゴを復活させました。メゾンを代表するデザインなので、必ず戻したいと思っていたんです。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
その後の20年余で、ニコラはジバンシイのベストセラーを数多く生み出した。2006年に開発したプリズム リーブル(Prisme Libre)ルース パウダーは、4色の粉末を一体にするという当時としてはユニークなコンセプトで、世界的なロングセラーとなった。 球状ヘッドを持つマスカラ「フェノメンアイ(Phenomen’Eyes)」や、ル・ルージュ(Le Rouge)リップスティックラインも、スタジオでの日々の気づきから生まれた代表作である。
「毎日、スタジオでメイクをしていて『こんな製品があったらいいな』という思いから生まれることが多いですね。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
ニコラはまた、熱心な「親日家」としても知られる。ジバンシイ在籍中、京都の西陣染色企業「今江染色」を訪問し、日本の色彩職人たちとの対話からインスピレーションを得た記録も残っている。 後のブランド立ち上げにおいて、日本的な世界観が色濃く反映されているのはその伏線と言えるかもしれない。
コロナが与えた転機、「新たな地平」へ
2021年6月、ニコラはジバンシイを退任する。20年以上にわたる在籍の終焉に業界全体が驚いた。 当時のパルファム ジバンシイCEO(最高経営責任者)のロマン・スピッツァー(Romain Spitzer)は「20年にわたるニコラの創造性とメイクアップ部門への多大なる貢献に個人的に感謝したい」と述べた。
ニコラ自身はコロナ禍の2年間を次のように振り返っている。
「振り返ると、コロナの2年間はよくないこともたくさんあったと思いますが、わたしにとってはキャリアの次のステップへと促すものになりました。一つのブランドで20年以上在籍し、ブランドのシグネチャーを確立した今、次のステップに踏み出すタイミングなのでしょう。コロナはそれを気づかせてくれました。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
退任からわずか5ヶ月後の2021年11月、ニコラは自身の名前を冠した新ブランド「ニコラ ドゥジェンヌ」を立ち上げた。 日本では2021年11月19日にノーズショップ(NOSE SHOP)渋谷とオンラインにて、フランス本国より一足先に先行販売を開始した。
なぜメイクアップではなく、フレグランスだったのか
メイクアップのキャリアで名声を築いたにもかかわらず、ニコラが自身のブランドでフレグランスを選んだ理由は明確だ。ジバンシイ在籍中、ディオール(DIOR)でパフューム クリエイション ディレクターを務めたフランソワ・ドゥマシー(François Demachy)と共にメイクアップ製品に香りを加える作業を続けるうちに、香りの世界に深く魅せられていったのである。
「メイクアップ製品は色彩だけの話ではなく、テクスチャーも香りも重要で、それらが一体となって使う人の感情や肌に影響をもたらす。そこで今まで学んだすべてをリンクさせた、何か新しいことを始めたいと思った。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
自身のブランドで個人として香りを手がけることへの意味についても、こう語っている。
「今はクリエイターとして誰の意見にも左右されず、私のシグネチャーを作りたかったんです。そして自分の思いが詰まったストーリーを、製品を通して世の中の人に共有したかった。大きなところで動くと、ときに自己を見失うことがありますが、今回は自分の気持ちに正直になり、自己を表現しました。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
ブランドのこだわり
香りの哲学:想像力を嗅ぐ人に委ねる
ニコラ ドゥジェンヌの立ち上げ時のブランド哲学の核心は、「香りに名前をつけない」という一見大胆な選択に集約される。当初の製品パッケージに記されていたのは、ユニバースの番号と香りの通し番号、そしてそのユニバースのテーマカラーだけだった。現在の公式サイトでは、番号に加えて香りの名前も併記されている。
「私は自らの想像力で作り上げた製品を、嗅ぐ人の想像力に委ねたいと思った。香りに名前をつけず、パッケージにもユニバースの番号と香りの番号だけをユニバースのテーマカラーでつけるという独自の手法を取りました。香りはくどくど説明するものじゃない。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
その背景にあるのは、香りが記憶と深く結びつくという信念だ。
「香りは、香りを嗅いだ場所と時間に、その時の年齢の自分に戻って瞬時に移動させてくれる魔力がある。1000人が1000の場所へ行き、1000の感情を感じられる香り。それが、ニコラ ドゥジェンヌの香りなのです。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
また、香りを「自己表現」と「プロテクション(守護)」と定義し、次のように語っている。
「家に帰るとその匂いにほっとして、守られているように感じる瞬間がある。香りはその人自身を取り巻くアンビアンスを創るものでもあるから。」
— ニコラ・ドゥジェンヌ
ニコラは「共感覚(ある感覚刺激から同時に別の感覚を得る感覚)」の持ち主であるともされており、色を混ぜるように香りをデザインするというアプローチがその根底にある。
素材と容器へのこだわり:「フランス製」への誓約
公式サイトおよびプレスリリースによれば、ニコラ ドゥジェンヌの製品は素材から容器まで、徹底的に品質と持続可能性を追求している。
香料: フランス南部の香水の聖地、グラース(Grasse)の老舗一族経営の調香会社が担当。トレーサビリティとサステナビリティを両立した最高品質の原材料から調合されている。
容器: フランス・リモージュ(Limoges)の陶磁器職人に特注した磁器を使用。公式サイトはリモージュの磁器職人の技を「生きた遺産(Living Heritage/リビング・ヘリテージ)」と紹介しており、ニコラはその技を採用しつつ、使用後のリサイクル・再利用を可能にするため高温焼成による非多孔性の磁器を選んだ。「食器として使い続けられる」ことも設計の一部とされている。
ワックス: 発売時の紹介では、食品容器にも使われる品質のミネラルワックス70%と、植物由来ワックス30%を組み合わせたフレンチワックスを使用するとされる。公式サイトも植物性と鉱物性のワックスを組み合わせる方針を説明している。
木蓋・パッケージ: 蓋はフランス国内の森林から調達した木材で、PEFC(ピーイーエフシー)認証(持続可能な森林管理の国際認証)を取得した木材会社より仕入れる。ガラスや梱包用段ボールにはリサイクル可能なものを使用している。
このようにすべてのサプライヤーをフランス国内に限定した「メイド・イン・フランス」へのこだわりは、ボーグ フランスが「ジバンシイで20年を過ごした後、自身のブランドを立ち上げた。本物の魂を持つインテリア フレグランス」と表現したことにも表れている。
香水ラインナップ
6つのユニバースという世界地図
ニコラ ドゥジェンヌの全製品は、五行説や五大元素に着想を得た「6つのユニバース」に分類される。各ユニバースにはテーマカラーが割り当てられ、立ち上げ時には香りをユニバース番号と通し番号で表していた。 ブランド設立時のローンチでは「ボワ(Bois:木)」「テール(Terre:土)」「オー(Eau:水)」「エール(Air:空気)」の4ユニバースが展開され、「フー(Feu:火)」と「メタル(Métal:金属)」は現時点でも開発中とされている。
| ユニバース | 日本語の意味 | テーマ |
|---|---|---|
| 1:ボワ(Bois) | 木 | 直立、耐久力、神聖 |
| 2:テール(Terre) | 土 | 保護、普遍性、地の力 |
| 3:オー(Eau) | 水 | 生命の源、浄化、清涼 |
| 4:エール(Air) | 空気 | スピリチュアル、とらえどころのなさ、活力 |
| 5:フー(Feu) | 火 | 不滅、炎、灼熱(開発中) |
| 6:メタル(Métal) | 金属 | 錬金術、コスミック、貴重(開発中) |
代表的な香り
製品ラインアップは、各ユニバースにキャンドル(240g)とフレグランスディフューザー(250ml)の2形態で展開される。ローンチ時の代表作は以下の通りである。
1.1(ボワ ユニバース): ニコラが「最も落ち着ける場所」と語る京都・東寺のお堂の香りにインスパイアされた、ブランド最初の香り。インセンス(お香)とカルダモンのトップ、ガイアックウッド・シダーウッド・パチョリのボディ、そしてトンカマメの丸みのあるベースが静寂の中の安らぎを表現する。
2.1(テール ユニバース): 「陰と陽の出会い」をテーマにした、白い花とムスクがパチョリの土台で絡み合う官能的な香り。
2.2(テール ユニバース): 南仏の陽光と神聖な時間を喚起する。タンジェリン・ベルガモット・アンジェリックのトップに、オレンジフラワーやイランイランの豊潤なボディが続く。
3.1(オー ユニバース): 遠い地への旅を夢見る香り。チュベローズやジャスミンを束ねたフローラルの心に、バニラのやわらかなベースが溶け込む。
3.2(オー ユニバース): ニコラの庭への招待状として描かれる、グリーンとミントの清涼感が主役の香り。ニガヨモギ・ローズマリーのトップから、レザーとモスの落ち着いたベースへ。
4.1(エール ユニバース): ビロードのような深紅のバラをイメージし、甘みの中にクミンやレザーの影を持たせた複雑な香り。「ニコラの薔薇は甘いだけではない」と製品説明にある。
また、ブランド設立後のインタビューでニコラは、京都で伝統的な製法によるインセンス(お香)を製作中だと語っており、日本との連携による新たな製品展開も示唆されている。
形態と価格(2021年ローンチ時)
日本でのデビュー当初、キャンドル(240g)は17,600円、フレグランスディフューザー(250ml)は19,800円(ともに税込)で発売された。
ちなみに…
ニコラが最初にブランドのキャンドルを着想した香りが京都の東寺であるというエピソードは、単なるロマンティシズムではない。 彼がジバンシイ在籍中に京都を訪問した際、西陣の染色職人「今江染色」を視察しながら日本の色彩文化を深く学んでいたことは、アーカイペラゴ(Archipelago)のウェブサイトに記録が残っている。 「日本から最もインスピレーションを受けてきた」と繰り返すニコラにとって、自ら「ブランド最初の香り」として京都の東寺を選んだことは、ひとつの誠実な告白であったのかもしれない。
シアンスポ(パリ政治学院)でのマスタークラスでは「私は48歳です」と自己紹介したあとに「いや、58歳でした」と言い直すというエピソードがある。 四半世紀以上のキャリアを持ちながら、まだ年齢を自分自身で驚いてしまう——そんな姿が、彼の創造性が老いを知らない理由を物語っているようだ。
また、ニコラはシアンスポ(パリ政治学院)の講義で「キャリアのために払った最大の犠牲は何か」という学生の質問を受け、「個人の時間と、家族を持てなかったこと」と答えたという。 この誠実な告白は、美の世界に身を捧げた一人の人間の、ある種の純粋さを示している。
参考文献
- Fashionsnap「20年以上ジバンシイのメイクを牽引したニコラ・ドゥジェンヌがフレグランスブランド立ち上げ」
- Fashionsnap「【連載:美を伝える人】ジバンシイのメイクを率いたニコラ・ドゥジェンヌ(上)写真家目指して渡米、そこで見つけた本当の夢」
- Fashionsnap「【連載:美を伝える人】ニコラ・ドゥジェンヌ(中)ジバンシイで始めた挑戦は『4G(フォージー)』の復活」
- Fashionsnap「【連載:美を伝える人】ジバンシイのメイクを率いたニコラ・ドゥジェンヌ(下)ただ今はフレグランスに情熱を注ぎたい」
- Sciences Po「Creativity and Emotion: A Masterclass with Givenchy's Nicolas Degennes」
- Talented-U「Interview: Nicolas Degennes — Creativity is really a mirror of yourself」
- FashionNetwork(US)「Givenchy Parfums, Nicolas Degennes end 20-year collaboration」
- Cosmetics Business「Givenchy parts ways with Creative Director Nicolas Degennes」
- Nicolas Degennes公式サイト
- Archipelago「Nicolas Degennes' Kyoto Trip – In Search of Magicians of Colors」
- Nicolas Degennesのハーパーズ バザー ジャパン経由のLinkedInコメント(Yumiko Kizuによる記事)
- NewBeauty「5 Reasons We Love Givenchy's Iconic Prisme Libre」
- 新ブランド「Nicolas Degennes(ニコラ ドゥジェンヌ)」が上陸!メイクアップクリエイターの座を離れ、ついに自身のブランドをローンチ
- Givenchy Parfums und Nicolas Degennes beenden 20-jährige Zusammenarbeit
- a&e Interviews: Nicolas Degennes, Makeup and Colour Artistic …
- Givenchy Parfums and Nicholas Degennes End their Collaboration
- Nicolas D.'s Post – LinkedIn
- Produits – Nicolas Degennes
- ニコラ・ドゥジェンヌ公式|ブランド
- ニコラ・ドゥジェンヌ公式|商品
- ノーズショップ|世界先行発売


