Extrait de Musique(エクストレ・ド・ミュジーク)— 大聖堂のオルガンを香りに変えた男

エクストレ・ド・ミュジークの世界観と代表製品「ORGAN #6 Extrait de Parfum 100ml」を表現したブランドイメージ

「香水は音楽と同様、具体的な参照を必要としない芸術媒体だ。香水は嗅覚の芸術である。」

— フィリッポ・ソルチネッリ(Nose Paris(ノーズ・パリ)インタビューより)

基本情報

設立: 2016年(前身ブランド「SAUF(ソフ)」として発表。その後「エクストレ・ド・ミュジーク」に改名)

創設者: フィリッポ・ソルチネッリ(Filippo Sorcinelli)

公式サイト: filipposorcinelli.com/en/pages/extrait-de-musique

創設者・ブランドの成り立ち

少年期:大聖堂に育まれた感覚の記憶

1975年7月1日、フィリッポ・ソルチネッリはイタリア・マルケ州の小さな丘上都市、モンドルフォに生まれた。職人一家の血が流れる家庭——家族には織工や仕立て職人がいた——に育ちながら、幼い頃から彼の心を捉えたのは街なかの教会という空間だった。5歳のときにはすでに、祭具室に飾られた典礼服のかたち、壁に反響するパイプオルガンの音、漂う乳香の匂いに心を奪われていたという。

彼はのちにそのときの感覚をこう語っている。

「幼い頃のアートと美との数々の出会い——乳香、ゴシックやロマネスクの大聖堂、オルガン音楽、合唱団、古い彫刻や現代彫刻、典礼服、絵画……これらあらゆる刺激が、興奮した若い心の感情を永久に包み込んで刻み込んだ。」

そして13歳のとき、ソルチネッリはファーノ大聖堂のオルガニストに就任する。同世代の子どもたちがサッカーをしたり鬼ごっこをしたりしている時間に、彼は司教の典礼式でオルガンを弾いていたのだ。幼年期からのこうした「特別な」環境への接触こそが、画家・写真家・グラフィックデザイナー・祭服職人・調香師という、のちの多岐にわたるキャリアの原点となった。

学究と技芸の鍛錬

ソルチネッリは1992年にファーノ美術学院でマエストロ・ダルテ(美術課程の修了資格)を取得し、並行してペーザロのジョアッキーノ・ロッシーニ音楽院でオルガンを学んだ。1997年には奨学金を得てローマの教皇立聖楽院(Pontifical Institute of Sacred Music)へ進み、さらに研鑽を積んだ。この時期にバチカンの典礼空間と聖楽の世界に深く入り込んだことが、後のすべての創作活動を決定づけた。

「オルガンは幼いころからずっと自分の一部だった。その音なしには生きられない。研究の焦点であり、世界はその音の周りを回っているように感じる。それは人間の魂の深みへ、肉体的・感情的な関与という比類なき能力で入り込んでいける唯一の楽器だ。」

その後も断続的にファーノ、リミニ、サン・ベネデット・デル・トロントの各大聖堂のオルガニストを務め、それと並行してイタリア各地の名だたる音楽祭の芸術監督も担っていた。また、ルーブル美術館の企画展で17世紀フランスの画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(Georges de La Tour)の絵画に描かれた典礼服を正確に復元する仕事も手がけるなど、その活動の幅は早くも美術・宗教の垣根を越えていた。

LAVS(ラヴス)アトリエとローマ教皇の仕立て師

ローマ留学中の2001年、ソルチネッリは叔母や姉妹の小さな仕立てアトリエの力を借り、司祭に叙階される友人のために祭服を一着手縫いした。この一着の祭服が、すべての起点となった。

そこから生まれたのがLAVS(ラヴス)——「ラボラトリオ・アトリエ・ヴェスティ・サクレ(Laboratorio Atelier Vesti Sacre)」の頭文字であり、ラテン語で「賛美」を意味する言葉でもある。カトリック典礼のための祭服・装飾・付属品を制作するこのアトリエは、イタリアおよび海外において典礼服の最高峰として急速に名声を高め、教皇庁典礼式典局との緊密な協力関係を築くに至った。

ベネディクト16世のためには50点以上の祭服を手がけ、2013年にはフランシスコ教皇のポンティフィカル・マスの就任ミサ——世界に中継された歴史的な式典——のための祭服を制作した。さらに2021年、教皇立典礼学院から聖服分野における革新に対して「芸術と典礼賞」が授与された。現在は教皇レオ14世のための祭服制作も担っている。

「教皇の仕立て師」というある意味で異例の肩書を持ちながら、ソルチネッリのビジュアルイメージは一筋縄ではいかない。全身黒づくめのミニマルな服装に、銀のイヤリング、幾何学模様のタトゥー——これは「鏡が割れた」ときのある痛烈な経験を身体に刻んだものだという。彼は公然とゲイであることを表明しており、聖と俗、信仰と官能のあいだに生きる存在として、自らの作品世界を構築し続けている。

UNUM(ウナム)と香水という新たな言語

2014年、LAVS(ラヴス)完成品の箱に芳香を施すという習慣——依頼主に届ける前に祭服のパッケージに数滴スプレーするという慣行——から、ソルチネッリは新たな芸術の言語として香水に踏み出す。

「すべての私の香水は、音楽なしには存在できない。」

この言葉が示すように、香水は彼にとって音楽の延長線上にある表現媒体だ。調香師(ノーズ)とのコラボレーションで生まれる作品だが、ソルチネッリ自身がコンセプト・哲学・インスピレーションを提供し、調香師がそれをラボラトリーで形にする——彼はそれを「自分のムードボードにインスピレーションを与え、変容をもたらす」と表現している。なお、共同作業を担うノーズの名は非公開とされている。

こうして生まれたUNUM(ウナム)(ラテン語で「唯一のもの」)コレクションは、ゴシック建築、ローマ教皇庁の聖楽、写真家マリオ・ジャコメッリへの追悼など、ソルチネッリの個人的な世界観を色濃く反映した香水群で構成される。

SAUF(ソフ)の誕生——大聖堂のオルガンを香りに

UNUM(ウナム)の成功を経て、ソルチネッリはさらに一歩深く踏み込んだ場所から新たなコレクションを立ち上げる。それが2016年、フィレンツェで開催されたピッティ・フラグランツェ(Pitti Fragranze)において発表されたSAUF(ソフ)である。

「SAUF(ソフ)」というフランス語には、「〜を除いて」(except)と「救われた」(saved)という二重の意味が込められている。例外性と救済——この二つの概念は、ソルチネッリが香水に託してきた精神性を端的に言い表す言葉でもあった。

SAUF(ソフ)のデビューにあたって彼が選んだのは、ただ会場に作品を並べることではなかった。フィレンツェの聖堂でオルガンコンサートを開催し、ソプラノ歌手ラウラ・カトラーニとともに「Vox in Organo(ヴォックス・イン・オルガノ)——音と嗅覚の即興」と題したイベントを行ったのである。音と香りの融合を、体感として提示しようとした試みだ。

このコレクションの着想源は、ソルチネッリが深い縁を持つパリのノートルダム大聖堂のグラン・オルグ(Grand Orgue)のストップ(音栓)群だった。彼はオルガニストとして、稀にこの大聖堂のオルグを撮影し研究する機会を得ており、「ノートルダムのバジリカでオルガンを弾く栄誉にもあずかった」と語っている。

ソルチネッリはSAUF(ソフ)のコンセプトをこう語っている。

「SAUF(ソフ)は、さまざまなインセンスの調性で、ノートルダム・ド・パリのグラン・オルグのレジスターを描写する。これがSAUF(ソフ)とUNUM(ウナム)の本質的な違いだ。インセンスをあらゆる形で——加工され、酷使され、押し広げられ、再発明され、時に裏切られた形でも。あるときは本物のインセンス、ほとんど具象的なほどに。またあるときはひとつの感覚、単なる幻。」

音楽と香水が「音(トーン)」「オルガン」「和声」という共通の用語を持ち、どちらも「無形」であることに気づいたとき、ソルチネッリは自らの二つの情熱が交差する地点を見出した——「SAUF(ソフ)は香水と人類の源泉への回帰にほかならない」という言葉は、そのことを正確に言い表している。

その後、ブランドはエクストレ・ド・ミュジーク(Extrait de Musique)へと改名・リブランディングされた。公式サイトの刷新とパッケージの更新が行われ、ボトルや外箱がよりギャラリーアートのような仕上がりへと進化した。

ブランドのこだわり

インセンスを介した共感覚

エクストレ・ド・ミュジークのすべての作品に貫かれているのは、インセンス(乳香・フランキンセンス)を軸に、音の質感を香りへと変換するという共感覚的なアプローチだ。

「ここでは音楽と香水がかつてないほど近い。どちらも『音調(トーン)』『オルガン』『和声』について語ることができる。」

1865年にセプティミウス・ピースが音楽の音符と香料の対応関係を体系化したことに触れながら、ソルチネッリはその伝統をノートルダムのオルグという具体的な楽器を通して現代に蘇らせている。各香水には「主題(SUBJECT/サブジェクト)」「対主題(BACK SUBJECT/バック・サブジェクト)」「コーダ(CODA)」という音楽用語が使われており、香りの構造を楽曲のように記述している点も印象深い。

ボトルと外箱——オルガンストップの忠実な複製

ボトルのデザインは、ノートルダム大聖堂のグラン・オルグのストップノブの忠実な複製である。引き出し式のノブ(ドローバー)を模したボトルは、ラインナップのそれぞれの個性を主張しながらも、コレクション全体に統一感を与えている。

外箱は全て手作業で仕上げられた木製ボックスで、パイプオルガンの大きな音響箱(サウンドボックス)のケースを想起させるようにデザインされている。ソルチネッリ自身がすべてのボトルと外箱を設計しており、これら「容れ物」もまた作品の一部だ。

素材:インセンスの多様な変容

コレクション全体を貫くコアノート(核になる香り)はインセンスであり、各作品はその変奏として位置づけられる。CaFleureBon(カフルボン)のシニアエディター、ローリン・ビアーはこう評した。

「この繰り返されるインセンスのノートが、コレクションに和声的な質を与え、連続性と親族関係をもたらしている。各作品は、オルガンの異なる音色のように際立ってはいるが。」

香水ラインナップ

ここでは、エクストレ・ド・ミュジークの旧ラインナップを構成した6作を紹介する。いずれもユニセックス(男女兼用)のエクストレ・ド・パルファンとして展開された作品だ。なお、現在の公式サイトでは「ORGAN(オルガン)#1〜#7」という新たな7作品のコレクションが案内されている。

コントル・ボンバルド32(Contre Bombarde 32) は、コレクション初期からの作品で、フランス起源のリードストップ「ボンバルド」から着想を得た。最も強力なオルガン音栓であり、ペダルの奥深くに配置されることから、時間の堆積した埃・インセンス・研磨剤の薫りが重なり合うイメージを体現する。ノートはジュニパー・エレミ(トップ)、シダーウッド・サンダルウッド(ハート)、バニラ・アンバー(ベース)。

プラン・ジュー III-V(Plein Jeu III-V) は、鍵盤の一音に対して複数列の管が同時に発音する最も荘厳な音栓をモチーフにした作品で、「天使の自由な多声音楽」をコンセプトとする。爽快なシトラスと黒胡椒、キリリとしたフランキンセンスが独特の対比を生む。

ヴォワ・ユメン8(Voix Humaine 8) は、バロック期に起源を持ち、人声のソロを模倣するための音栓にちなむ。甘いホワイトフローラルと骨格の細いインセンスアコードが組み合わさる。

ウンダ・マリス8(Unda Maris 8) は2018年に加わった作品で、ラテン語で「海の波」を意味する。2本の管の微妙な音程差が生む「揺らぎ」の物理現象を、軽やかな波のようなビターオレンジとインセンスで表現している。評論家は「ドビュッシーの《海》」になぞらえた。

ヴィオロン・バス16(Violon Basse 16) も2018年の追加作品で、弦楽器のコントラバスと同名の音栓にちなむ。ズシリと重い革とスモーク、そして炭化した木の香りが圧倒的に展開し、「ドン・ジョヴァンニ」と評された強烈な個性を持つ。

トロンペット8(Trompette 8) は旧ラインナップに後から加わった作品で、コレクション最古のレジスター族であるリード管のトランペットを体現する。その歴史は紀元前1世紀の剣闘士競技場の大型オルガンの記述にまで遡る。インセンス・ラブダナム・ブラックペッパーアブソリュートの組み合わせが、特有の金属的でシャープな音色を香りで表す。

ちなみに…

ソルチネッリが2020年4月15日——ノートルダム大聖堂の火災から1年後——に発表した香水「ノートルダム15.4.2019(Notre-Dame 15.4.2019)」は、エクストレ・ド・ミュジークとは別ライン「デリール・ド・ヴォヤージュ(Délire de voyage)」の作品だが、この出来事との深い結びつきを示すものとして触れておきたい。キャップは「燃えた木のモノリス」で作られており、香水の売上の一部はノートルダム大聖堂の聖楽団体「ミュジーク・サクレ(Musique Sacrée)」に寄付されるとした。エクストレ・ド・ミュジークのコンセプト——ノートルダムのオルガンへの香りを通じたオマージュ——が単なるコンセプトではなく、大聖堂への本物の敬愛に根ざしていることが伝わるエピソードだ。

参考文献