「An iconic fragrance doesn’t just smell good. It haunts.」
(象徴的な香りは、ただ良い匂いがするだけではない。心に取り憑いて離れない。)
― マイケル・パルトゥシュ(Michael Partouche/ドクター・マイク)、ルーム テン フィフティーン創設者
基本情報
設立: 2015年(パリ)
創設者: Michael Partouche(マイケル・パルトゥシュ)、通称ドクター・マイク(Dr. Mike)
公式サイト: https://room1015.com
※ブランド名の読み方は「ルーム テン フィフティーン」。
創設者・ブランドの成り立ち
薬剤師になる前の少年
マイケル・パルトゥシュの物語は、6歳のときのロック’n’ロールへの傾倒から始まる。幼い頃から音楽に魅了されていた彼だったが、両親がなかなかギターを買い与えてくれなかった。ようやく10歳になってはじめてのギター(最初は安価なもの)を手にすると、その後、プレゼントとして念願のギブソンを手に入れた。しかし、両親が音楽を許可する条件として提示したのは、「万が一に備えて、きちんとした職業を学ぶこと」という約束だった。
その条件を真に受けたマイケルは、パリで薬学を学び、薬学博士号を取得する。この博士号こそが、後の「ドクター・マイク(Dr. Mike)」というニックネームの由来となった。だが本人の中で音楽の炎が消えることはなかった。
ロンドン、ツアー、そして転機
博士号を手にしたマイケルはすぐに薬剤師の道を捨て、ロンドンへと飛んだ。そこでバンドと共にツアーを重ね、アルバムを録音し、数多くのアーティストとコラボレーションを積み重ねた。やがてバンドは解散し、彼は次の道を考えるようになった。しかしロンドンでの5年間を経て、彼は岐路に立たされる。父親となった彼は、自らこう語っている。
「音楽は100%のコミットメントを求め、家族のための余地をまったく残してくれない。子どもたちの一番輝かしい時期を見逃したくなかったから、旅の回数を減らしたかった」
― マイケル・パルトゥシュ
こうしてマイケルはパリへ戻った。両親の「就職の保険」戦略は正解だった——彼はブリティッシュ・アメリカン・ファーマシーで薬剤師としての職を得る。ダークなカールヘア、黒い服装、そしてタトゥーまみれのこの男を、その雇い主は特に気にしなかったという。薬局勤めをするうちに、マイケルはもともと学生時代から興味を持ち、ツアー中もバンドメンバーにクリームを勧める「バンドの薬剤師」を自称していたコスメティクスへの情熱を再発見した。
「マドレーヌ」となった香り
香水ブランドを立ち上げる決心に至る前に、一つの記憶があった。父親からギブソンを贈られた11歳の瞬間である。
「木の香り、ラッカー、金属の弦、そして合成素材のケース。あの香りは私にとって個人的な『プルーストのマドレーヌ』になった。今でもギターケースを開けるたびに、あの瞬間に瞬時に連れ戻される」
― マイケル・パルトゥシュ
この匂いの記憶が、ルーム 1015の最初の香水「エレクトリック ウッド」の直接の着想となった。ミュージシャンとしての感覚と薬剤師としての化学知識——この相反する2つの世界が、融合する場所を求めていた。
「薬剤師としての道も、ミュージシャンとしての道も歩んだ私が、音楽、アート、カウンターカルチャーへの情熱と、化学の背景とを融合させる新しい方向性を求め始めた。その探求がルーム テン フィフティーンを生んだ」
― マイケル・パルトゥシュ
2015年、伝説的な部屋の名を冠したブランドの誕生
2015年春、ルーム 1015はパリからデビューした。法人自体は2014年に登記されており、販売資料ではスウェーデンで構想され、ロサンゼルスで登録され、香水はフランスで製造されると紹介される——という国際的なDNAを持つ。現在の本社はパリ第8区に置かれている。
ブランド名「Room 1015」の由来は、ロサンゼルス(LA)のサンセットストリップにあったコンチネンタルハイアットハウス(通称「ライオットハウス」)の1015号室だ。ザ・ドアーズ、ザ・フー、ザ・ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンといったロックスターたちが常宿にしたこのホテルで、1972年のストーンズのツアー中、キース・リチャーズがこの部屋を荒らすという伝統を確立したとされている。
「ロック’n’ロールの歴史上、最も徹底的に破壊されたホテルの部屋だ」
― マイケル・パルトゥシュ
反骨と自由と過剰の象徴——それがルーム 1015というブランド名に込められた精神である。
ブランドのこだわり
「嗅覚のマニフェスト」という思想
ルーム 1015の公式サイトはブランドを「嗅覚のカウンターカルチャー(Olfactory Counterculture)」と定義し、その香水を「パンク運動、人工楽園、性革命、そして超越瞑想の間を揺れ動くオルファクトリー・マニフェスト(嗅覚のマニフェスト)」と表現している。
ドクター・マイクの創作の核心は、音楽と薬学の交差点から生まれる独自の感覚にある。
「音楽はリズムと雰囲気を、薬学は構造と精密さを教えてくれた。香水はその交差点に存在する。楽譜のように、調香式もバランス、テンション、そして解放が必要だ」
― マイケル・パルトゥシュ
調香師との協業
ドクター・マイクは自身で調香する独立型の調香師ではなく、各香水のコンセプトに合った調香師と協力してフレグランスを作り上げる。これまでに以下の調香師と制作を行っている:
- Jérôme Epinette(ジェローム・エピネット):チェリー パンク、ソニック フラワー、テン フィフティーン、ホリーローズ
- Jérôme Di Marino(ジェローム・ディ・マリーノ):ウェーブチャイルド、ラブ・オー・マティック
- Serge de Oliveira(セルジュ・ドゥ・オリヴェイラ):スウィート リーフ、パープル マントラ
- アン=ソフィー・ベヘゲル(Anne-Sophie Behaghel)&アメリ・ブルジョワ(Amélie Bourgeois):エレクトリック ウッド、パワー バラッド(フレア/Flair)
彼らへのブリーフィングはムードボード、映像、キーワードなど音楽的・視覚的な手法で行われ、ドクター・マイクはパワー バラッドの制作時に調香師たちと一緒に90年代のメタル曲を聴き、インスピレーションを共有したと語っている。
音楽と香りの融合:各香水専用の楽曲
ルーム 1015の最もユニークな試みのひとつが、各香水に専用のオリジナル楽曲を付けるという習慣だ。ドクター・マイクのかつてのバンドメンバーで、ロンドン在住のミュージシャンPat Dam Smyth(パット・ダム・スミス)が制作を担当している。
「ルーム 1015を立ち上げたとき、キャンペーン用の音楽を作り始め、それが伝統になった。各香水が自身のエッセンスを捉えたオリジナルトラックを持つようになった」
― マイケル・パルトゥシュ
このコラボレーションはやがて、ドクター・マイクとパット・ダム・スミスが「デス ドライブ(Death Drive)」というバンドを正式に結成するまでに発展した。
ボトルとパッケージへのこだわり
ドクター・マイクはパッケージをフレグランス体験と不可分のものとして捉えている。
「ボトルはヴァイナル(レコード)のスリーブだ。最初のひと吹きの前に、ヴィジュアル言語がトーンを設定する。フレグランスはトータルな体験であるべきで——それが属する世界のように見え、感じられ、匂うべきだ」
― マイケル・パルトゥシュ
ボトルはプロヴォカティブなシンボルやグラフィックで装飾されており、ブランドの反骨精神を視覚的に体現するデザインとなっている。なお、2025年初頭にパッケージを順次リニューアルすることが公式に発表された。
ヴィーガン、クルエルティーフリー、ユニセックス
全香水がヴィーガン対応・クルエルティーフリー・ユニセックス仕様であることも、ブランドの姿勢を示している。これはカウンターカルチャー的価値観と現代的な倫理観を融合させようとするドクター・マイクの意図の表れといえる。
香水ラインナップ
ルーム 1015のラインナップは、1970年代のロック黄金期を中心に、パンク、ヒッピー、グランジ、サーフカルチャー、グラムロックなど多様なカウンターカルチャーのシーンを網羅するように拡張されてきた。100ml・50ml・ポケットエディション(小型)などがあり、展開サイズは作品によって異なるが、エキストラクトバージョンが存在する作品もある。
創業時の三部作(2015年)
ブランドのデビューは3本の香水で幕を開けた。
エレクトリック ウッド(Electric Wood)はドクター・マイクの最初の記憶——子どもの頃に贈られたギターケースの香り——に着想を得た香水だ。シダーウッド、オーク、セージ、レモン、ムスクなどを中心に構成され、「ギターケースが震えて開くと、ラッカー塗りの木の電撃と張り詰めた弦の金属音が現れる」というコンセプトを持つ。
アトラメンタル(Atramental)はタトゥースタジオの嗅覚的オーラを香りにした作品だ。ベルガモット、ブラックペッパー、カルダモム、そしてカストリウムのノートが組み合わさり、インク・皮膚・消毒液の重なりを革新的な形で表現している。作品名「アトラメンタル(Atramental)」はラテン語の「墨(インク)」に由来する。
ブロムマ カルト(Blomma Cult)は1960年代ヒッピー文化への愛の告白だ。「ブロムマ(Blomma)」はスウェーデン語で「花」を意味する。パチョリを核に、バイオレット、バニラ、シナモン、ベルガモットが織りなす官能的で解放的な香りで、フリーラブの時代の空気を纏う。
代表作:チェリー パンク(Cherry Punk)
現在ブランドで最も人気の高い香水が、チェリー パンク(Cherry Punk)だ。
ロンドン・キングス・ロード430番地——ヴィヴィアン・ウエストウッドの伝説的なショップ「セックス(SEX)」が置かれた場所——からインスパイアされた一作で、パンクが生まれた聖地への香りとして設計されている。チェリー、サフラン、四川ペッパー(トップ)→バイオレット、ジャスミン アブソリュート、ミモザ(ハート)→パチョリ、トンカ ビーン、ブラックレザー(ベース)という構成で、調香はジェローム・エピネットが担当した。
開発は2019年に行われたが、2020年のパンデミック時に店舗が閉鎖される中、オンラインで発売に踏み切った。
「大きな期待はしていなかった。しかしあっという間に広まった。世界中の人々がロックダウンの中で小さな喜びを求めるようになり、チェリー パンクはその一つになった。2年後、他のブランドがチェリーのトレンドを追い始めたが、チェリー パンクはニッチ市場で最も愛されるチェリー香水のひとつであり続けている」
― マイケル・パルトゥシュ
エキストレ ドゥ パルファム(高濃度版)も存在し、より長い残香と深みを楽しめる。
主要なフレグランスの世界観
その後に加わった主要作品も、それぞれ異なる音楽的・文化的場面を切り取っている。
テン フィフティーン(Ten Fifteen)は1970年代ロック全盛期そのものへのオマージュで、ドクター・マイクはこう語っている。
「この多くのことが起きたホテルの部屋の香りを想像しようとした!反骨のタッチにはバーントサンダルウッドとマンダリン、バイオレットの清涼感が完璧にマッチした」
― マイケル・パルトゥシュ
マンダリン、サフラン(トップ)→バイオレット、アイリス(ハート)→サンダルウッド、パピルス、ガイアックウッド(ベース)という構成だ。
ソニック フラワー(Sonic Flower)は、ブロンディやザ・ランナウェイズのように音楽シーンに革命を起こした女性ロッカーたちへのオマージュとして作られた。ピンクペッパー、キャロットシード(トップ)→アイリス、ジャスミン(ハート)→アンブロキサン、カシミアウッド、ムスク(ベース)というパウダリーでフローラルな構成を持つ。調香はジェローム・エピネットが手掛けた。
スウィート リーフ(Sweet Leaf)はカナビスノートをフィーチャーした1960年代後半の精神を映す香水で、グレープフルーツ、ユーカリ、カシュメランウッドと組み合わさる。
ウェーブチャイルド(Wavechild)はサーフカルチャーへのオマージュで、Dr. Mikeが「サウンドトラックのようなフレグランス」と表現している。ウォーターメロン、ココナッツ(ハート)→アンバーグリス、アンバーウッド(ベース)という構成で、水面の揺らぎと太陽の温もりを纏う。
ジャスミン フリーク(Jasmine Freak)は、ストックホルムで訪れたデヴィッド・ボウイの展覧会——写真家・鋤田正義の1970年代の写真に触れたことを契機として生まれた香水だ。グラムロックとドラァグ・カルチャーをテーマにした官能的な作品で、マンゴー、ジャスミン(エジプト産)、チュベローズ(インド産)などが組み合わされる。
「ボウイの装いは彼のアートと個性を映し出すように型破りでエキセントリック。自己表現をテーマにした、花と果実が豊かに香るフレグランスを創りたいと考えた」
― マイケル・パルトゥシュ
ラブ・オー・マティック(Love-O-Matic)は一転して、コインランドリーというごく日常的な空間からインスパイアされた。
「コインランドリーはパラドックスだ——公共でありながら私的で、無機質でありながら奇妙なほど官能的。誰もが洗濯物を待つあの空間には、映画的でひそかなロマンスがある」
― マイケル・パルトゥシュ
ストロベリー、ブラックカラント、バブルガム アコード、クリーン アコード、アンブレット、ムスク、シダーという構成で、調香はジェローム・ディ・マリーノが担当した。
コラボレーション作品
アトラメンタル × サン ブルー(Atramental × Sang Bleu)は、タトゥーアーティスト兼クリエイティブ・ディレクターのマキシム・プレシア=ブッキ(サン ブルーの創設者)とのリミテッドエディションだ。サン ブルーの幾何学的なデザイン言語とルーム 1015のアトラメンタルの特徴的な香りを組み合わせ、タトゥー体験の本質——皮膚の触覚的感覚、消えないインクの魅力——を香りにしたという。
ちなみに……
キース・リチャーズと伝説のホテル ブランド名の由来となった部屋を荒らす行為については、時代や人物の異なる逸話が重なり、詳細には複数のバリエーションが存在する。いずれにせよ、「ロック史上最も荒らされたホテルの部屋」がブランドの精神的な原点であることには変わりない。
アドバイザーならぬ「バンドの薬剤師」 ツアー中、ドクター・マイクはバンドメンバーたちにクリームをしきりに勧める「バンドの薬剤師」として知られていたという。薬剤師としての資格が、まさかフレグランスブランドへの扉になるとは——本人も最初からは想像していなかったかもしれない。
賞への無関心 あるインタビューでドクター・マイクは「受賞には特に興味がない」と明言している。代わりに彼が大切にするのは、香りや音楽を通じて人々が感動する瞬間だ。
日本初上陸 日本では2019年12月13日にノーズショップ(NOSE SHOP)でデビューした。その後は渋谷・池袋・麻布台・有楽町・横浜・大阪・神戸・札幌・福岡など各地の店舗およびオンラインへと取り扱いが広がっている。取扱店舗と商品は時期により異なる。
参考文献
- Scentury Magazine「ROOM 1015: Let there be Rock!」(Michael Partoucheインタビュー)
- ScentXplore「Michael Partouche | Room 1015: Olfactory Counterculture」(インタビュー)
- ALZD.de「Interview with Dr. Mike from Room 1015 – Rock'n'Roll meets perfume」(Love-O-Maticに関するインタビュー)
- NOSE SHOP「Room 1015の新作が3/14より販売開始!」(ジャスミン フリーク紹介、Dr. Mikeの発言含む)
- NST Perfume「Room 1015 new niche line」(2015年デビュー時の3作品のノート詳細)
- Parfinity「Room 1015 Perfumes」(ブランド概要・各香水解説)
- Kams Paris「ROOM 1015: French Niche Perfumes in Counterculture」
- Room 1015 公式サイト About Us
- Ministry of Scent「Cherry Punk by Room 1015」(Dr. Mikeのチェリー パンク解説)
- Lore Perfumery「Ten Fifteen EDP」(Dr. Mikeによるテン フィフティーンのコメント)
- Lucky Scent「Sonic Flower by Room 1015」(ソニック フラワー概要)
- Onebioshop「Atramental × Sang Bleu」(コラボ詳細)
- CaFleureBon「Room 1015 Electric Wood」(エスクサンス2015年でのデビュー記録)
- NOSE SHOP ブランド初上陸告知(2019年12月)
- Instagram「Death Drive (@deathdriveband)」(バンド結成の説明)
- ROOM 1015 à PARIS (SIREN 802742619)
- Room 1015 Parfums online testen | Nischendüfte
- Room 1015
- A song describing our fragrance Atramental, by london based artist
- Death Drive (@deathdriveband) • Instagram photos and videos
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- 【10月18日】Room 1015から、女性ロッカーたちがモチーフとなっ …
- SONIC FLOWER | Eau de parfum
- Wavechild – Room 1015 – usa.hallburg.ae
- Room 1015 Atramental x Sang Bleu Eau de Parfum 50 ml – Papique
- NOSE SHOP — Room 1015のブランド紹介
- NOSE SHOP — ウェーブチャイルドの商品紹介


