香りが空気へ広がることだけでなく、灰が落ち、オイルが陶器へ染み込み、時間が過ぎていく様子も味わう。elemenseの公式ブランド紹介は、道具を単なる機能物ではなく、香りを楽しむ体験の一部として位置づけている。この考え方は、線香の煙や香立ての造形から、火を使わないディフューザーまで一貫して見られる。
基本情報
ブランド名:elemense(エレメンス)
始動:2018年、米国でインセンスを発表
日本での展開:2021年5月19日に日本デビュー
制作・製造:日本香堂
クリエイティブディレクター/デザイナー:篠本拓宏
公式サイト:https://elemensefragrance.com/
創設者とブランドの成り立ち
日本香堂の香づくりと篠本拓宏の生活道具の仕事
elemenseは、調香師一人の名前から始まった香水ブランドではない。日本香堂が香りをつくり、ロサンゼルスを拠点とする篠本拓宏がクリエイティブディレクターとして参加した、ホームフレグランスのブランドである。
日本香堂は自社の香づくりの起源を16世紀に求めるが、elemenseの始動は2018年である。
篠本はTortoise General StoreやHASAMI PORCELAINを通じ、日本の工芸と暮らしの道具に関わってきた。香りと道具の双方を設計する体制に、その経験が生かされている。
2018年の米国発表と2021年の日本デビュー
2018年、elemenseは米国の展示会NY NOWでインセンスを発表した。中国の五行説から着想した五つの香りと、線香を立て、煙や灰の変化を眺めるための道具が、初期の中心であった。
日本デビューは2021年5月19日である。日本香堂はポタリーストーンディフューザー、ディフューザーオイル3種、トレー2種を日本先行発売し、それまで米国で扱っていたインセンスの国内販売も始めた。海外で始まったブランドが、その後日本に紹介されたという順序である。2022年にはパリのMaison&Objetでも紹介された。
ブランドのこだわり
五行説を香りの変化と五つの作品に結びつける
ブランド名のelemenseは、element(要素)とsense(感覚)を組み合わせた造語である。初期の五つのインセンスは五行説の木・火・土・金・水をそれぞれ題材とする。「suou(蘇枋)」が木、「kiyobi(浄火)」が火、「nukubai(温灰)」が土、「sekishin(石心)」が金、「tetsukon(鉄紺)」が水に対応する。
五行説は、五つの物質の匂いを忠実に再現するための分類ではない。自然の要素が互いに作用し、移り変わるという考えを、重なり合う香りの構成へ移すための出発点である。ブランドは線香が燃える約30分の間、基調となる香りが続く一方、別の香りが現れては消えるように設計したと説明する。五つの題材に対応する名前だけでなく、時間をかけて香りが変化することも、この構想の一部なのである。
五つの作品には、香についての古い教え「香十徳」も結びつけられている。伝統の言葉を、香りを味わう姿勢として取り入れたものだ。
煙、落ちる灰、香立ての形も設計する
線香を焚くと、目に入るものがある。真っすぐ立つ線香、流れる煙、皿の上に残る灰の線である。elemenseは、目に見えない香りに、こうした動きによって目に見える形を与えようとする。
その考えを表す道具の一つが、真鍮製のAcorn香立てである。どんぐりを思わせる小さな本体は、東京の工房で真鍮の円柱から一つずつ削り出される。両端から線香を挿すことができ、直立させるほか、傾けて置くこともできる。表面のマットな仕上げや削り出しの線も造形の一部である。香立てを置く方向によって、灰が落ちる線の見え方まで変わる。
信楽焼の石とオイルがつくる、火を使わない体験
2021年の日本デビュー時に登場したポタリーストーンディフューザーは、自然石を思わせる三つの形を信楽で焼いた陶製の道具である。多孔質の表面へ数滴のオイルを垂らし、染み込ませることで香りを空間へ広げる。線香のように煙を出さず、陶器の姿そのものを室内に置く点が異なる。
ストーンを置くトレーにも二つの表現がある。ガラスミラーは池の水面を、ポーセリンは石庭を連想させる設計で、オイルから机を守る役割も担う。香りのための道具であると同時に、置き方や周囲の光によって景色をつくるインテリアでもある。
日本で2021年に発売されたオイルは「kiyobi」「nukubai」「tetsukon」の3種で、五つのテーマから選ばれてそれぞれオイル用に調香された。公式の香り説明でも、同名のインセンスとディフューザーオイルではキーノートが異なり、製品に合わせて別の配合を設計していると明記される。たとえば「kiyobi」のインセンスにはヒノキ、シダーウッド、サンダルウッド、沈香が挙がる一方、オイルにはペパーミント、アルモワーズ、ヒバ、ヒノキが挙がる。同じ題材を、燃える線香と陶器に染み込むオイルという異なる媒体で表現しているのである。
2025年、陰陽を題材にした二つのインセンス
2025年7月の米国向け発表で、elemenseは新作インセンス「ei-u(翳雨)」と「kon-fu(金風)」を紹介した。五行説を基盤としてきたシリーズに、陰と陽という対照を新しい題材として加えた展開である。
「ei-u」は陰を表し、墨、苔、ベチバー、沈香をキーノートに、雨音や澄んだ空気の静けさを題材とする。「kon-fu」は陽の側を描き、赤紫蘇、クチナシ、シナモン、白檀をキーノートとして、山から海へ渡る風と日差しを題材とする。対照的な香りの印象を掲げながら、互いに切り離されたものではなく、調和する二つの力として紹介されている。
2025年7月にはAtlanta MarketとNY NOWへの出展を発表し、同年夏後半の発売を予定した。


