シンプルなデザイン、高品質な製造、天然素材。
エリザ・ジェラ — アッカカッパ4代目、2006年
ACCA KAPPA(アッカカッパ)の出発点は、1869年にイタリアのトレヴィーゾで始まったブラシづくりである。髪を整える道具から、肌や髪を洗う製品、そして香水へ。家族が受け継いできた事業を、4代目のエリザ・ジェラは日々の身支度を支える世界へ広げていった。
その転機には、海外の顧客の声と、旅先で出会った香りがあった。ホワイトモスの誕生をたどると、長い歴史を持つブランドが、どのように新しい香りの表現へ踏み出したのかが見えてくる。
基本情報
- 設立年:1869年
- 創設者:ヘルマン・クルール(Hermann Krüll)
- 創業の地:イタリア・ヴェネト州トレヴィーゾ
- 4代目:エリザ・ジェラ(Elisa Gera-Krüll)
- 公式サイト:ACCA KAPPA/日本公式サイト
創設者とブランドの成り立ち
1869年、ブラシづくりから始まった家族の事業
創設者のヘルマン・クルールは、ヴェネツィアでブラシ用の毛を扱う若い商人として仕事を始め、トレヴィーゾ郊外のブラシ工場の共同経営に加わった。1899年までにその会社の全株式を取得し、1905年には25モデルを載せた最初のカタログを発行している。
アッカカッパという名は、創設者の頭文字HとKをイタリア語で読む「アッカ」「カッパ」に由来する。人の名を屋号にしたこの会社は、二度の世界大戦を通じて接収や工場の占領を経験し、家族にも戦争による死があった。それでも事業は世代を越えて受け継がれ、ヘルマンの曾孫であるエリザへとつながっていく。
ブラシづくりは、香水が加わった後もブランドの根幹にある。アッカカッパは、銀や黒檀を使ったブラシを生み出し、専門のヘアスタイリストの用途に応える製品や、木材の調達にも目を向けたコレクションへと広げてきた。時代や用途に応じて道具をつくり続ける事業の上に、香りの世界が築かれたのである。
ボストンでの学びと、パリでの広告会社の仕事
エリザはボストン大学でコミュニケーションやジャーナリズムを学んだ。米国へ渡ったのは、国際的な視野を得るためだった。家の会社や自国の外で経験を積むことを大切にし、マーケティングの学びも家業に持ち帰っている。
私は、イタリアの外で仕事の経験を積みたいと強く思っていました。
エリザ・ジェラ — 2006年
大学の後には、パリの広告会社J・ウォルター・トンプソンで1年間働いた。ジャーナリストになりたい気持ちもあったが、家族の事業への責任を感じ、アッカカッパに入る。エリザの仕事には、受け継いだ製品を守ることと、海外で身につけた視点から新しい可能性を探すことが重なっていた。
米国の顧客の要望が、ボディケアへの転機に
エリザが輸出先として最初に選んだのは米国だった。そこで顧客から求められたのが、ボディケア製品である。
そして、彼らからボディケア製品について尋ねられるようになったのです。
エリザ・ジェラ — 2011年
この声が、製品を多様化するきっかけとなった。髪をとかすブラシに加えて、肌や髪を手入れする製品をつくる。香水への広がりも、身支度のためのものづくりという事業の流れの中にあった。ホワイトモスは現在、香水だけでなく洗浄や保湿、ヘアケアの製品にも展開されている。一つの香りを、暮らしのさまざまな動作に結びつける形である。
キプロスで出会った香りが、ホワイトモスになる
ホワイトモス(White Moss)の着想は、エリザがキプロスを訪れた際に出会った香りにある。旅の間に彼女を魅了したのは、ラベンダーとジュニパーが混じり合う地中海の香りだった。トレヴィーゾに戻ると化学者たちを集め、その忘れがたい香りを再現しようと取り組んだ。
こうして生まれたホワイトモスは、エリザが自分を最もよく表すと語った香りでもある。海外の顧客から届いた要望を製品へ広げ、旅先の記憶を自分たちの香りにする。ブラシの歴史に新しく加わったのは、4代目自身の経験だった。
ブランドのこだわり
ホワイトモスの命名と、ラベンダー・ジュニパーの香り
ホワイトモスは、自然界に実際に存在するものではありません。その名は空想なのです。
エリザ・ジェラ — 2011年
植物の名前のように聞こえるホワイトモスだが、その名はエリザたちがつくったイメージである。現行のオードパルファンは、レモンやベルガモット、ジュニパーの明るさに、ラベンダーと木の香りを重ね、ホワイトムスクやアンバーのアコードで支える。アコードとは、複数の香料で組み立てた香りのまとまりを指す。
旅の着想にあった二つの植物を残しながら、柑橘やムスクを組み合わせることで一つの香水として構成する。ホワイトモスを知る鍵は、名前から特定の苔を想像することよりも、ジュニパーとラベンダーが、明るさや柔らかな余韻とどう結びついているかにある。
ブラシの素材選びと、香水ボトルのシンプルなデザイン
ブラシでは、2000年代初めに登場したナチュラ・コレクションで、責任ある管理が行われた森林に由来するFSC認証木材を採用した。素材と加工への配慮を、手に取って使う道具の品質につなげている。
一方、エリザは容器について、清潔でシンプルなデザインを好むと語っている。ホワイトモスの現行オードパルファンも、透明なガラスに銀色のキャップ、黒いラベルという抑制された組み合わせである。容器に物語の絵を描き込む代わりに、ブランド名と香りの名を読み取りやすく置く。シンプルなデザインという原則は、香水の見せ方にも表れている。
ドルチェ トレヴィーゾに表した、地元の食文化
ドルチェ トレヴィーゾ(Dolce Treviso)は、歴史ある本拠地トレヴィーゾの食文化を香りにした作品である。題材はティラミス。食べ物を思わせる甘い香りを表す「グルマン」という領域から、地元の街を描いている。
コーヒーの粒やカカオ、ティラミスのアコードに、バニラやベンゾインの温かさを重ねる。コーヒーだけを強調するのではなく、クリームを含む菓子のまとまりと、その余韻へ香りを広げた構成である。植物の香りが行き交う庭だけでなく、街の食卓も香水の題材になる。ホワイトモスとは異なる角度から、身近な土地の経験を香りへ移している。
ちなみに…
エリザは文章を書くことが好きで、以前は小説も書いていた。2006年には、もうその時間がないと語っている。ジャーナリズムを学び、広告会社でも働いた4代目には、家族の製造業を担う経営者という顔と、言葉で物語をつくることに親しんだ顔がある。
参考文献
- Lifestyle report from Treviso, Italy-3: Acca Kappa: From 1869 to modernity — エリザの製品づくりの原則(2006年) — https://www.philstar.com/lifestyle/fashion-and-beauty/2006/08/30/355412/lifestyle-report-treviso-italy-3-acca-kappa-1869-modernity
- ACCA KAPPA公式 — 創業とブラシづくりの沿革 — https://accakappa.com/en/it/about
- Since 1869 — 創設者、家族史、ブラシづくりの歩み — https://www.acca-kappa.co.uk/pages/since-1869
- Elisa Gera of Acca Kappa: A scentimental modern woman — ボディケアとホワイトモス誕生の本人取材(2011年) — https://www.philstar.com/other-sections/newsmakers/2011/06/14/695635/elisa-gera-acca-kappa-scentimental-modern-woman
- Elisa Gera: The European aristocrat in Philippine pearls — エリザ本人の留学・仕事・デザインについての取材(2006年) — https://www.philstar.com/lifestyle/fashion-and-beauty/2006/08/16/353184/elisa-gera-european-aristocrat-philippine-pearls
- ACCA KAPPA日本公式 — ホワイトモスの香水・ケア製品 — https://www.accakappa.jp/c/fragrance/fragrance_whitemoss
- ACCA KAPPA公式 — White Moss Eau de Parfum — https://accakappa.us/products/white-moss-eau-de-parfum
- ACCA KAPPA公式 — Dolce Trevisoの着想と香りの構成 — https://accakappa.com/it/it/products/eau-de-parfum-dolce-treviso


