スモーキーな香りの感じ方は、鼻の受容体でも変わる?

スモーキーな香りの感じ方は、鼻の受容体でも変わる? 香りの科学

同じスモーキーな香りを嗅いでも、強く不快に感じる人と、それほど気にならない人がいます。こうした違いには、鼻の受容体の働きも関わっていました。グアイアコールという香りの分子では、受容体OR10G4の反応が弱くなる型を持つ人ほど、香りを弱く、より快い側に評価する関連が見つかっています。

ただし、この研究のおもしろさは「スモーキーな香りの好みの遺伝子」を一つ探したことにとどまりません。数百種類の嗅覚受容体を調べ、どの分子に反応するのか、遺伝子の型によって働きがどれほど変わるのか、その違いが人の感覚にも現れるのかをつないだ研究です。

香りを受け取る仕組みは、人によって少しずつ違う

嗅覚受容体は、においの分子を受け取るタンパク質です。同じ名前の受容体でも、遺伝子の違いによって、タンパク質を作るアミノ酸の一部が異なることがあります。研究者たちは、この小さな違いが受容体の反応を変えるかどうかを調べました。

最初に用意したのは、394種類のヒト嗅覚受容体を含む511個の遺伝子クローンです。同じ受容体の別の型も含まれるため、クローン数と受容体の種類数は一致しません。これらを培養細胞に発現させ、73種類のにおい刺激に対する反応を段階的に調べ、候補が見つかった組み合わせでは濃度を変えて確かめました。

その結果、27種類の受容体について、反応を引き起こす分子との対応を確認しました。うち18種類は、それまで対応する分子が知られていなかった受容体です。これは、におい分子と鼻の受け取り口を結ぶ一覧を広げる成果でもありました。

調べた27種類のうち、17種類で働きの違い

受容体の遺伝子の型を比較すると、27種類中17種類、約63%で、濃度に対する反応の仕方に違いがありました。弱い刺激にも反応しやすい型、最大の反応が小さい型など、違いは一様ではありません。

また、別の比較では、化学的に幅広い55種類の刺激を使い、15種類の受容体の型を調べています。ここでは、型によって反応の大きさが変わっても、どの分子によく反応するかという順序はおおむね保たれました。受け取る分子の好みがまるごと入れ替わるというより、同じ受容体の反応の強弱が変わる例が中心だったのです。

受容体が細胞表面にどれほど出ているかだけでは、反応の違いをうまく説明できませんでした。遺伝子の変化の位置や、既存の計算手法による機能予測も、実測した働きの違いを十分には予測できず、実際に細胞で測ることの重要性が示されました。

さらに研究者たちは、1,092人分の公開ゲノムデータに実験結果を当てはめ、人と人の間には多数の受容体の機能差があると推定しました。本文では、調べた27受容体の二つずつの遺伝子コピー、計54を対象として平均16〜22の違いを報告しています。ただし方法欄には最大数を48とする記載もあり、この個数の厳密な解釈には注意が必要です。少なくとも、受容体の個人差を「働くか、働かないか」だけで捉えるより、多様な反応の違いとして調べる必要があることが見えてきます。

グアイアコールでは、細胞の違いが人の評定にもつながった

では、細胞で反応が違えば、人も違う香りに感じるのでしょうか。そこで詳しく調べたのがOR10G4です。この受容体は、グアイアコールに加え、バニリンとエチルバニリンにも細胞実験で反応しました。

人の感覚との比較には、先行研究で香りの強さと快不快を評価していた391人のうち、OR10G4の遺伝子配列を調べられた308人のデータを使いました。19〜66歳の参加者が、66種類のにおいと溶媒を評価したデータです。解析では、人による評定尺度の使い方などの違いを小さくするため、それぞれの人の中で評定を順位に変換しました。

今回取り上げたのは、二つの提示濃度のうち高い方での評定です。かすかな香りを初めて検出できる濃度を測った試験とは、問いが異なります。

よく見られる四つの遺伝子の型を細胞で比べると、グアイアコールへの反応が弱い型や、対照細胞と明確に区別できる反応が出ない型がありました。そして、反応の弱い二つの型を持つ人ほど、グアイアコールの強さを低い順位に、快さを高い順位に置く関連が見られました。

OR10G4の型を使ったモデルが説明した評定の個人差は、調整済みの値で強さの15.4%、快不快の10.3%でした。これは、この参加者集団のばらつきに対する説明力です。一人の好き嫌いの何割がこの遺伝子で決まる、という割合ではありません。

同じ受容体が反応するバニリンでは、関連が出なかった

重要なのは、バニリンとエチルバニリンでは、OR10G4の型と強さ・快不快の評定との有意な関連が見られなかったことです。比較した他の刺激も含め、この受容体の型との関連が確認されたのはグアイアコールでした。

細胞では、グアイアコールはバニリン類よりも低い濃度からOR10G4を刺激しました。著者らは、受容体を弱くしか刺激しない分子では、その受容体の型の違いが、全体としての感じ方に現れにくい可能性を挙げています。他の受容体からの入力や、その後の脳内処理も含めて香りが生まれるため、細胞の反応差がいつもそのまま知覚差になるわけではない、という結果です。

この研究で詳しく調べたのは、受容体を作る部分の遺伝子配列です。受容体がどれほど作られるかに関わる領域や遺伝子のコピー数の違いまでは網羅していません。また、知覚データは既存の参加者集団を再解析したもので、別の集団で新たに同じ関連を再現した試験ではありません。著者らは、他の受容体や文化・遺伝的背景も個人差に関わる可能性を挙げています。

まとめ

この研究は、におい分子と受容体の対応を新たに広げ、調べた27種類中17種類で遺伝子の型による機能差を確認しました。鼻の受け取り方には、人ごとの多様性があると考える根拠になります。

具体的には、OR10G4の反応が弱い型を持つ人ほど、グアイアコールを弱く、より快い側に評価していました。一方、同じ受容体が細胞で反応するバニリン類では、この関連は見られませんでした。香りの個人差を理解するには、「どの受容体か」に加え、「どの分子を、どの条件で嗅いだか」まで見ることが大切だとわかります。

研究は米国NIHの研究費、DARPAのRealNoseプロジェクトなどの支援を受けています。著者らは金銭的な利益相反なしと申告しています。

参考文献

Mainland JD, Keller A, Li YR, et al. The missense of smell: functional variability in the human odorant receptor repertoire. Nature Neuroscience. 2014;17:114–120(オンライン公開2013年). doi:10.1038/nn.3598. 著者所属機関の公開全文.