気づきにくい成分を足すと、香りが見つけやすくなる

気づきにくい成分を足すと、香りが見つけやすくなる 香りの科学

単独ではなかなか見つけられないほど薄い成分でも、別の香りに加わると、混合物の存在に気づきやすくなることがあります。2008年の研究は、メープルラクトンという香料にごく薄い酢酸や酪酸を加えたとき、検出されやすさが単純な確率の足し合わせから予想する水準を上回ることを示しました。

面白いのは、ただ「何かを足したら、においやすくなった」で終わらない点です。加えた成分がそれ自体で見つかる可能性まで計算に入れ、混ぜることによる上乗せを確かめています。

「気づかないほど薄い」は、作用がゼロという意味ではない

においの検出閾値は、濃度がそこを下回った瞬間に感覚が完全に消える境界線ではありません。決められた課題で、一定の割合で正しく検出できる濃度を基準にした値です。閾値より薄くても、ときどき気づくことはあります。

そこで研究チームは、「弱い成分を足したら検出率が上がった」というだけでは相乗作用の証拠として足りないと考えました。二つの成分をそれぞれ独立に見つける機会が増えただけでも、混合物の検出率は上がるからです。実測した単独成分の検出率から、その分を見積もることが研究の中心でした。

17人が、5回の提示からにおいのある2回を選ぶ

参加者は23〜47歳の健康な成人17人でした。同じ方法の先行実験への参加経験があり、メープルラクトンについても練習を行い、装置で提示できる濃度範囲が感度に合うことを確認しています。

使ったのは、メープルラクトン、酢酸、酪酸の3成分です。メープルラクトンの化学名は2-ヒドロキシ-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン。成分ごとの気体を空気で薄める装置を使い、鼻に届く試料の濃度をGC-MSという分析法で校正しました。混合時にも各成分の濃度が単独提示時と一致することを確かめています。ただし、最も低い濃度は分析装置の感度を下回り、校正曲線を延長して推定しています。

1試行では2.5秒の提示を5回行い、そのうち2回が同じ濃度のにおい、残り3回が清浄な空気でした。参加者は必要なら嗅ぎ直し、においがあると思う2回を選びます。濃度は6段階。順応を抑えるため低濃度から進め、途中に休憩を入れました。各成分・混合物の各濃度を合計12試行測り、濃度と検出率の関係を求めています。

まず酢酸と酪酸を単独で測り、一人ずつの閾値より低い2段階の濃度を決めました。平均すると酢酸は閾値濃度の約34%と15%、酪酸は約30%と14%です。この一定量の酸を、6段階のメープルラクトンにそれぞれ加えました。偶然の正答を補正した酸単独の検出確率は、推定で約3〜10%でした。

足した成分の検出機会を差し引いても、見つけやすかった

酢酸を加えた場合も、酪酸を加えた場合も、平均的にはメープルラクトン単独より検出されやすくなりました。今回選んだ酸の2濃度の間には、明確な検出率の差は見られませんでした。

次に研究チームは、「二つの成分が互いに影響せず、それぞれ独立に見つかる」とした場合の混合物の検出率を計算しました。考え方は、少なくとも片方に気づけば混合物を見つけられる、というものです。たとえば一方の検出確率が50%、もう一方が10%なら、このモデルの予測は55%になります。これは計算の説明用の例で、研究の実測値ではありません。

実際の混合物の検出率は、酢酸、酪酸のどちらでも、全体としてこの予測を有意に上回りました。著者らが「相乗作用」と呼んだのは、この予測を超える部分です。別の加算モデルでも、今回の条件ではほぼ同じ結論になったと報告しています。

効果が大きいのは、ある濃度範囲だった

上乗せは、メープルラクトンのどの濃度でも一様に現れたわけではありません。最も薄い濃度では、独立な検出からの予測を上回りませんでした。差が大きかったのは中間の濃度で、最も濃い条件では差が小さくなりました。

高濃度では、もともとかなり正しく検出できるため、それ以上に改善できる余地が小さくなります。一方、最低濃度で相乗作用が出なかった理由は明確ではなく、著者らは低い検出率の測定の難しさも挙げています。「少し足せば必ず効く」よりも、組み合わせと濃度によって効果の出方が変わる、と読むのが自然です。

単独の成分だけでは、ブレンドの働きを取りこぼすことがある

著者らは、この結果を香りの分析にも結びつけています。成分を分離して一つずつ嗅ぐ方法は、どの物質がにおいに関わるかを調べる強力な手段です。ただし、単独ではほとんど目立たず、ほかの成分と一緒になって検出を助ける物質は、その方法だけでは重要性を見落とす可能性があります。

相乗作用が起きる場所については、鼻の受容細胞、中枢の神経処理、鼻に入る前後の分子間相互作用などが候補として論じられています。この実験は人の回答と刺激濃度を測ったもので、どの仕組みが働いたかまでは特定していません。

また、対象は17人と限られた成分の組み合わせです。調べたのは「においがあると見つけられるか」であり、甘さ、おいしさ、快さは評価していません。食品や香水の魅力を高める配合へ進むには、そうした別の評価も必要になります。

まとめ

ごく薄い酢酸や酪酸を加えると、一定の濃度範囲でメープルラクトンを含む混合物が見つけやすくなり、その改善は各成分を独立に検出する確率からの予測を上回りました。気づきにくい成分にも、混ざったときに現れる働きがあるという結果です。

同時に、最低濃度では相乗作用が現れず、高濃度では上乗せが小さくなることも分かりました。ブレンドを理解するには、成分の名前や単独のにおいだけでなく、どの相手と、どの濃度で出会うかまで見る必要があります。

研究は小川香料、Kraft Foods、米国NIHおよびNIEHSの支援を受けました。研究当時、著者の一人は小川香料に所属していました。本文には独立した利益相反声明は見当たりません。

参考文献

Miyazawa T, Gallagher M, Preti G, Wise PM. Synergistic Mixture Interactions in Detection of Perithreshold Odors by Humans. Chemical Senses. 2008;33(4):363–369. doi:10.1093/chemse/bjn004