目標の香りに近づけるため、液体を少しずつ混ぜる。うまくいかなければ、また別の割合で混ぜ直す。そんな配合探しを自動化するとき、毎回新しい容器と材料を用意する必要はあるのでしょうか。
2024年、Yota Fukuiらは、一つの容器へ液体を足し、必要に応じて一部を抜きながら、目標のセンサー応答へ近づける装置を報告しました。目指したのは、配合を自動で探すことに加え、使う試料を減らし、容器内の液量を保ち、容器交換の手間を減らすことです。
足すだけでは、配合を戻しにくい
一つの容器で混ぜ続ければ、容器を交換する必要はありません。しかし、液体を足すだけだと量は増え続けます。ある材料を入れすぎたとき、ほかの材料を大量に加えなければ、割合を大きく変えられない場合もあります。
液量が変わることは、測定にも関係します。装置が調べるのは、液体の上の空間に出てくる蒸気です。容器内の液量が大きく変われば、その空間のガス濃度やセンサーの反応も変わり得ます。
そこで研究者らは、追加する量だけでなく、混合液をどのくらい抜くかも選べるようにしました。よく混ざった液を一部抜くだけでは割合は変わりませんが、その後に別の材料を足せば、総量を増やし続けずに配合を動かせます。
測る、予測する、混ぜるをつなぐ
装置には、三種類の液体を入れるポンプと、混合液を取り出すポンプを設けました。容器内をかき混ぜ、温度やガスの流れを管理しながら、蒸気を12チャンネルのセンサーで測ります。
センサーは、表面の材料が分子を取り込んだときに生じる、ごく小さな力の変化を電気信号として読むタイプです。反応の違う材料を使うことで、複数の信号の組み合わせを得ます。
まず、目標にしたい液体の蒸気を測定します。次に、今の混合液を測り、目標とどれくらい違うかを数値にします。その結果をもとに、次にどの液体を足し、どのくらい抜くかをコンピューターが決める仕組みです。
ベイズ最適化は、次に試す配合を選ぶ方法
配合の選択には、ベイズ最適化という方法を使いました。これまで試した結果から、まだ試していない配合の成績を予測するとともに、予測の不確かさも考え、次に測る候補を選びます。
すべての組み合わせを片端から試す代わりに、目標へ近づきそうな候補と、新しい情報が得られそうな候補を探す方法です。研究者らは、一つの容器で追加と排出を行う条件に合わせて、この探索法を設計しました。
ただし、ここで学習するのは、人が嗅いで「似ている」と答える確率ではありません。目標と混合液のセンサー信号の差を、小さくすることが目的です。
どのセンサーを使うかも、途中で選び直す
12チャンネルすべてが、どの材料にも同じように役立つとは限りません。情報の少ない反応を含めると、配合探しの邪魔になることも考えられます。
そこで、測定のたびに、それまでのデータから混合比を予測しやすい四つのチャンネルを選ぶ方法も組み込みました。信号の立ち上がり、落ち着き方、戻り方、高さという四つの特徴を、一つのチャンネルから取り出します。
選んだ四チャンネルの計16の特徴について、目標との違いを評価します。探索が進んでデータが増えると、採用するチャンネルも変わり得ます。人の嗅覚に近いチャンネルを選んだのではなく、今回混ぜている材料の割合を読み取りやすいものを選んでいます。
計算上の100目標で、方法を比較
実機の前に、研究者らは、既知の数式で成績が決まる仮想的な配合問題を使って、探索法を比較しました。三つの材料の目標比率を無作為に100通り用意し、毎回容器を空にする方法、追加だけを行う方法、排出も使う方法などを試しています。
この計算比較では、排出も使う方法は、毎回つくり直す方法とおおむね同等の探索成績を保ちながら、使う液体の総量を減らせました。容器の中の量も制御でき、追加だけの方法より有利でした。
ここでの100は、実際に100種類の香りを再現した数ではありません。数式上の100の目標について、探索の進み方と材料使用量を比べた結果です。
実機では、三つの液体の比率を近づけた
続いて、1-オクタノール、イソプロピルアルコール、メタノールの三つを使い、あらかじめ決めた割合の混合液を目標にしました。装置は、目標とは違う初期配合から出発し、測定と追加・排出を繰り返しました。
一つの目標では、最終的な混合比が正しい割合へ近づき、選ばれたチャンネルの信号も目標をよく再現しました。別の目標比率でも、正しい混合に近づけることを確認しています。
これは、混ぜる三つの材料が分かっている条件での実証です。未知の香水を渡せば、その成分や処方を自動で完全に突き止められることを示したわけではありません。また、これらの液体による実験は研究用のもので、家庭で香料を調合する手順ではありません。
みりんとポン酢では、信号と知覚の違いも見えた
研究者らはさらに、純水、料理酒、魚醤を材料に、みりんとポン酢のセンサー信号へ近づける実験を行いました。どちらの目標でも、選んだセンサーの応答に似た信号をつくれました。
みりんを目標にした混合では、料理酒が主な材料になりました。著者らは、みりんがエタノールや糖類を含み、料理酒とにおいに共通点があることと整合すると説明しています。
一方、ポン酢を目標にした混合では、センサー信号が近くても、酢や柑橘に由来するような酸っぱいにおいがなかったと報告されています。論文には、この評価の人数や正式な官能試験の手順は示されていません。それでも、著者らは、人にとってのポン酢のにおいを完全には再現できていない点を、重要な限界として挙げています。
センサーの表面材料は、人の嗅覚受容体と同じではありません。機械が似ていると判断する混合液が、人にも同じにおいに感じられるとは限らないことが、この例で表れました。
省試料の配合探しを、知覚に近づけるには
研究者らは、今後、香水や食品の香りの配合へ応用したいとしています。そのためには、自動で混ぜる技術だけでなく、人の嗅覚受容体に近い性質を持つセンサー材料など、知覚との対応を高める測定側の改良も重要になります。
また、一つの容器で追加と排出を繰り返す仕組みは、今回のセンサーだけに限られません。著者らは、金属酸化物や水晶振動子を使う別のセンサーにも適用できると考えています。目的に合う測り方と組み合わせながら、少ない試料で配合を探す基盤を育てる構想です。
研究は日本の科研費などの支援を受けました。著者らは利益相反はないと申告しています。
まとめ
一つの容器へ材料を足すだけでなく、一部を抜く操作も探索に組み込むことで、液量を制御しながら目標のセンサー応答へ近づける自動配合が実現しました。計算比較では、毎回つくり直す方法に比べ、試料の使用量を減らせることも示されています。
この研究は、配合の探索法と実際の装置を結びつけ、容器交換や材料消費という実験上の課題を解いた点に意味があります。一方、人の感じる香りへ近づけるには、何を「似ている」と測るかも改良しなければなりません。効率よく混ぜる仕組みと、知覚を反映する測定をつなぐことが、次の課題です。
参考文献
Fukui, Y., Minami, K., Shiba, K., Yoshikawa, G., Tsuda, K., & Tamura, R.(2024). Automated odor-blending with one-pot Bayesian optimization. Digital Discovery, 3, 969–976. DOI: 10.1039/d3dd00215b. 原著全文。© 2024 The Author(s). Published by the Royal Society of Chemistry. 原著はCC BY 3.0で公開されています。


