CURIONOIR(キュリオノワール)― 記憶を香りに、工芸を器にするニュージーランドの香水メゾン

CURIONOIRの丸い香水ボトルを、深紅の布やガラス花器とともに木製テーブルに置いたブランドイメージ ブランド創業者

“Curionoir would not be what it is without my Māori heritage.”
「マオリのルーツなくして、キュリオノワールは今の姿にはならなかった」
— ティファニー・ウテヒラ

ニュージーランドの香水を語るとき、土地の植物だけを手掛かりにすると、キュリオノワールの本質を見落としてしまう。このメゾンが香りに移そうとするのは、植物そのものよりも、植物に触れた人の記憶、家族から受け継いだ手仕事、古代史や神話の断片、そして肌の上で初めて完成する私的な物語である。

基本情報

ブランド名:CURIONOIR(キュリオノワール)
設立:2011年
創設者:Tiffany Witehira(ティファニー・ウテヒラ。初期記事ではTiffany Jeans〈ティファニー・ジーンズ〉名義)
拠点:ターマキ・マカウラウ(オークランド)、アオテアロア・ニュージーランド
主な製品:エキストレ・ド・パルファム、キャンドル、ハードソープ、手吹きガラスや陶器による香りのオブジェ
公式サイト:curionoir.com
日本公式サイト:remedy.jp

キュリオノワールがブランドとして始動したのは2011年である。ブランド名の「Curio」は好奇心を誘う珍しい物、「Noir」は創業期の眠れない夜と、その暗く夢のような美意識を映す言葉として組み合わされた。

創設者とブランドの成り立ち

手仕事に囲まれた幼少期

ティファニー・ウテヒラは、ニュージーランド北島のマオリ部族ンガープヒ(Ngāpuhi)に連なる。家族には手仕事を担う女性たちがおり、叔父は骨を彫る職人だった。幼い彼女にとって、その叔父は「戦士」のような存在に見えていたという。亜麻を編むこと、骨や木を彫ること、土地の植物からチンキを作ることは、後年になって借用した装飾的なモチーフではない。家族の暮らしの中にあった技術と記憶である。

なかでも香りへの感覚を育てたのは、曾祖母との時間だった。曾祖母は、植物を用いるマオリの伝統的な癒やしであるロングオア・マオリ(rongoā Māori)に携わっていた。森で嗅いだトゥパキヒやクーマラホウの匂いは曾祖母を呼び戻し、母が1980年代にまとっていた「ポイズン」は母の記憶につながる。ウテヒラにとって香りは、早くから「誰か」と結びついた感覚だった。

「香りはいつも私の人生に欠かせないものでした。幼いころ、森でロングオアを行う曾祖母と過ごした時間から、世界中の原料で感情をつくる現在まで」
— ティファニー・ウテヒラ

結婚式と小さな蝋の軍団

成人後のウテヒラは、ファッションと広告の世界で実績を重ねた。転機は、映画監督アンドリュー・モートンとの結婚式である。2009年、彼女は招待客への贈り物として、小さな頭蓋骨型のキャンドルを一つずつ手で鋳造し、チュールに包んだ。作り、包み、誰かに手渡すという行為そのものが、ブランドへ向かう最初の衝動になった。

香りの開発を学んでいた時期には、白い目をした娘が目の前に現れる夢を見た。その像を手で彫り、型を取り、香りを与えて完成したのが、人形の頭部をかたどる「ザ・リリス・ドール」である。このキャンドルはキュリオノワール最初の正式な作品となり、のちのロゴにもその姿を残した。

「娘が白い目で現れる夢を見ました。それが、私が彫って型を取った香る人形の頭部、ザ・リリス・ドールにつながりました」
— ティファニー・ウテヒラ

最初の商品は、友人クリスティン・クラブのブティック「ミス・クラブ」に少量置かれた。人形の頭部をかたどる独特のキャンドルは、やがて熱心な支持を集める。2011年、キュリオノワールはキャンドルと一点物のオブジェを中心とする小さなスタジオとして始まった。

香水へ、そしてグラースへ

ウテヒラは当初から調香師になることを計画していたわけではない。通信教育や各国の講座で学びを重ね、香水産業の中心地であるフランス・グラースでも研鑽した。同時に、ガラス、陶芸、ファカイロ(whakairo、マオリの彫刻)の技法にも触れた。彼女が目指したものが、液体としての香水だけではなく、器、空間、接客までを含む一つの感覚体験だったからである。

2016年、オークランドのポンソンビー・ロードに旗艦店を開いた。深い赤のベルベットの向こうにある約40平方メートルの店内は、染色したウォールナットと古色を帯びた真鍮で組まれ、視覚と触覚を抑えて嗅覚を際立たせるよう設計された。同じ年、キャンドルで培った香りを肌のための「アブソリュート・パルファム」として本格的に展開する。初期の4作は、グラースの調香師との協働によって生まれた。家族が彫った一枚岩のようなカウンターが中央に置かれていることも、この店を単なる販売空間ではなく、家族の手仕事が連なる場にしている。

その後は英国をはじめ海外の小売店にも進出したが、拡大だけを目的にはしなかった。少量生産と時間をかける制作姿勢を守り、構想から完成まで数年を要する作品もある。ウテヒラ自身、「生まれたアイデアのうち形になるのは1%ほど」と語っている。

ブランドのこだわり

記憶を説明せず、香りにする

キュリオノワールは、香水を「過去と現在を結び、世界を織り合わせる物語」と捉える。ただし、その物語は完成済みの筋書きを押しつけるものではない。香料を肌へ直接のせ、着用者自身の匂いと混ざることで、作品はその人だけの経験へ変わる。スプレーで周囲へ拡散するより、肌の近くに沈み込ませる親密さが選ばれている。

原料のイメージも、花弁、砕いた根、樹木の樹脂といった、植物の物質感を前面に出す。濃度はすべてエキストレ・ド・パルファムで、通常のオードパルファムより香料濃度が高いカテゴリーである。基本形は4mLのポケット・パルファムと50mLボトル。少量を肌へ置く所作までが、作品の一部になっている。

香水瓶を「家宝」にする

通常ボトルに加え、地元のモンマス・グラス・スタジオと制作する手吹きガラスの「グラス・エアルーム」がある。色と形には一つずつ差があり、購入者が50mLの香水をピペットで移し替えて使う。空になれば役目を終える容器ではなく、次の香りを受け入れて残り続けるオブジェという考え方である。

陶芸家カーステン・ドライバーグとの「クレイ・レリック」では、ニュージーランド南島の粘土をろくろで成形し、釉薬をかけ、複数回焼成する。香り、ガラス、粘土、木彫を同列のクラフトとして扱う点に、香水メゾンでありながら「香りを宿す美術品」を名乗る理由がある。

土地との関係を工程に組み込む

地元の採取者、ガラス職人、陶芸家、木工家、映像作家と協働し、包装や店頭での伝え方まで細部を検討する。ウテヒラが掲げるのは、他にない感覚体験をつくることと、地域の作り手を支え、地域経済へ返すことの両立である。

ここでマオリ文化は、香水名へ記号的に添えられるだけではない。ファーナウ(whānau、拡大家族)、系譜、土地、手仕事を分けずに捉える制作方法そのものに入り込んでいる。彼女の香水が個人的でありながら共同体的でもあるのは、この二つが矛盾しないからだろう。

香水ラインナップ

キュリオノワールの香水は、一般的な「シトラス」「フローラル」といった香調分類より、記憶や場面の入口から理解すると全体像が見えやすい。

家族と個人の記憶

  • セーラーフィールズ:祖父と地下室でワインを作った記憶を、リンゴ、紅茶葉、葡萄の葉、ツリーモス、二種のシダーウッドで描く。果実そのものより、湿った床、埃、発酵を待つ時間の気配が中心にある。
  • プロトゥローズ:曾祖父のタンギ(葬儀)で同時に漂った、熱い土、地中調理ハンギの煙、食堂を飾る薔薇が起点。ローズ・オットーとローズ・ド・メに、クミン、チークウッド、ハイチ産とジャワ産のベチバーを重ねる。
  • ダークブーケ:オレンジフラワー、サイプレス、ジャスミン、ベチバーによる「土と柑橘」。祖母と土地を歩き、在来植物を知った記憶につながる初期の中核作である。

歴史と神話

  • 415 AD:415年に殺害された哲学者・天文学者・数学者ヒュパティアを着想源に、彼女を取り巻く空気を想像した作品。トマトリーフ、ローズマリー、ガルバナム、乳香、没薬、沈香などが、青さと樹脂感のある風景をつくる。
  • イルティウネフェルティティ:古代エジプトと王妃ネフェルティティを着想源に、ブルーロータス、フィグウッド、オスマンサス、パッションフラワー、ガイアックウッドを配した作品。ブランドはこの作品を「美しき者が到来した」という言葉とともに紹介している。
  • オルフェウス・インカーネイト:オルフェウスをめぐる物語と、アルゴナウタイの航海からブランドが思い描いた水中の情景を着想源とする。カーネーション、イチジク、ブロンドタバコ、トンカ、ヘリオトロープ、リコリス、オリスが、無重力の静けさと引き込まれる感覚を重ねる。
  • パブロ:パブロ・ピカソの眼差し、煙草、絵具、火照った肌を、レモン、フランキンセンス、ミモザ、キューバ産タバコ葉、バニラ、トンカで組み立てる。肖像を似せるのではなく、その人物を取り巻く空気を嗅覚化した香りである。

身体と自然

  • ヌトゥパ:マオリ語で「触れ合う唇」。シナモン、カカオ、ローズ、オリスの柔らかさに、ナガルモタ、ウード、ラブダナム、カストリウムの土っぽく動物的な影を重ねる。マオリ神話の官能的な物語と、E・E・カミングズの詩から着想を得た。
  • ムーンモス:月明かりの湿地と浅瀬の白鳥を、オーキッド、ヒヤシンス、白百合、藻、オークモス、バーチ、シダーウッドで描く。湿地を「大地の知的な器官」と見る視点が、この香りの静かな生命感を支える。
  • キヒキヒ:マオリ語で「蝉」。地中で過ごす長い時間、木の根の記憶、地上でひと夏だけ響かせる求愛の歌をたどる。ニュージーランド原産のタラタ、レモン、胡椒、インセンスウッド、ラベンダー、菫、スティラックス、燻した木、ラブダナム、シダーウッドが、鋭い鳴き声から暗い土へと奥行きをつくる。

視線と意識

  • オピア:他者の瞳を見つめるときの、温かさ、無防備さ、侵入されるような感覚を香りにした作品。ルバーブの酸味に、ウード、ヴァージニアシダー、オーストラリアンサンダルウッド、ラブダナムが重なる。
  • ダイアファナス:「戸惑うほどの明晰さ」が主題。マンダリンとサンバックジャスミンに、サフラン、ナルシサス・アブソリュート、カイエンペッパー、アンバーを合わせ、透明さの中に刺激を潜ませる。

5種の4mLボトルを収めた「キュリオシティ・セット」も用意されている。セットIはタバコ・ナイト、ダイアファナス、セーラーフィールズ、オピア、ダークブーケ、セットIIはプロトゥローズ、イルティウネフェルティティ、パブロ、415 AD、オルフェウス・インカーネイトで構成される。

ちなみに…

最初のリリス・ドールと、結婚式のために作った頭蓋骨のキャンドルは、単なる創業前史ではない。「死や古い時代を思わせる形に香りと灯りを入れ、贈り物へ変える」という発想は、古代の人物を現在の肌へ呼び戻す香水や、遺物を思わせる器へそのまま続いている。

日本では2024年に東京のドワネルで複数回のポップアップが行われ、現在は東京・池尻の「Sense of Style」が日本公式直営店として香水、キャンドル、少量生産のオブジェを紹介している。キュリオノワールは遠いニュージーランドの地域性を売るだけのブランドではない。家族から受け取った記憶を、香りと工芸の共同制作を通じて、別の土地にいる着用者の記憶へ手渡そうとするメゾンなのである。

補足

設立年を2012年とする香水データベースもあるが、日本公式サイトとニュージーランドの創業者取材は2011年としている。創設者のティファニー・ウテヒラは、初期の英語記事ではティファニー・ジーンズの名で紹介されている。

参考文献
  1. Sauce interviews perfumer Tiffany Jeans of Curionoir
  2. 15 New Zealand Beauty Brands Worth Adding to Your …
  3. Favourite Things: Curionoir’s Tiffany Jeans
  4. Essencional – Niche Perfumery and Beauty Hub
  5. Curionoir
  6. Fine Fragrance and Fine Candles
  7. all-products
  8. Curionoir
  9. A moment with Curionoir founder Tiffany Jeans
  10. Curionoir – – My Mummy Loves
  11. Flagship Store
  12. Sensory overload: Curio Noir opens flagship store in Auckland
  13. CURIONOIR – 50ml Extrait De Parfum
  14. GLASS HEIRLOOM DECANTING KIT – Mountain, Green
  15. Favourite Things: Monmouth Glass Studio – NZ Herald
  16. Irtiu Nefertiti
  17. Curiosity Set I
  18. The Long Read: Fragrance For And By Modern Women – We Wear Perfume
  19. Purotu Rose
  20. Dark Bouquet
  21. CURIONOIR – 415 AD
  22. IRTIU NEFERTITI
  23. Irtiu NEFERTITI
  24. Orpheus Incarnate
  25. Pablo
  26. Extrait de Parfum PABLO パブロ – CURIONOIR キュリオノワール 日本公式オンライン
  27. Let Curio Noir’s new fragrance Ngutu Pā sensual you up
  28. NGUTU PA
  29. MOON MOSS
  30. Extrait de Parfum キヒキヒ – CURIONOIR キュリオノワール …
  31. KIHIKIHI
  32. Curionoir pocket parfum, designed and bottled in Auckland …
  33. Opia
  34. Diaphanous
  35. Curiosity Set II
  36. CURIONOIR pop up
  37. CURIONOIR pop up at doinel
  38. Sense of Style
  39. Curionoir Perfumes And Colognes
  40. Curionoir(日本公式オンライン/Remedy apothecary & objects)

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