Jousset Parfums(ジュセ・パルファン) — グルマン香水の革命児

ジュセ・パルファンの世界観と代表製品「Accident à la Vanille Le Parfum」を表現したブランドイメージ

「世界中をかけめぐる嗅覚の旅を終えたのち、それまで市場では出会えなかった、ゴージャスで、グルマンで、大胆な香りを届けることが、私にとって不可欠なことになった。グルマン系の香水は市場で十分に評価されていない。私はそれに、ふさわしい認知を与えたかった。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)、Jousset Parfums(ジュセ・パルファン)のクリエイター

基本情報

設立年: 2020年
創設者: Jimmy Bodin(ジミー・ボダン、パフューマー)、Melis Bodin(メリス・ボダン、共同経営者)
公式サイト: https://www.joussetparfums.com
読み方の注記: 「ジュセ・パルファン」(Jousset はフランス語読みで「ジュセ」)

創設者・ブランドの成り立ち

ふたりの親から受け取った遺産

ジュセ・パルファンの物語は、一人のフランス人の幼少期から始まる。パフューマーのジミー・ボダンは、ごく普通の家庭に生まれた。しかし、その家庭には、豊かな感性を育む源泉があった。

「私は慎ましい家庭の出身だ。でも母は常にラグジュアリーを、とりわけ高級香水を愛していた。幼い頃から、意味のある美しさは高価である必要はなく、本物であればいいと彼女に教わった。彼女が亡くなり、その美しい香りへの情熱が、私への遺産となった。だからこそ、ブランド名に彼女の旧姓『Jousset(ジュセ)』を冠したのだ。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

父親もまた、ジミーの哲学を形成する大きな存在だった。

「父は自分の手で働き、自らの力でものを作り出す人だった。彼から学んだのは、挑戦すること、忍耐を持つこと、そして欲しいものが見つからなければ、自分で作ればいいということだ。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

「大胆であれ、忍耐強くあれ」、「欲しいものがなければ自分で作れ」——この二つの教えが、ブランドのすべての根幹となっていった。

独学という道

ジミーは正規の調香教育機関を経たわけではない。彼の師は、好奇心と感情と直感そのものだった。

あるとき、彼は一本の東洋系の香水に深く恋をした。しかし、その香水は彼には手が届かない価格だった。二本目を手にする金銭的余裕はない——それならば、自分で解読するしかない。そうして、香りの構造を学ぶ旅が始まった。

「今日、私は世界中の嗅覚の旅を経ても市場で見つけられなかった香りを作り出している。強いシラージュ(香りの軌跡)と持続性は、誠実な作業、上質な素材、そして巧みな調合によって操ることができる。それが私の使命だ。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

このアプローチは「感情的で、直感的で、深く人間的」なものだった。 独学であることを恥じるより、それをアイデンティティとした。

ジミーはまた、自身が日常的に抱える不安について公言している。

「私は常に心と感情の働きに魅了されてきた。私は日常的な不安を抱えており、それがすべてを観察することを余儀なくさせる。戦略を構築し、人を理解することには役立つが、社交の場では散々な結果をもたらす。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

社交を苦手とするその同じ感受性が、彼に「感情を構造に変える」稀有な能力を与えている、とブランド自身は語る。

スイスの小さな部屋から世界へ

2020年3月21日、ジミーはパートナーのメリス・ボダンとともに、スイスに暮らしながらジュセ・パルファンを立ち上げた。 メリスはトルコ出身のビジネスマネジメントの専門家であり、ジミーの創造的なビジョンを実業に繋ぐ役割を担っている。

最初期の姿は、極めてシンプルなものだった。

「ジュセ・パルファンは、想像しうる最も謙虚な形で始まった——小さな部屋の中で、注射器でボトルを充填していた。華やかさとはほど遠かったが、それは本物だった。情熱に突き動かされていた。私はいつもフランスのデザートが好きで、スイスでは見つからないものを香りに変えることが、純粋な幸福の形だと感じていた。好きなものを、世界と分かち合えるものへと変えること——それだ。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

当初の目標は、既存の香水を「再現すること」だったが、次第に自分だけの創作への情熱が勝っていった。 少量生産で、主に家族や友人、一部の顧客向けに届けられたこのブランドは、やがてウルトラ・グルマン系香水の新しいカテゴリを定義するブランドとして、SNSコミュニティで口コミが広がっていく。

転換点——フランスへの帰還

2021年1月には、コミュニティの声に耳を傾け、ボトルデザインを全面刷新。より上品でシックなデザインへと生まれ変わり、フランスの香水遺産を想起させる佇まいを手に入れた。 同年3月17日、代表作となる「アクシダン・ア・ラ・ヴァニーユ(Accident à la Vanille)」が誕生し、続いてコレクション・ノワールが展開された。

2023年3月1日、ジュセ・パルファンは大きな転換を迎える。ジミーの故郷であるフランス・ブルターニュ地方のレンヌへ拠点を移し、フォーブス・フランスも取り上げた香水製造のアトリエ企業「アテリマップ(ATELIMAP=香水の製造・充填を手がける工房企業)」を創設。 同年12月14日には、レンヌ市内に初の直営ブティックをオープンさせた。

2024年3月の時点で、ジュセ・パルファンは世界12カ国、60以上のブティックで取り扱われるブランドへと成長している。

ブランドのこだわり

「ウルトラ・グルマン™」という独自カテゴリ

グルマン(gourmand)系香水とは、バニラやキャラメル、チョコレートなど食べ物を想起させるノートを中心に構成された香りのジャンルを指す。ジュセ・パルファンはこれをさらに推し進め、「ウルトラ・グルマン™(Ultra-Gourmand™)」と名付けた独自の領域を開拓した。

「私たちは、クラシックなスイート系香水を超えた、明確なパティスリーの個性を持つ、大胆なデザート感覚のアコードに重点を置く、ウルトラ・グルマン™カテゴリを生み出した。」

— Jousset Parfums(ジュセ・パルファン) 公式プレスより

ジミーは香りを、食べ物の印象を引き起こす「手がかり」の集合体として捉える。バニラ、カカオ、キャラメル、ミルク、焼き菓子の生地、果実のジャム——これらは単純な甘さではなく、温度や質感を持つ「立体的な構造体」として構築される。

異例の高濃度

エクストレ・ド・パルファン(Extrait de parfum)とは、一般に高い香料濃度で展開される分類の香水である。オードパルファンが15〜20%程度と紹介されることが多いのに対し、ジュセ・パルファンでは約30%という高濃度を公式に掲げている。 この高濃度が、数日にわたるとも評されるロングラスティング性と、力強いシラージュ(残香)を実現する秘訣だ。

公式スローガン「Twice is enough(トゥワイス・イズ・イナフ=2プッシュで十分)」は、こうした圧倒的な濃度への自信を端的に表現したものだ。

自社アトリエでの手仕事

すべてのフレグランスは、フランスの自社工房で手作業によって製造される。 外部委託や大量生産に頼らないこの姿勢はブランドの独立性を担保し、創作の文脈から完成品まで一貫したクオリティコントロールを可能にしている。

「ジュセ・パルファンは単なるブランドではない。それはニッチ香水を愛する人々への約束だ。真摯であり続け、革新し続け、何よりも情熱と品質を優先するという約束。」

— Jimmy Bodin(ジミー・ボダン)

サステナビリティへの姿勢

プラスチックキャップをメタルキャップに変更し、包装材を削減し、リサイクル可能な素材を採用する取り組みを継続している。 全フレグランスはヴィーガン処方で、動物実験も行っていない。

ボトルデザイン

ブランドロゴにはオウム(ペロケ/perroquet)が描かれている。これはブランドを象徴するシンボルであり、紹介資料のタイムラインでは「発売から2年後に飛び立った」とされている。 ボトルは2021年1月の刷新以降、すっきりとした洗練されたシルエットに統一され、フランスの香水遺産へのオマージュが感じられるデザインとなっている。 ボトルデザインの詳細な素材や製法については、公開情報の範囲では確認できなかった。

香水ラインナップ

ジュセ・パルファンのコレクションはこれまで主に3つのラインと、限定コレクションで展開されてきた。

コレクション・ノワール(La Collection Noire)

「黒のコレクション」の名が示すとおり、深みと強度を追求した作品群だ。 ラインナップには以下の5作品などが含まれる。

  • ル・グルマン(Le Gourmand) — チョコレートスプレッドをイメージした作品。スキンに溶け込むようなムスクとの組み合わせが特徴的。
  • アクシダン・ア・ラ・ヴァニーユ(Accident à la Vanille) — コレクション最大のカルト作。後述。
  • アクシダン・ア・ラ・ヴァニーユ — マドレーヌ・ド・プルースト(Madeleine de Proust) — ヴァニーユの派生ヴァージョン。タイトルは、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』における「マドレーヌ」の逸話——一口の菓子が失われた記憶を呼び覚ますシーン——への言及である。
  • ラ・タルト・タタン(La Tarte Tatin) — フランスの伝統菓子タルト・タタンを香りに昇華した作品。
  • デリシャス・ブラック・パウダー(Delicious Black Powder) — コレクション中、最もダークで複雑な作品。

コレクション・ブランシュ(La Collection Blanche)

「白のコレクション」はコレクション・ノワールとのコントラストをなす存在だ。ピスタチオ、カラメル、ミルクアコード、白いチョコレートなど、より明るく軽やかなグルマンノートを中心に構成されている。 代表作には、アフリカン・クイーン(African Queen)やチャオ・ベッロ・ピスタキオ(Ciao Bello Pistachio)、グルマン・バフール(Gourmand Bakhoor)などが挙げられる。 コレクション・ノワールとは「キアロスクーロ(光と影の対比)」の関係にあり、両者は互いを引き立て合う。

レ・デリス・ド・ジュセ(Les Délices de Jousset)

「ジュセのお楽しみ」と名付けられたこのラインは、より遊び心のあるデザートインスパイアードな香水集だ。 以下の5作品などを展開してきた。

  • クレーム・ブリュレ(Crème Brûlée) — 焦がしカラメルとクリームカスタードのアコード
  • スティッキー・ポップコーン(Sticky Popcorn) — 塩バターキャラメルポップコーンを再現した一作
  • バナナ・スプリット(Banana Split) — バナナ、アイスクリーム、チョコレートによるノスタルジックな構成
  • カフェ・アフォガート(Café Affogato) — エスプレッソとバニラのイタリアンデザートを香りに
  • ベル・エレーヌ(Belle Hélène) — フランスの古典的なデザート「洋梨のショコラソース添え」にインスパイアされた作品

レ・ミニャルディーズ(Les Mignardises)

「ミニャルディーズ」とは、フランスのビストロで食後のコーヒーに添えて供される一口サイズの小菓子を指す。 このコレクションはリミテッドエディションとして展開されており、チェスナット・クリーム&フレンチ・ヴァニラ(Chestnut Cream & French Vanilla)、スパイシー・パンプキン&マシュマロ(Spicy Pumpkin & Marshmallow)、ジンジャーブレッド&ブラウンシュガー(Gingerbread & Brown Sugar)などの作品が確認されている。

伝説の一作——アクシダン・ア・ラ・ヴァニーユ

コレクション中、最もコミュニティに語り継がれる一本が「アクシダン・ア・ラ・ヴァニーユ」だ。フォーブス・フランスは「幸せな調合ミスから生まれた」と伝え、 ブランドの革新性と大胆さを象徴する作品として位置付けられている。バニラ、サンダルウッド、スティラックス(styrax:バルサム系の樹脂香料)による複合的なアコードは、単なる甘い香りを超え、スモーキーで深みを帯びた「バニラの肖像画」として香水愛好家に受け入れられている。

ちなみに…

ブランド名の由来はロゴにも宿っている。 同じタイムラインに記された「ロゴのオウムは、創業2年後に飛び立った」という記述は、2022年頃にブランドが本格的に世界へ羽ばたいたことへのメタファーと読み取れる。

ジミー・ボダンは複数のブランドを同時に手がけている。 ジュセ・パルファンのほかに「ジミー・ボダン・パルファン(Jimmy Bodin Parfums)」と「ザ・アンリーシュド・アポセカリー(The Unleashed Apothecary)」という兄弟ブランドも持ち、いずれも自らが手作りで製造している。

「Twice is enough(トゥワイス・イズ・イナフ=2プッシュで十分)」というスローガンは、逆説的な警告でもある。 高濃度のエクストレは、吹きかけすぎると周囲を圧倒しかねない。2プッシュで十分——これはパフォーマンスへの自信と、ユーザーへの真剣なアドバイスが重なった、ユーモアある表現だ。

参考文献