やっぱり自分で作って、自分で売りたい。
菅澤圭太
APFR(アポテーケ フレグランス)は、菅澤圭太が2011年に立ち上げた日本のフレグランスブランドである。出発点は、海外で目にした香料店の佇まいと、自分の手で何かを作り、届けたいという思いだった。
基本情報
- ブランド名: APFR(アポテーケ フレグランス/APOTHEKE FRAGRANCE)
- 設立: 2011年
- 創設者: 菅澤圭太(すがさわ けいた)
- 発祥: 日本・千葉県
- 公式サイト: APFR
創設者とブランドの成り立ち
アパレルの仕事で出会った中東の香料文化
クラブDJとして活動していた縁からアパレルブランドの営業に携わり、海外へ出かけた菅澤は、ニューヨークのハーレムやシンガポールのアラブストリートで香料店に出会った。香油の瓶が並び、店主が客の好みを尋ねながら香りを調合する。香りそのものだけでなく、店構えや人のやり取りに惹かれたのである。
樹脂商社への転職とキャンドルの試作
27歳まで携わったアパレル業界を離れた後、菅澤は合成樹脂の原料を扱う商社へ転職した。
商社では企画開発や営業を経験したが、自分が扱う原料が最終的にどのような製品になるのか、見えにくいことにもどかしさを感じていた。使う人の顔が見えるものを、自ら作って届けたい。その思いが、香りの仕事への関心と結びついた。
帰宅後はキャンドルを独学で試作したが、香料を蝋に加えるだけではうまくいかなかった。点火すると全体が燃えてしまう失敗もあり、原料の性質と燃焼の仕組みを学ぶ必要を痛感した。
香料会社で学びながら、2011年にブランドを設立
2010年、菅澤は天然香料を世界各地から仕入れる香料会社に入社した。製造の現場で働きながら有機化学を学び、原料の性質や加工工程への理解を深めていった。
2011年、香料会社に勤めたままAPOTHEKE FRAGRANCEを設立。日中は会社で働き、帰宅後は自室でキャンドルを製造した。作業が深夜3時近くまで続くこともあったという。
給料とキャンドルの売上を使って少しずつ香料を買い集め、調合できる素材を増やした。元DJの菅澤は、その喜びをレコード集めの感覚に重ねている。
友人の結婚式から広がった新たな取引
創業間もない頃、菅澤は親友の結婚式の引出物としてキャンドルを制作した。
当時のパッケージは黒を基調としたものだった。そのキャンドルが、家具やインテリアを扱うACMEの関係者の目に留まる。結婚式の後に問い合わせが届き、取引が始まった。
昼間は香料会社で働いていたため、自ら営業に出向く時間は限られていた。そんな時期に、身近な人のために作ったキャンドルが、新たな販路を開いたのである。
その後、ACMEとはオリジナルの香りを共同制作する関係へと発展した。
自室で始まった製造は、香りの種類や製品形態が増えるにつれて、専用の工場を必要とする規模へ成長していく。キャンドルから始まったAPFRは、インセンスやルームスプレーなどへ制作の領域を広げていった。
ブランドのこだわり
自社調合と試作を重ねる香りづくり
APFRの出発点には、小さな規模で製造から販売まで手がけるという考えがあった。
ハンドメイドで少量生産するスタンスですね。
菅澤圭太
菅澤が創業時に重視したこの姿勢は、事業の拡大とともに製造体制を変えながら受け継がれてきた。
香りの開発では、テーマを決め、処方を組み立て、調合と試作を繰り返す。研究開発を行うラボと量産工場は役割を分けており、キャンドルでは同じ時刻に点火と消火を繰り返し、燃焼中の香りの変化まで確かめる。
香料も天然由来のものだけに限定しない。合成香料を取り入れることで、植物そのものの匂いを再現するだけでは表現できない情景や感覚にも踏み込んでいる。
現在は自社の製造技術と、専門性を持つパートナーとの協働を組み合わせている。
2023年の刷新と日本の伝統色
2023年3月、APOTHEKE FRAGRANCEはAPFRとしてブランドの装いを刷新した。
新しいパッケージでは、創業初期の手作り感を前面に出す表現から、より簡潔で落ち着いた意匠へと移行。日本の伝統色に着目し、灰鼠や白鼠といった微妙な色の違いを取り入れた。
菅澤が関心を寄せるのは、日本の美意識にある「繊細微妙」という感覚である。強い色彩で主張するのではなく、わずかな差異によって奥行きを生み出す考え方だ。
ただ、主役はあくまで香り。
菅澤圭太
パッケージや店舗空間は、香りを引き立てるためのものでもある。直営店に置かれたガラス作家・小澄正雄によるガラスドームも、来店者が香りと向き合うために制作された道具である。
White TeaとBlue Hourに見る香りの発想
香りのインスピレーションに旅は欠かせないものです。
菅澤圭太
APFRの作品には、植物だけでなく、旅や音楽から生まれたものもある。
「White Tea(ホワイトティー)」は、東南アジアのリゾートスパと、旅先で振る舞われた白茶の香りを着想源とする。ベルガモットやマンダリンの柑橘に、ジャスミン、イランイランなどの花、タイムやジンジャーのスパイシーさを重ねた構成である。
インセンスは竹芯のスティック型である。白茶という名前から単一の茶葉の匂いを再現するのではなく、旅先で出会った香りの印象を複数の素材で組み立てている。
一方、「Blue Hour(ブルーアワー)」は夕暮れから夜へと移る時間の空気を題材とし、ジャズサックス奏者スタンリー・タレンタインのアルバム『Blue Hour』からも影響を受けた作品である。
香りの名前は創作の背景を示す入口であって、完成した物語そのものではない。菅澤は説明を尽くすのではなく、使い手自身の記憶や想像が入り込む余地を残そうとしている。


