BALMAIN|服を形にした目から、世代をつなぐ香りへ

BALMAIN Carbone EDP 50ml。公式商品写真を用い、黒白のクチュール生地を象徴的背景にしたブランド画像。

ファッションはビューティなしには存在できず、ビューティもファッションなしには存在できません。

— オリヴィエ・ルスタン

1945年、ピエール・バルマンがパリに開いたメゾンは、翌年には香水を送り出している。服の輪郭をつくる仕事と、姿の見えない香りをつくる仕事。その二つは、バルマンの歩みの早い時期から並んでいた。

その歴史を受け継ぎ、2024年の香水コレクションを率いたのが、オリヴィエ・ルスタンである。創業者が残した名前やボトルに、自身の家族の記憶や出自を重ねることで、古い作品を現代へ開き直した。バルマンの香水には、メゾンの歴史と、それを読み替える人の人生が交差している。

基本情報

  • 設立年:1945年。最初の香水は1946年。現在のバルマン ビューティは2022年の提携から始まり、2024年に最初のコレクションを発表。
  • 創設者:Pierre Balmain(ピエール・バルマン)
  • 誕生の地:フランス・パリ
  • 公式サイト:BALMAIN / Balmain Beauty

創設者とブランドの成り立ち

布地の商いと、建築から服づくりへの転身

ピエールは1914年、フランス・サヴォワ地方のサン=ジャン=ド=モーリエンヌに生まれた。父モーリスは布地の卸売業を継ぎ、母フランソワーズと叔母たちは洋服店「ギャルリー パリジエンヌ」を営んでいた。服づくり、帽子づくり、販売と飾り付けを姉妹で分担する店である。

身近な店や、温泉保養地エクス=レ=バンで目にする人々の装いは、ピエールにとって観察と素描の題材になった。1933年にはパリで建築を学び始めるが、翌年、英国人クチュリエのエドワード・モリヌーのメゾンに入る。身体を包む線や量感を考えることは、その後も彼の服づくりの中心に残った。

服づくりは、動きの建築である。

— ピエール・バルマン

修業時代には、自分がデザインに関わった服を着る女性を、初めて街で見かけたことがある。うれしさのあまり後を追ったが、声をかける勇気は出なかった。回想録に残るのは、図案が誰かの装いになった、その瞬間の喜びである。

子どもの頃の夢が、形になるのを見たのです。

— ピエール・バルマン

戦争による中断と、1945年の独立

1939年にはリュシアン・ルロンのもとで働き始めたが、戦争によって仕事は中断する。復員後の1940年にはエクス=レ=バンへ戻り、母のブティックを手伝った。翌年、ルロンのアトリエへ戻ると、クリスチャン・ディオールとともにコレクションを担うようになる。

独立したのは1945年。パリのフランソワ1世通り44番地に、自らのメゾンを構えた。資金に余裕のない出発を支えた母は、息子のために婚約指輪まで売った。10月12日に発表した最初のコレクションは45点。家族の商いから始まった服への関心は、修業と戦争を経て、自分の名を掲げる仕事になった。

電話番号を名にした香水と、ヴァン ヴェールの誕生

最初の香水「Élysées 64-83(エリゼ64-83)」が登場したのは1946年である。名前に選んだのは、メゾンの電話番号だった。創業から間もなく、香水もバルマンの名を伝えるものに加わっている。

翌1947年には、調香師ジェルメーヌ・セリエと生み出した「Vent Vert(ヴァン ヴェール)」が続く。グリーン系の香水を切り開いた作品であり、その名前は後の再出発でも重要な位置を占めた。1953年の「Jolie Madame(ジョリ マダム)」、1979年の「Ivoire(イヴォワール)」も、服と香りがともに育ったメゾンの歴史に刻まれている。

ルスタンが香水で探した、新しい表現

2009年にバルマンへ入り、2011年にクリエイティブディレクターとなったルスタンにとって、過去の香水は個人的な記憶ともつながっていた。イヴォワールは、祖母がかつて使っていた香りだったのである。

2020年に火傷を負った後、ルスタンは服とは異なる方法で自分を表すことを考えるようになった。香水の世界へ敬意を持って入り、学校でも学んだ。その探求を、彼はこう呼んでいる。

クリエイティブディレクターとしての、新しいあり方。

— オリヴィエ・ルスタン

2022年には、バルマンとエスティ ローダー カンパニーズが、ビューティ製品の開発・生産・販売に関するライセンス契約を発表した。新しい事業の枠組みと、ルスタン自身の表現の探求が重なり、2024年に「Les Éternels de Balmain(レ ゼテルネル ドゥ バルマン)」が生まれる。

最初のコレクションは、性別を問わずまとう8種のオードパルファム。ヴァン ヴェール、イヴォワール、エベーヌ、カルボーヌという歴代の名前を読み替えた4作品と、新たな4作品で構成された。ルスタンは香りの構想に加え、容器やキャンペーンにも関わった。

ルスタンがメゾンのクリエイティブディレクターを務めたのは2025年までで、同年からアントナン・トロンへと引き継がれている。レ ゼテルネルは、その交代に先立ってルスタンが形にした香水の仕事である。

ブランドのこだわり

歴代の香水を、別の時代の視点から読み替える

レ ゼテルネルが行ったのは、古い名前を使いながら、現代の香りとしてつくり直すことだった。ヴァン ヴェールの新作では、グリーンマンダリンとジャスミンを軸に、ガルバヌムやカシスも組み合わせる。自然を描くグリーンの発想を引き継ぎつつ、1947年の作品とは区別された再解釈である。

「Ébène(エベーヌ)」では、1983年に登場したアフリカに着想を得た香水の名前に、ルスタン自身のエチオピアとソマリアにまたがるルーツが重なる。新作の中心に置かれるのは、黒檀のイメージとミルラのオイル、タバコの葉。木や樹脂の表現を通して、自らの出自をたどるという主題を担っている。

祖母の香りを思い出させるイヴォワールと、自分のルーツを重ねたエベーヌ。同じ過去の再解釈でも、引き継ぐ側の経験によって作品との関係は変わる。そこに、単なる復刻にとどまらない、このコレクションの成り立ちが見える。

カルボーヌに見る、ムスクとローズの対比

黒いボトルの「Carbone(カルボーヌ)」のオードパルファムは、ムスクとローズの対比を掲げる。ホワイトムスクがもたらす明るさに、ローズのタバコを思わせる陰影、肌を思わせるスエード、クミンの温かさを組み合わせた構成である。

花の美しさだけで完結させず、清らかさと肉感的な表情を同じ香りに置く。自己表現というコレクションの主題を、相反する質感の共存によって具体化した作品といえる。

1946年のボトルを受け継ぐ造形と、詰め替え設計

レ ゼテルネルの容器は、1946年のエリゼ64-83のボトルを出発点にしている。円と四角の対比を引き継ぎながら、四角を縦長の菱形へ変え、ガラスに縞状の凹凸を施した。キャップのPBモノグラムには、1970年の迷路模様から取り出した意匠を用いている。

形だけでなく、ボトルを使い続ける仕組みも組み込んだ。レ ゼテルネルはポンプを取り外して詰め替えられる設計で、外装にはセロハン包装を使わない。過去の造形を引き継ぐことと、現代の容器の使い方を考えることが、一つの瓶に収まっている。

柑橘、レザー、ローズへ広がる表現

その後の展開では、「Blanc Galaxie(ブラン ギャラクシー)」がセドラやマートル、マグノリアによる柑橘の表現を加え、「Cuir Élysées(キュイール エリゼ)」はレザーにラズベリーとサンダルウッドを合わせた。最初の8作品に、香りの題材や質感を広げている。

オードトワレも展開され、カルボーヌ、ルージュ、ブラン ギャラクシー、ブルー アンフィニに加え、「Rose de Soie(ローズ ドゥ ソワ)」が生まれた。ローズ ドゥ ソワは、ローズウォーターの表情にローストしたトンカの甘さを重ね、絹のような花びらの質感を主題にする。濃度名を変えた製品の展開と、新しい名の香りの創作が並行している。

デスタン ドゥ バルマンの果実と、迷路模様の瓶

2026年には、レ ゼテルネルとは別の女性向け香水「Destin de Balmain(デスタン ドゥ バルマン)」が登場した。調香を手がけたのはカンタン・ビシュ。自分の道を選ぶというテーマを、熟したストロベリーの明るさから描いている。

果実のみずみずしい鮮やかさが、輝きのある洗練された甘さを構成にもたらします。

— カンタン・ビシュ

ピオニーのアコードにはライチを思わせるクリーミーな側面を持たせ、サンダルウッドのアコードとパチョリ、ムスクの表現へつなぐ。アコードとは、複数の香料で組み立てた香りのまとまりである。果実の印象を、花と木の質感へ展開するつくりになっている。

容器は透明なガラスの立方体で、PBモノグラムを連ねた迷路模様が各面に立体的に刻まれる。レ ゼテルネルとは異なる輪郭でも、メゾンの意匠を香水へ移す姿勢は共通する。バルマンの香水をたどると、香りの処方と瓶の造形の両方で、受け継いだものを次の表現へ変えてきた歩みが見えてくる。

参考文献

  1. Balmain Launches Balmain Beauty With a New Luxury Fragrance Collection: Les Éternels — ルスタンの発言、コレクションの成立とボトル造形
  2. Balmain Beauty「About Balmain」— 創業、香水の歴史、現在の展開と包装方針
  3. Pierre Balmain『My Years and Seasons』公開プレビュー — 家族の商いと、初めて自作の服を街で見た記憶
  4. BALMAIN「Pierre Balmain」— 少年時代、建築との関係、母の支援とメゾンの創業
  5. Museo Nacional de Colombia「Pierre Balmain, arquitecto de la moda」— 修業、戦争、独立と最初のコレクション
  6. BALMAIN「The Architects of Balmain」— ピエールの言葉と、ルスタンからトロンへの継承
  7. Balmain Beauty「Vent Vert Eau de Parfum」— セリエとの旧作と、現代の再解釈
  8. British Vogue「Dove Cameron, Beyoncé And Olivier Rousteing’s Mum Love This Balmain Beauty Scent」— ルスタンの学び、家族の記憶と出自
  9. The Estée Lauder Companies and BALMAIN are Partnering to Launch BALMAIN BEAUTY — 2022年のライセンス契約
  10. Balmain Beauty「Ébène Eau de Parfum」— 1983年の作品との関係と新作の構成
  11. Balmain Beauty「Carbone Eau de Parfum」— ムスクとローズの対比、質感と詰め替え設計
  12. Balmain Beauty「Blanc Galaxie Eau de Parfum」— 柑橘の構成
  13. Balmain Beauty「Cuir Élysées Eau de Parfum」— レザーと果実の構成
  14. Balmain Beauty「Eau de Toilette」— オードトワレの展開
  15. Balmain Beauty「Rose de Soie Eau de Toilette」— ローズウォーター、トンカと絹の質感
  16. Balmain Beauty「Destin de Balmain」発表資料 — ビシュの発言、2026年の発売とボトル造形
  17. Balmain Beauty「Destin de Balmain Eau de Parfum」— 果実、花、木とムスクの構成