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title: "同じ分子が、汗のようにもバニラのようにも感じられる理由"
description: "アンドロステノンの強さや不快感の個人差の一部は、å— 覚受容体OR7D4の型と関連していました。細胞実験と391人の知覚評価をつないだ研究を解説します。"
url: https://lechercheurdeparfum.com/or7d4-androstenone-genetic-odor-perception/
date: 2026-10-13
modified: 2026-10-13
author: "Root"
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categories: ["香りの科学"]
tags: ["感じ方・記憶・気分"]
type: post
lang: ja
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# 同じ分子が、汗のようにもバニラのようにも感じられる理由

同じ分子なのに、汗や尿のように不快に感じる人もいれば、甘い香りと感じる人、ほとんど気づかない人もいる。アンドロステノンは、そんな個人差の大きいにおいとして知られています。

2007年の研究は、その違いの一部を、鼻でにおいを受け取るタンパク質「OR7D4」の遺伝的な型と結び付けました。培養細胞で受容体の働きを調べ、人に同じ成分を嗅いでもらう。この二つの実験をつないだ点が、研究の核心です。

## まず、反応する受容体を細胞で探す

研究チームは、働くと予測されたヒト嗅覚受容体335種類を培養細胞に発現させ、アンドロステノンを加えたときの反応を調べました。その中で最も強く反応したのがOR7D4です。

次に、66種類のにおいと2種類の溶媒を使って反応の範囲を調べると、一般的な型のOR7D4は、アンドロステノンと、構造の近いアンドロスタジエノンに選択的に反応しました。ほかの64種類と溶媒には、この試験条件で反応が見られませんでした。

受容体は、におい分子からの刺激を細胞の信号へ変える入口です。ただし、培養細胞でうまく働かない受容体もあり得るため、この探索で反応しなかったものが、人の鼻でも絶対に関与しないとは限りません。著者らも、ほかの受容体の寄与が残ることを指摘しています。

## 二つのアミノ酸が違う型では、反応が弱くなる

391人のOR7D4の配列を調べると、タンパク質のアミノ酸が変わる複数の変異が見つかりました。頻度の高い二つの変化は一緒に受け継がれており、研究では、よく見られる型を「RT」、二か所が変わった型を「WM」と呼んでいます。

細胞実験では、WM型の反応はRT型より大きく低下しました。二つの変化を一つずつ入れた受容体も作ると、反応は中間的になりました。つまり、両方の位置が受容体の働きに関わることを、配列を操作した比較でも確かめています。

ほかの比較的まれな型には、反応が低いものと、RT型より高いものがありました。高反応の型では細胞表面にある受容体が多く、著者らは輸送や安定性との関係を考察しています。一方、主要な低反応型の違いは、単に細胞全体で作られるタンパク質の量が少ないという説明だけでは捉えられませんでした。

## 391人の強さ・快さと、121人の検出閾値を測る

人の実験では、全般的な嗅覚低下などによる除外後の391人を解析しました。19〜75歳で、女性210人、男性181人です。66種類のにおいを高低2濃度で提示し、強さと快不快を7段階で評定しました。試料名は分からないようにし、少なくとも4日空けて2回測っています。群間の解析では、評点を各人の中での順位に直し、尺度の使い方の個人差を抑えました。

このうち121人では、アンドロステノンとアンドロスタジエノンを段階的に薄め、検出できる濃度の目安である閾値も測りました。さらに、あらかじめ用意した146の言葉から香りの特徴を選ぶ課題で、においの質を調べています。

人はOR7D4の型を両親から一つずつ受け継ぎます。そこで、RTを二つ持つRT/RT群と、RTとWMを一つずつ持つRT/WM群などを比較しました。

## 低反応の型を持つ群は、弱く、あまり不快でなく感じた

RT/WM群はRT/RT群に比べ、アンドロステノンとアンドロスタジエノンを弱く、より不快でないにおいとして評価しました。WMを二つ持つ少人数の群でも、両成分の強度評定はRT/RT群より低くなりました。

この違いは、何でも弱く感じるという全般的な傾向ではありません。主要なRT/RTとRT/WMの比較では、残る64種類のにおいと溶媒の強度・快不快には、同じような統計的に明確な関連が見られませんでした。細胞で反応する成分と、人で違いが出る成分が対応したのです。

閾値の比較でも、RT/WM群はRT/RT群より高い濃度を必要とし、報告された群の閾値はアンドロステノンで11倍、アンドロスタジエノンで16倍でした。対照の3種類のにおいでは同じ低感度は見られませんでした。これは今回の群と測定条件の比較で、一人ひとりの感度が固定的にその倍率になるという意味ではありません。

まれな型の細胞反応も人の評価と同じ方向の傾向を示しましたが、人数が少なく、強度や快不快の群差は有意ではありませんでした。細胞で機能差が明確でも、人での違いを確かめるには十分な人数が必要です。

## 「バニラ」という言葉も、選ばれやすさが違った

アンドロステノンの特徴を言葉で選ぶ課題では、RT/WM群はRT/RT群より、吐き気を催すような意味の記述を選びにくく、「バニラ」を選びやすくなりました。低反応の型が、弱さや不快感だけでなく、香りの説明の仕方とも関連した結果です。

これはWMを持つ人全員がバニラと感じるという分類ではなく、提示された記述語が選ばれる頻度の違いです。同じ群の中にも感じ方の幅があります。

興味深いことに、バニリンそのものを嗅ぐ課題でも、RT/WM群は「蜂蜜」「甘い」「バニラ」を選びやすいという副結果がありました。ただしバニリンの強度・快不快に同じ明確な群差があったわけではなく、OR7D4がバニリンに反応すると示された結果でもありません。言葉による香調の評価と、受容体の直接反応は区別して考える必要があります。

## 遺伝子の型は、個人差の一部を説明する

この集団の解析では、OR7D4の型で説明されるばらつきは、対象のステロイド系のにおいの快不快で19％、強度で39％と推定されました。個人の感覚の19％や39％がその遺伝子でできているという意味ではなく、集団内の評定の違いを説明する統計的な値です。

残る違いには、ほかの受容体、経験、神経処理などが関わり得ます。著者らも、一つの受容体の配列だけでは、これらのにおいを感じない人がいる理由を完全には説明できないと述べています。

また、今回調べたのは分子を嗅いだときの知覚です。人への性的な誘引、恋愛の相性、行動を一定方向に動かすフェロモン作用を検証した実験ではありません。研究の成果は、受容体の機能差と、特定のにおいの感じ方の差を具体的につないだことにあります。

## まとめ

OR7D4の低反応型を持つ群では、RT/RT群に比べてアンドロステノンとアンドロスタジエノンが弱く、あまり不快でなく感じられ、検出により高い濃度を必要としました。アンドロステノンを「バニラ」と表す頻度にも違いがありました。

培養細胞で確かめた受容体の働きと、人の知覚の違いが対応したことが、この研究の大きな発見です。同じ分子を嗅いでいても、鼻の入口にある受容体の違いが、共有しきれない感覚の一部を作っていると分かりました。

研究はNIH、Irma T. Hirschl Trust、Marco S. Stoffel Fellowshipなどの支援を受け、Human Pheromone SciencesとInternational Flavors & Fragrancesから一部の試料提供がありました。著者らは金銭的な利益相反があると申告しています。原著は詳細をオンライン別記としていますが、その詳細は今回確認できていません。

**参考文献**

Keller A, Zhuang H, Chi Q, Vosshall LB, Matsunami H. Genetic variation in a human odorant receptor alters odour perception. *Nature*. 2007;449:468–472. [doi:10.1038/nature06162](https://doi.org/10.1038/nature06162)
