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title: "ムスクに敏感な鼻が、別の香りにも敏感とは限らない"
description: "ムスクに反応するOR5AN1の型は、一部のムスクの強さやムスコンの検出閾値と関連。βイオノンに反応する別の受容体遺伝子との連鎖も、香りの個人差を結びつけていました。"
url: https://lechercheurdeparfum.com/musk-ionone-genetic-link-perception/
date: 2026-10-13
modified: 2026-10-13
author: "Root"
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categories: ["香りの科学"]
tags: ["感じ方・記憶・気分"]
type: post
lang: ja
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# ムスクに敏感な鼻が、別の香りにも敏感とは限らない

あるムスクをよく感じる人が、別の香りも何でも強く感じるとは限りません。2023年の研究では、ムスクの一種ムスコンを薄い濃度でも検出しやすい遺伝子の型が、βイオノンを弱く感じる側の型と一緒に受け継がれやすいことが示されました。

研究の出発点は、ムスクの感じ方に大きな個人差がある理由です。研究者たちは、ムスクに反応する嗅覚受容体OR5AN1を取り上げ、細胞の反応、人が感じる強さと快さ、かすかな香りの検出、そして近隣の受容体遺伝子との関係を調べました。

## ムスクは一つの分子の名前ではない

ムスクという香調は、構造の異なる複数の香料が作ります。今回の対象には、大きな環状の分子構造を持つ大環状ムスクのムスコン、エグザルトリド、エチレンブラシレートなどに加え、ニトロムスクのムスクケトン、多環状ムスクのガラクソリドとトナリドが含まれています。

まず研究者たちは、OR5AN1の五つの主な遺伝子の型を培養細胞で比較しました。よく見られるL289F型は、受容体タンパク質の289番目のアミノ酸が変わった型です。この型では、五つの大環状ムスクに対する最大の反応が、基準となる型より大きくなりました。

一方、反応が最大の半分に達する濃度、EC50には、これら五つの大環状ムスクに反応した三つの型の間では、明確な差が見られませんでした。「細胞での反応が大きい」と「より薄い濃度から反応する」は、測っている性質が違います。ムスクケトンでは最大反応の差が見られず、ガラクソリドとトナリドには、試したOR5AN1のどの型も反応しませんでした。

## 強さに差が出たのは、一部のムスクと濃度

人の評価には、ニューヨークで集められた既存の530人分のデータを使いました。90種類の刺激を評価したデータの中から、八つのムスクをそれぞれ二つの濃度で嗅いだ結果を取り出しています。評定尺度の使い方の個人差を小さくするため、一人ひとりの中で強さと快さを順位に直しました。

主な比較は、基準型を二つ持つLLの68人、基準型とL289F型を一つずつ持つLFの239人、L289F型を二つ持つFFの205人、計512人です。

FFの人はLLの人より、エチレンブラシレート、エグザルトリド、ガラクソリドを、特定の提示濃度で強く評価しました。同じ分子でも、試した二つの濃度の両方で差が出たわけではありません。他の大環状ムスクでは有意な強度差が見られず、快さにも遺伝子の型による有意な差は確認されませんでした。

したがって、ここで得られたのは、一部のムスクの強さと受容体の型との結びつきです。ムスクが好きかどうかや、ムスク全般を一様に強く感じるかどうかとは、分けて読む必要があります。

## ムスコンでは、薄い香りを検出できる濃度が違った

ムスコンは、ニューヨークの評定データでは強さの有意差が出なかった香料です。そこで日本の54人を対象に、さらに幅広い濃度を使って検出閾値を調べました。基準型を二つ持つ人は11人、二つの型を一つずつ持つ人は21人、L289F型を二つ持つ人は22人でした。

刺激を二倍ずつ薄めた18段階から、濃度を上げ下げする手順で、どこまで検出できるかを測定しました。少なくとも一日空けた二回の測定の平均を、その人の閾値としています。

その結果、FFの人はLLの人より薄いムスコンを検出でき、LFの人はその中間でした。遺伝子型を用いた回帰では有意な関連があり、調整済みの説明力は14％でした。十分に感じられる濃度での強さを比べる試験と、かすかな香りの境界を探す試験では、個人差の見え方が変わることがわかります。

## ムスクとβイオノンを結んだのは、近くにある別の遺伝子

次に研究者たちは、OR5AN1の近くにある遺伝子を調べました。注目したOR5A1は、βイオノンに反応する別の嗅覚受容体です。2,504人分の公開ゲノムデータでは、ムスクへの反応が大きいOR5AN1の型と、βイオノンへの反応が弱いOR5A1の型が、一緒に現れやすい関係にありました。

このように、近くにある遺伝子の型が独立した組み合わせにならず、まとまって受け継がれやすい関係を、遺伝的な連鎖の観点から調べています。一つの受容体がムスクとβイオノンの両方を受け取っている、という説明ではありません。

日本で行ったβイオノンの強度評価も54人でしたが、ムスコンの閾値試験とは参加者の構成が異なります。βイオノンと基準のにおいであるブタノールをそれぞれ7段階で評価し、βイオノンの評点から基準濃度のブタノールの評点を差し引いて比べると、OR5AN1のFFの人はLLの人よりβイオノンを弱く感じていました。ムスコンを薄い濃度でも検出しやすかった側の型が、βイオノンでは弱い評定と結びついたのです。

著者らは、香りごとの個人差が、それぞれ完全に独立しているとは限らないと考えています。ただし、この結果から個人の感じ方を一対一で当てられるわけではありません。論文でも、ムスコンへの感度が高いことからβイオノンへの感度が低いと必ず予測できるわけではない、と述べています。

## 遺伝子との関連だけでは、受け取り口を確定できない例も

ガラクソリドは、OR5AN1の型と人の強度評定が関連したのに、細胞ではOR5AN1を刺激しませんでした。研究者たちは、近くにある別の受容体遺伝子の型が一緒に受け継がれることで、OR5AN1にも関連が見えている可能性を検討しています。

しかし、調べた近隣の受容体でもガラクソリドへの反応を確認できず、この研究では直接関わる受容体の特定には至りませんでした。また、珍しい機能低下型を持つ人は少なく、それらが「ムスクをほとんど感じない」という個人差を説明するかは十分に検証できていません。

この二点は、遺伝子との統計的な関連、細胞での機能、人の知覚を組み合わせて調べる意味をよく示しています。それぞれを確かめることで、説明できた部分と、次に調べるべき部分が分かれます。

## まとめ

OR5AN1のL289F型は、大環状ムスクに対する細胞の最大反応が大きく、人では一部のムスクを強く感じることや、薄いムスコンを検出しやすいことと関連していました。快さには同じような有意差が見られませんでした。

さらに、この型はβイオノンへの反応が弱い別の受容体の型と一緒に現れやすく、βイオノンを弱く評価する関連もありました。「鼻が敏感」という一言の中には、香りごとに異なる得意・不得意と、遺伝子同士のつながりが含まれています。

研究は日本学術振興会の科研費、日本農芸化学会、JST、米国NIHなどの支援を受けています。高砂香料工業がムスク香料を、長谷川香料が溶媒を提供しました。著者らは利益相反なしと申告しています。

**参考文献**

Sato-Akuhara N, Trimmer C, Keller A, et al. Genetic variation in the human olfactory receptor OR5AN1 associates with the perception of musks. *Chemical Senses*. 2023;48:bjac037. [doi:10.1093/chemse/bjac037](https://doi.org/10.1093/chemse/bjac037).
