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title: "においはわかるのに、違いがわからない？ 鏡像分子を嗅ぐマウスの研究"
description: "鼻の背側のå— 覚神経細胞を欠くマウスでは、においを検出できる濃度でも鏡像分子を識別しにくくなりました。敏感な受容体からのå ¥力の役割を探る研究です。"
url: https://lechercheurdeparfum.com/enantiomer-odor-detection-discrimination-mice/
date: 2026-10-13
modified: 2026-10-13
author: "Root"
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categories: ["香りの科学"]
tags: ["感じ方・記憶・気分"]
type: post
lang: ja
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# においはわかるのに、違いがわからない？ 鏡像分子を嗅ぐマウスの研究

においがあることに気づけても、二つのにおいを嗅ぎ分けられるとは限りません。2015年のマウスの研究では、鼻の一部の嗅覚神経細胞を失ったマウスが、においを検出できる濃度でも、鏡像の関係にある分子を区別しにくくなることが示されました。

この研究は、単に鼻がどこまで薄いにおいを検出できるかを競うものではありません。多数の嗅覚受容体から来る信号のうち、特に敏感な受容体からの入力が、においの違いを見分けるうえで重要なのかを、行動試験と細胞の分析から考えた研究です。

## 鏡に映したような分子を嗅ぎ分ける

右手と左手のように、鏡に映した関係にありながら重ね合わせられない分子を、鏡像異性体と呼びます。分子を構成する原子が同じでも、嗅覚受容体との組み合わせによって感じ方が違うことがあります。

研究者たちは、ワインラクトンとカルボンの二組の鏡像異性体を使いました。比較したのは、通常のマウスと、鼻の嗅上皮の背側という領域の嗅覚神経細胞を遺伝的な操作によって欠くΔDマウスです。後者にも腹側の嗅覚神経細胞は残っています。

大切なのは、二つの課題を分けたことです。検出課題では、においのある試料と溶媒だけの試料を区別させます。識別課題では、二つの鏡像異性体のうち、報酬につながる側を選ばせます。「何かにおう」と「どちらのにおいかがわかる」を、別々に測ったのです。

## Y字の迷路で、検出と識別を測る

マウスはY字の迷路の分岐でにおいを選び、正しい側の先端で水の報酬を受け取るよう訓練されました。試料と報酬の位置は左右で入れ替え、空気の流れや試料の補充、前のにおいを除く時間も管理しています。

最初は通常群の雄9匹、ΔD群の雄7匹から訓練を始め、3〜4か月の間に課題を十分に学べなかった個体などを除き、各群6匹を解析しました。主要な比較は1匹18試行、6匹で108試行です。百倍ずつ薄めた試料を用い、正答率が偶然の50％より統計的に高い最も薄い濃度を、検出・識別の閾値としました。

これらは、十分に訓練し、選抜した少数のマウスでの結果です。通常群とΔD群では系統の遺伝的背景も完全には同じではありません。また論文の非常に低い濃度は、においを発生させる溶液の公称濃度であり、マウスの鼻に届いた空気中の濃度を直接測った値ではありません。希釈は分析装置で確認できる範囲でも調べられましたが、装置の検出限界は約10 ppbで、極端に薄い試料の量を直接確かめた測定とは区別する必要があります。

## 背側の細胞を失うと、二つの課題への影響が違った

通常のマウスは、ワインラクトンとカルボンのどちらの組でも、薄い濃度で検出と識別ができました。ΔDマウスでは検出感度が低下しましたが、その低下は鏡像異性体の両側で同じではありません。どちらの分子の組でも、マイナス型に比べ、プラス型の検出が大きく影響されました。

さらに大きな変化は識別に現れました。ΔDマウスは、一方または両方の分子を検出できる広い濃度範囲でも、その二つの違いを選び分けられませんでした。鼻全体がにおいを感じなくなったのではなく、存在を検出する能力と、種類の違いを見分ける能力が離れたのです。

例えばカルボンでは、通常群の識別閾値は溶液の重量比で10−19、ΔD群では10−9と報告されています。ΔD群も濃度が高くなると識別できたため、鏡像異性体をいつでも全く区別できないという結果ではありません。

ワインラクトンでもΔD群の識別は大幅に低下しました。ただし通常群の識別閾値は、表1と図1では10−17、結果本文では10−19と記載が食い違っています。細かな倍率を一つに断定するよりも、検出能力を残しながら識別が強く損なわれたという、両課題の差が重要です。

## 細胞の反応から考える「重要な入力」

研究には、別のマウスから取り出した嗅覚神経細胞のカルシウム反応を測る実験や、受容体が鼻のどこに分布するかを調べる実験も含まれています。

ワインラクトンに反応する受容体の構成は、カルボンより少数に絞られていました。また、カルボンに特に敏感な神経細胞の一部に、背側領域の特徴が確認されました。背側の細胞をまとめて失うことで、違いを見分けるのに重要な、敏感で選択性の高い入力が欠けた可能性を支える結果です。

比較用の別のにおい物質nTMTについては、両群とも高い検出感度を保っていました。背側の神経細胞を失った影響が、すべてのにおいに同じ大きさで及ぶわけではないことも示されています。

## 著者らが提案した、信号に重みをつけるモデル

一つのにおいは、複数の嗅覚受容体の反応の組み合わせで表されます。ただし、よく似た分子では反応する受容体が大きく重なるため、単純に「反応した受容体の一覧」だけを見ると、区別の手掛かりが小さくなります。

著者らは、特に敏感で、その分子によく反応する受容体からの信号を、脳が重く扱うという階層的なモデルを提案しました。早く届く強い入力が、においの特徴を優先的に作り、後から届く似通った入力を抑えるなら、反応の重なりが大きくても違いを見分けられる、という考え方です。

ΔDマウスでは、その優先される入力が失われ、二つの分子に共通する信号が中心になったと説明します。ただし、論文で描かれた信号の到着順は、受容体の反応量などから推定したものです。脳までの応答時間や、提案した抑制回路を直接測って、モデル全体を実証したわけではありません。

著者らは、人のワインラクトンへの感度の非対称性も、敏感な受容体の有無から説明できる可能性を挙げています。この部分は既報のヒトデータと今回のマウスを比べた仮説で、人の鼻に同じ欠損があることを検証した結果ではありません。

## まとめ

背側の嗅覚神経細胞を欠くマウスでは、ワインラクトンやカルボンの存在を検出できても、鏡像異性体同士の違いを識別しにくい濃度範囲が生まれました。においの検出と嗅ぎ分けには、同じように見えて異なる条件が必要だとわかります。

細胞の反応と分布の分析を合わせ、著者らは、特に敏感な受容体からの入力を重視する仕組みが、細かなにおいの違いを支えると提案しました。何種類の受容体が反応するかだけでなく、どの入力が残り、どの入力が失われるかが重要だと考える手掛かりです。

研究は科研費、経済産業省、高砂香料工業の研究費による支援を受けています。研究当時、共著者の一人は高砂香料工業に所属していました。確認した原著本文には、独立した利益相反声明は見当たりません。

**参考文献**

Sato T, Kobayakawa R, Kobayakawa K, et al. Supersensitive detection and discrimination of enantiomers by dorsal olfactory receptors: evidence for hierarchical odour coding. *Scientific Reports*. 2015;5:14073. [doi:10.1038/srep14073](https://doi.org/10.1038/srep14073).
