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title: "大麻の強いにおいと、ビールの日光臭をつなぐ分子"
description: "主要な香り成分だけでは足りなかった特徴臭。二次å ƒガスクロマトグラフィーと再現実験で、微量の硫黄化合物とその時間変化を調べた研究です。"
url: https://lechercheurdeparfum.com/cannabis-prenyl-sulfur-aroma/
date: 2026-10-13
modified: 2026-10-13
author: "Root"
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categories: ["香りの科学"]
tags: ["香料を知る・つくる"]
type: post
lang: ja
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# 大麻の強いにおいと、ビールの日光臭をつなぐ分子

植物の香りを調べると、量の多い成分より、わずかな成分が「その植物らしさ」を決めていることがあります。大麻の花に特有の、スカンクを連想させる強いにおいも、その一例でした。

2021年の研究は、微量の硫黄化合物を詳しく分析し、中心となる成分を見つけました。それは、光で劣化したビールのいわゆる日光臭でも知られる分子です。さらに、抽出物に残るか、生育や保存の間にどう変わるかまで追跡しています。

## テルペンだけでは説明しきれなかった特徴臭

大麻の香りには、ミルセン、ピネン、リモネン、カリオフィレンなど、テルペン類が多く含まれます。木、柑橘、花などを思わせる香りの違いには、こうした成分が関わっています。

ところが、それらを調べても、強いスカンク様のにおいの由来は十分に説明できていませんでした。研究者は、少量でも強く香ることのある「揮発性硫黄化合物」に注目します。硫黄原子を含み、空気中へ出てにおいを運ぶ物質の仲間です。

狙いは、特徴臭の成分を特定し、人が嗅いだ印象との対応を確かめること。そして、花以外の抽出製品にも同じ成分があるか、生育から収穫後にかけて量がどう変わるかを調べることでした。

## 二段階の分離と、硫黄を捉える検出器

複雑な香りの混合物では、成分を一度分離するだけでは、微量の物質がほかのピークに隠れることがあります。この研究では、性質の異なる二つの分離カラムを組み合わせる「包括的二次元ガスクロマトグラフィー」を使いました。

さらに、分子の手がかりを得る質量分析計、量を測る検出器、硫黄を含む成分に敏感な検出器を併用しました。多量にある香り成分と、微量の硫黄系成分をそれぞれ捉えるため、試料の調製方法も分けています。

比較したのは、複数の品種からなる13試料です。この中には、同じ「Gelato」のロットを異なる保存日数で測った二つの試料が含まれます。訓練を受けた4人は、試料名を伏せた状態で、特徴的な強いにおいを0〜10で評価しました。

分析で見えてきたのは、共通する「プレニル基」という炭素の骨格を持つ硫黄化合物の仲間でした。論文ではVSC3〜VSC7と番号を付け、それぞれを標準物質と照らして確認しています。

## 鍵になったのは、ビールの日光臭でも知られる分子

中心となったVSC3は、3-メチル-2-ブテン-1-チオールという物質です。ごく薄くしても、強い硫黄・スカンク様のにおいを持ちます。試料間では、この成分が多いほど、特徴臭の評価も高い傾向がありました。

特徴臭が強かった「Bacio Gelato」ではVSC3をはじめとする硫黄系成分が多く、穏やかな木質系の香りだった「Black Jack」では、同じ成分群が検出されませんでした。多くの試料で、ほかのプレニル系硫黄成分もVSC3に近い増減の傾向を示しました。

このVSC3は、ビールが光の影響で好ましくないにおいを持つ「日光臭」の主要成分としても知られています。植物の特徴臭と飲み物の劣化臭が、一つの分子でつながったわけです。同じ分子でも、周囲の香り成分や、何を嗅いでいるかによって、全体の印象は変わります。

今回見つかった仲間にも違いがありました。VSC5も強いスカンク様の香りを持つ一方、VSC6とVSC7はより穏やかで、ニンニク類を思わせる香りと評価されました。硫黄を含むという共通点の中に、強さと質の幅があります。

## 主要10成分に、微量を足して確かめる

成分量とにおいの評価が対応するだけでなく、その物質を加えると特徴臭が現れるかも調べました。研究者はBacio Gelatoの主要10成分を、分析で得た割合に基づいて混ぜ、香りを再現しました。

この混合物は大麻の花を少し思わせましたが、特徴的な強いスカンク様のにおいは足りませんでした。そこへVSC3を微量加えると、大麻の花の香りにぐっと近づいたと評価されました。

VSC3を単独で嗅いだときの硫黄様の印象が、ほかの主要成分と合わさることで、その植物らしい香りになります。研究者はこの再現実験を、VSC3が特徴臭の主な担い手である根拠にしています。量の上位にある成分を並べるだけでは、香りの決め手が抜け落ちることを示す結果です。

## 抽出物にも残り、生育と保存で変化した

研究では、濃縮抽出物3試料も調べました。いずれにもVSC3とVSC5が見つかり、強い特徴臭が評価されました。二つの試料では、花で中心だったVSC3よりもVSC5の濃度が高く、加工後には成分の比率が変わることも分かりました。

続いて、管理された室内環境の4株を経時的に調べました。特徴臭に関わる硫黄系成分は開花期の後半から検出され、成熟に向かって急に増えました。主要な複数の成分は、収穫後の乾燥などの処理を終えた時点で最も高くなりました。

ところが、その後10日間保存すると、多くの成分は大きく減少しました。VSC5は例外で、直前の値と同程度に保たれていました。においの評価も弱くなっており、揮発しやすい成分の変化と対応しています。

この結果は、香りを比べるときに品種名だけでなく、測定した時期や試料の状態も重要だと教えてくれます。実際、最初の13試料では、保存日数、包装、生育条件がそろっていません。そこで見つかった量の違いには、遺伝的な違いと保存などの影響が重なっています。

## 香りの化学として、どこまで分かったか

研究の強みは、微量成分を探す分析、人の鼻での評価、香りの再現、時間変化の追跡がつながっている点です。一方、官能評価は4人によるもので、受容体での作用や、幅広い人の好みまで測ったものではありません。

著者は、今回の成分群とニンニクの硫黄成分の構造が似ていることにも注目し、将来の生物学的な研究課題を挙げています。今回実際に測ったのは成分と香りであり、健康への効果は未検証です。また「スカンク様」はにおいの表現で、スカンクの分泌物と全成分が一致することを意味しません。

## まとめ

大麻の花の強い特徴臭には、テルペン類に加えて、微量のプレニル系硫黄化合物が重要でした。とくに3-メチル-2-ブテン-1-チオールは、主要成分の混合物に加えることで、大麻らしいにおいを再現する鍵になりました。

関連成分は抽出物にも残り、生育の後半から収穫後、保存へと量を変えていました。香りの正体を知るには、「何が多いか」だけでなく、「少量でも何が効くか」と「いつ測るか」の両方を見る必要があることを示した研究です。

著者にはAbstrax Techなど企業の所属者が含まれます。関連する特許出願が開示されており、研究には外部資金を使用していないと記載されています。

**参考文献**

Oswald IWH, et al. (2021). Identification of a New Family of Prenylated Volatile Sulfur Compounds in Cannabis Revealed by Comprehensive Two-Dimensional Gas Chromatography. *ACS Omega*, 6, 31667–31676. [原著論文](https://doi.org/10.1021/acsomega.1c04196)／[公開全文](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8638000/)
